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Vulfpeck(ヴォルフペック)結成時の物語――なぜ、最初のPV「Beastly」は動画の編集テイストが全く違うのか?

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、13回目の連載になる。では、講義をはじめよう。

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ミニマルファンクバンド「Vulfpeck」について何度も連載で記事をお届けしているが、意外とその結成時の物語があまり語られていないことに気が付いたため、今回はそこをしっかりとまとめていきたいと思っている。

「DJ Paradiddle」名義で開設されたYouTubeチャンネルーー現在の「Vulfチャンネル」に最初に投稿されたVulfpeckの動画を軸にして語ることで、彼らの初期のサクセス・ストーリーをご理解いただけるのではないかと思う。

※「DJ Paradiddle」名義については過去記事を参照

Vulfpeck最初のPV

こちらが、最初のVulfpeckの楽曲、「Beastly」だ。

撮影は2011年。これは2019年のライブでも演奏された人気の楽曲だが、この動画は明らかにVulfpeckのいつものラフな動画(👇)とテイストが違う。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=le0BLAEO93g

通常のVulfpeckの動画撮影は基本的にiPhoneのワンカメラ・ワンショットで撮影され、映像もあえてローファイで低画質になるようにコントロールしている。ただでさえ低画質なのに、さらにそこに編集で超拡大のズームをかけてくるのがリーダーのジャック・ストラットンの編集術だ。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=72_zXigcOrA

前述の「Beastly」では、カメラはiphoneのポートレートモードのような意図的な「ぼけ」が発生しており、引きの絵で確認するとかなり良いビデオカメラが使われていることが分かる。通常、Vulfpeckの動画はそこまで高機能なカメラで撮影されることはないし、またこんなに広くてきれいなスタジオで撮影されることもない。(スクリーンショット👇)

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=KQRV0c1KXYc

では、この動画はいったいどういう経緯で撮影されたものなのか?最初の動画はお金を出して、ちょっと奮発してプロの撮影隊に頼んじゃいました、的なアレなのだろうか?

という話をするために、まずVulfpeck結成前のメンバーについて少し寄り道をしておきたい。

Vulfpeckメンバー、結成前の物語

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Jack Stratton(ジャック・ストラットン):Dr, Key, Gt

ジャック・ストラットン。Vulfpeckのリーダーで、現在、動画編集・撮影・マスタリング・プロデュース業・宣伝活動など、その業務のほとんどを手掛けている。もちろん作業については他の人間が担当することもあるが、動画編集は基本的に、常に彼が担当している。

ジャックはオハイオ州クリーブランド生まれ。ユダヤ音楽を演奏していた父のバート・ストラットンの影響で、彼は7歳でドラムを始め、13歳になるころには父と一緒にライブを行っていた。同時にギター、ピアノも習得し、さらに母親の影響で、初めてファンクとソウルを知る。(経歴出典:Interview with Vulfpeck’s Jack Stratton

My mother’s an aerobics teacher — she teaches yoga too — and she always told me to eat slowly, small bites. Much healthier. But, more importantly, she’s the one who first got me listening to Stevie Wonder, Kool & The Gang, The Jackson Five and Earth, Wind & Fire. The good stuff.

ジャック : 母はエアロビクスの先生で、ヨガも教えていた。母はいつも、ゆっくりよく噛んで食べなさい、そのほうが体に良いわよと言い続けて―いや、もっと重要な話は、母は私に、スティービー・ワンダー、クール&ザ・ギャング、ジャクソン・ファイブ、アース・ウィンド&ファイアーなどの最高な音楽を聴かせてくれたんだ。(出典:https://medium.com/@RobertJon/vulfpeck-from-jazzism-magazine-488ac32acfaf

この後、ジャックは15歳でバークリー大学のサマー・プログラム(ソウライブのエリック・クラズノーやレタスのメンバーも参加した、外部の人間が参加可能な夏期講習)に参加する。ここはアメリカ中のミュージシャンを目指す学生の天下一武道会のようなもので、当然ここに参加する彼の力量は相当なものであった。

