見出し画像

タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉗

「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》腹の虫


前略

 私は、おなかの中で乳酸菌を飼っている。牛乳とヨーグルトを湯煎して保温鍋で作り、毎日欠かさず腸の中に乳酸菌を入れる。彼らは、ヨーグルトの味のようにマイルドでさわやかな生き物だと感じている。私の腸の中に彼らが住んでいると、私も彼らのように爽やかではつらつとした人になるような気がする。
 もしも、腸内細菌と体が似るとしたら、マウンテンゴリラは腸の中にどんな微生物を飼っているのだろう。筍やジャンボセロリを主食にしていて筋肉の塊のような体を維持できるのは、なぜなのか考えたときに、最初に腸の中の微生物の働きではないかと考えた。動物は食べることでタンパク質を取り入れて筋肉をつけている。近頃は、プロテインが売られていて簡単にタンパク質が得られ、筋肉をつけたい人、スポーツマン、リトルリーグの少年も
利用している。
 けれど、マウンテンゴリラはタンパク質をたっぷりとっているとは思えない。

中略

 タンパク質を多く摂取する現代人と、ジャンボセロリとタケノコをたくさん食べているゴリラの体格の差は何だろう。マウンテンゴリラの方が膵臓や、胃腸の働きが優れているのだろうか。繊維の多いタケノコやジャンボセロリはカロリーが少ないので大きな体を維持するためには大量に食べなくてはならず、胃腸には、かなりの負担があるだろう。けれどそれを十分に消化出来る能力がマウンテンゴリラの腸にはある。繊維により掃除され繊毛に覆われた腸壁はきれいで、油を取らないので胆のうにも負担が少ない。食物繊維が餌となり善玉菌が多く住んでいるだろう。
 マウンテンゴリラが強くたくましい体を持っているのは体質だろうけど、傾斜地を4足歩行することや土地に住む細菌も関係していると思う。土や水に含まれているその土地だけの細菌を、タケノコやジャンボセロリを洗わず、調理せず生えているまま食べることで取り入れ、腸に住まわせているのではないだろうか。
 私は想像する。マウンテンゴリラの腸の中を。そこは、食物繊維の鬱蒼としたジャングルで、家族で群れを作り穏やかに暮らしているマウンテンゴリラのような細菌が住んでいる。
 さらに、マウンテンゴリラの細胞の中には核やミトコンドリアやリボソームなどが、それぞれの役割を担い共生しマウンテンゴリラの一部となっている。まるでマトリョーシカのようにマウンテンゴリラはできていて、そして、そのマウンテンゴリラは地球の一部になっている。
 地球は細胞がしているように、たくさんの生き物が共生している。一個の細胞のような地球は、宇宙の一部で、宇宙にはたくさんの星や、星雲や、銀河や、ブラックホールがある。宇宙も何かの一部なのだろうか。
 宇宙は、胎内だと思う。育むことと、生きることのみを意志とする世界で、その意志は星にも、細胞にもある。
 大きく膨らんだ腹に手を当て母は心音を確かめると、満たされた優しさで微笑む。
 長い長い年月の中で、再生を繰り返す星たちの、鼓動が聞こえる。


「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》腹の虫より一部抜粋。
2021年8月に自費出版いたしました。コチラから購入できるようになっています。よろしければ、ご覧ください。

                              星原理沙


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?