そして、ミシガン州南部アナーバー(Ann Arbor)にある、ミシガン大学音楽学部に入学。同校のパフォーミング・アーツ・アンド・テクノロジー(PAT)プログラムを専攻し、主にレコーディング技術について学び、2010年に卒業した。ジャックはここで、2008年にGroove Spoonという大人数のファンクバンドを結成している。(出典:「No Label, No Problem」

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=qFGRuqMBeEQ

Groove SpoonはVulfpeckの前身となるバンドで、コンセプトは全く違うが、ジャックはここでソウル&ファンクバンドのリーダーとしての腕を磨いていた。そして、このバンドは後にVulfpeckの核となる重要なメンバーが在籍していたのである。

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Joe Dart(ジョー・ダート): B

ジョー・ダートはミシガン州北部生まれ。彼が8歳の時に両親がベースを買い与え、音楽一家の中のベーシストという役割を与えられて成長していった。幼い頃からファンクやソウルに傾倒し、またレッチリのフリーにも大きな影響を受けながら、14歳になるころには自分の道がベーシストにあることを強く意識したという。(経歴出典:ベースマガジン2019年10月号)

高校を卒業し、2009年からミシガン大学音楽学部でジャズ・プログラムを専攻。入学して1週間でジャックと出会い、その後Groove Spoonのメンバーになる。ちょうどGroove Spoonはベーシストが不在になったばかりであった。

ジャックの大学の友人が、ジョー・ダートが高校時代に演奏した録音(Myspaceで。懐かしい!)を聴かせてくれて、それを聴いたジャックは衝撃を受けたと言う。

“That’s when I freaked out,” Stratton recalled. “I actually freaked out in a visible, potentially making everyone uncomfortable, way. I had to take a breather. It was warranted because it was definitely a turning point. I told Theo that this kid was a freak. So Joe then played with us in Groove Spoon."

「あの時はとても興奮した」とジャックは語る。「私は興奮を抑えられず、落ち着くために一息ついた。これは間違いなく転機になる。私は彼に、”こいつはヤバいぜ”と返した。そして、ジョーは私のバンドで演奏してくれるようになったんだ」(出典:http://tomorrowsverse.com/story/who-is-vulfpeck-27695.html

2009年秋に入学、このGroove Spoonの動画は2009年11月。つまり、ジョー・ダートはこの時点でまだ18歳。とんでもない才能であり、ジャックが夢中になるのも頷ける。

さらに、ジャックにジョー・ダートを紹介した友人――彼こそが、Vulfpeckメンバーになる、テオ・カッツマンであった。

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Theo Katzman(テオ・カッツマン):Dr, Gt

テオは1986年4月2日、ニューヨーク州ロングアイランド生まれ。父はプロのジャズトランペッター、リー・カッツマン。

彼の名は日本語ではテオと表記されることが多いが、綴りがTheoであることからも分かるように、本当はティオセオ、などが正しい発音である。(生年月日出典:https://twitter.com/theokatzman/status/583657467663396864

12歳の頃からドラムを演奏し、その後ギターも弾くようになる。ジョー・ダート同様、やはりミシガン大学音楽学部でジャズを専攻していた。(経歴出典:「Can't Fake the Funk」

家ではギターを弾いて歌い、作曲をする一方、学校ではドラムをプレイするっていう高校生活だったね。その後、幸運にも奨学金を得てミシガン大学にドラム専攻で入学できたんだけど、すぐにギターに転向したほうがいいって言われてしまって(笑)。(出典:ギターマガジン2020年5月号)

テオは在学時からMy Dear Discoというファンク・ポップバンドに在籍。メンバーは全員がミシガン大学の学生や卒業生であった。そこで数年間を過ごし、2010年にバンドを離れ、自身で弾いて歌うシンガーソングライターへとキャリアをシフトさせている。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=dueu04UOfx8

画像中央がテオだ。こんな時代もあったのである。My Dear Discoは、テオとは別時期にジョー・ダートも在籍。

そしてミシガン大学には、もう一人Vulfpeckのメンバーになる重要人物がいた。

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Woody Goss(ウッディー・ゴス):Kb

ウッディーはイリノイ州スコッキー出身。ピアノ奏者の父のもとで7歳からピアノに目覚め、13歳になる頃にはセロニアス・モンクに影響されてジャズを弾くようになっていた。(経歴出典:「Can't Fake the Funk」

“Middle school and high school, Jazz was pretty much my whole world,” Goss said. “Then I got into funk really hard in high school — like George Clinton, Sly and the Family Stone and James Brown.”

「中学、高校時代はジャズが私の世界のほとんどだった」とゴスは語る。「それから高校では、ジョージ・クリントン、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ジェームス・ブラウンなどのファンクに夢中になったんだ」(出典:http://tomorrowsverse.com/story/who-is-vulfpeck-27695.html

2008年にミシガン大学音楽学部に入学、ジャズを専攻。そして同じ専攻だったテオと一緒にジャズを演奏したり、またジャックに誘われてGroove Spoonのセッションに参加したこともあったという。

“It’s so soulful,” said Stratton of Goss’ playing. “He approaches piano very different from me. Where I’m kind of a parts player, he won’t play the same part twice any given take.”

ジャックはウッディについて「とてもソウルフルだよ。彼は私とはピアノのアプローチが非常に違うんだ。彼は同じ個所を毎回違うように演奏してみせた」と語る。(出典:http://tomorrowsverse.com/story/who-is-vulfpeck-27695.html

これら全員がミシガン大学音楽学部に入学しており、ジャックと面識があった。そして全員が、大学の有名人として名前の知れたプレイヤーだったと言う。

テオは2008年に、ジャックは2010年にミシガン大学を卒業。ジョーも、My Dear Discoのツアー帯同を理由に、2010年に大学を中退。(卒業年度出典:Jack & Theo /// http://alumnus.alumni.umich.edu/no-label-no-problem/ Joe /// https://www.youtube.com/watch?v=WO12j2-ga4w

ジャックはプロミュージシャンになりたいという夢はあったが、Groove Spoonは大人数編成でツアーを行うことは多額の費用がかかるため、Groove Spoonではプロになることができないだろうということをジャックは理解していた。(出典:「Can't Fake the Funk」

そして2011年、ジャックの元に友人からある依頼が入ったことで、彼らの運命は動き出していく。

Vulfpeck誕生秘話

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ジャックはオーディオ・エンジニアの学科に通っているジェイク・バーチという友人から、卒業課題でジャックの演奏を録音させてほしい、という依頼を受けた。これを受けてジャックは、Groove Spoonではなく、何か新しい形でこの演奏に望めないか、と考える。

そしてここで、ジャックはVulfpeckのバンドコンセプトの核となる「ミニマルファンク」――つまり、引き算のファンク、「ミュンヘンのモータウン」というアイデアを思い付いた。その具体的な内容については私の過去の記事を参照されたい。

この時のジャックのアイデアを簡単に表すと、「そこにヴォーカルがいる、というふりをして演奏する、ヴォーカル無しのファンクバンド」という、かなり奇妙なものだった。かつて、何十年も前にモータウンでファンク・ブラザーズがやったような仕事のやり方だ。しかし、モータウンはその録音にヴォーカルを後から乗せてリリースしている。そういう点で、そのヴォーカル無しの状態を完成品にしようという彼のアイデアは非常に画期的だったと言える。

ジャックはこの閃きに確信を持ってメンバーを集める。そこで選ばれたのが、同じ大学で知り合い、彼がミュージシャンとして信頼していた、ジョー・ダート、テオ・カッツマン、そして卒業を間近に控えていた、ウッディー・ゴスであった。

僕(筆者注:ジョー・ダート)とテオとウッディにジャックからメールが送られてきたけど、その時点では僕はまだ彼らとはプレイしたことがほとんどなかった。ただ”オーディオ・エンジニアの学科に通っているジェイク・バーチという友人の卒業課題のために君らに集まってほしい。君たちを集めてテープに録音して、オールドスクールなやり方で仕上げたい”とメールをもらったんだ。(出典:ベースマガジン2019年10月号)

そうして、彼らはジャックに集められてスタジオに入る。そしていざ演奏となるが、なんとジャックが思いついた「ミニマルファンク」のアイデアは突飛すぎて、この段階ではまったく、誰にも理解されていなかった。

We were all living in Ann Arbor, more or less in the music school. We were pretty spread out, age-wise, A friend in the music school wanted to do a session in the Duderstadt (Center). … He sent out an email, and I’d had an idea for a rhythm section called Vulfpeck, which came from reading this (Audio Engineering Society) magazine article, an interview with Reinhold Mack, who’s this German recording engineer. The idea was, we were his rhythm section, doing some kind of German version of Motown, and we’d channel that era of the live rhythm section. No one really understood it, so I also sent a long interview about the song “I’ll Take You There,” by The Staple Singers. No one knew about Muscle Shoals (Rhythm Section, featured on the song), so no one read it. But when we got in the studio, it all became clear, and since then, it’s become much more clear.

ジャック:僕たちはみんなアナーバーに住んでいて、みんなで音楽学校に通っていたんだ。学校の友達がデュダーシュタット・センターでセッションをしたいと言ってきた。彼がメールを送ってきて、僕はVulfpeckというリズムセクションのアイデアを思いついたんだけど、それはAudio Engineering Societyという雑誌の記事、ドイツのレコーディング・エンジニアであるReinhold Mackのインタビューを読んだ時に思いついたんだ。この時のアイデアは、僕らがReinhold Mackのリズム・セクションになって――その時代のリズム・セクションを再現して、例えばドイツ版モータウンのようなバンドを作る、というものだった。でも誰もそれを理解してくれなかった。仕方なく、The Staple Singersの "I'll Take You There"という曲についてのロング・インタビューも送ったんだ。でもMuscle Shoals (この曲でフィーチャーされているリズム・セクション)のことは誰も知らなかったから、やっぱり誰も読んでくれなかった。でもスタジオに入ってみたら、みんな一気に理解してくれて、そこからはずっとその調子だ。(出典:https://www.mlive.com/entertainment/ann-arbor/2014/05/vulfpecks_jack_stratton_talks.html

今でこそメンバーの全面的な信頼を受けてミニマルファンクのサウンドに邁進している彼らだが、ここの場面を想像するとちょっと面白い。やはりアイデアが突飛すぎたのだ。

だが、さすがミシガン大学音楽学部で有名なプレイヤーを集めているだけあり、一瞬でそのコンセプトに即した演奏ができている。演奏がうまくいったことで、さらにジャックはバンド名を「Wolf Pack」のドイツ語読みにすることを思いついた。(出典:ベースマガジン2019年10月号)

この瞬間、Vulfpeckは誕生した。


なぜ「Beastly」は動画の編集テイストが違うのか?

ビデオ・クルーも交えて、今でもライブでやっている「Beastly」を録った。映像にはメモが映り込んでいて、そこには”A→ベース・ソロ→A→ベース・ソロ→A→ベース・ソロ”って、笑っちゃうような内容が書いてあるよ(笑)。(ジョー・ダート インタビュー 出典:ベースマガジン2019年10月号)

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=KQRV0c1KXYc

ジャックはIf You Want Me To Stayのようなシンプルな構成の曲で作曲することにも非常に興味があったため、この時の作曲もやはり非常にシンプルな手法で作られている。(出典:Vulfpeck Keep It Beastly

この日は、「Beastly」「Prom」「Rango」の3曲がレコーディングされた。

しかし、この時はジャックの友人、ジェイク・バーチの卒論課題のための集まりであり、プロジェクトの最終的な決定権はジャックではなく、ジェイクにあった。本来は動画を撮影する予定ではなかったというが、ジェイクの決定により、この即席バンドは急遽、レコーディング風景がそのまま録画されることになった。

“We didn’t even know it was going to be videotaped,” Goss said. “I remember Jack originally didn’t really like it (being videotaped), because he thought it would kill the vibe.”

「ビデオに撮られることになったことすら知らなかった 」とゴスは言う。「ジャックは元々(ビデオ撮影されることを)嫌がっていたのを覚えている。それは雰囲気を壊すと思っていたからだ」
(出典:http://tomorrowsverse.com/story/who-is-vulfpeck-27695.html

”Jack actually didn’t even want to film it,” Dart said. “But somebody else had an idea to film it for the thesis, and strangely that ended up what made the band. We didn’t know it was a band, or that it would have a name or that it would be filmed. That first session created the band without even trying.

「ジャックは実際にはそれを撮影したいとさえ思っていなかった」ジョー・ダートは語る。「でも誰かが卒論のために撮影することになって――不思議なことにそれが、バンドを作ったものになってしまった。僕たちはそれがバンドだとは知らなかったし、名前があるとも知らなかったし、撮影されるとも知らなかったんだ。最初のセッションで、何の努力もせずにバンドが出来上がったんだ。(出典:http://tomorrowsverse.com/story/who-is-vulfpeck-27695.html

VulfpeckのYouTubeチャンネルには、この時の動画は「Beastly」しかアップされていないが、この演奏を卒論に使用したジェイク・バーチのYouTubeチャンネルには、「Prom」「Rango」もアップされている。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=c8yCEZdPVSc

これは「Rango」の動画の詳細画面だが、ここでジェイク・バーチが動画の編集者であることが名言されている。ジェイクが撮影して、自分の卒論に使うのだから当たり前なのだが――この「Rango」はジャックが動画編集を行っていない。

そして、「Beastly」も「Rango」と全く同じ編集テイストになっている。ただ最初のジングルがVulfpeck用になっているだけだ。編集者が誰か、Beastlyの動画には記されていないが、この流れを見れば答えが分かるだろう。

つまり「Beastly」も、ジェイク・バーチが自分の卒論のために編集した動画なのである。これが「Beastly」の動画が編集テイストが異なっている理由だ。

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ジェイク・バーチ 画像出典:https://twitter.com/JakeDBirch

Vulfpeckのサクセス・ストーリー

Vulfpeckという名前は決まったが、当初は本当に友人の卒論制作に関わったというだけで、そもそもこれをきちんとしたバンドとして運営していくということは、当のジャックですら真剣に考えてはいなかった。

しかし作品の出来上がりには満足し、動画はYouTubeで公開されることになった。前述のとおり、「Beastly」を自分のチャンネルで公開することにしたジャックだが、そこには意外なことに、この音源を購入したいというコメントが付き始めた。

As the initial videos began to collect views (Beastly currently has close to 373,000 views) thanks to the jam and the vibe emanating from the quartet, requests for the song to be available to purchase began piling up in the comments section. Stratton obliged.

そのカルテットから生まれた音楽によって、最初のビデオの再生回数が増え始めると(「Beastly」は37.3万回近く再生されている)、コメント欄には曲を購入できるようにしてほしいというリクエストが殺到し始めた。そして、ジャック・ストラットンはそれに応えた。(出典:http://tomorrowsverse.com/story/who-is-vulfpeck-27695.html

そしてジャックは再びメンバーを集め、さらに3曲をレコーディングして、アルバム「Mit Peck(2011)」を発売。「Vulf Recoreds」という架空のレコード会社を設立、そこからアルバムが発売しているかのように見せかけた。実際は配信によるリリースのみだったので、まだレーベルは存在していない。このやり方も、「架空のヴォーカルを想定する」というバンドコンセプトに沿ったものとも考えられて、非常に面白い。

"I deemed (Vulfpeck) successful back in 2011 when I opened up our iTunes and there was a 100 bucks in it, un-promoted and unsolicited,” Stratton said. “I strive to have low expectations for the group, and we’ve easily exceeded them every step of the way. (Vulfpeck) is well beyond my expectations. It feels great.”

「2011年にVulfpeckが成功したと判断したのは、私たちのiTunesを開いたときだった。そこには100ドルが入っていた。宣伝もしなかったのに――まったく予期しなかった結果だった。」とジャックは語る。「私はグループに対してあまり期待しすぎないようにしているけれど、Vulfpeckはすべてのステップで簡単にそれを超えた。期待をはるかに超えた成功、最高の気分だった。(出典:http://tomorrowsverse.com/story/who-is-vulfpeck-27695.html

こうして、本当の意味でVulfpeckはバンドになり、活動がスタートした。しかし、しばらく費用を抑えたレコーディングと配信のみで活動していく。なんと、ジャックは十分なファンをインターネットで獲得するまで、最初のうちはライブも行わなかった。

ジャックはGroove Spoonで成しえなかった持続可能なバンド経営を実現させるために、セルフ・プロデュースという形でレコード会社との契約を目標にせず、活動を続けていく。

So that’s one arbitrary rule that I put in place is that we’re not playing until it’s sold out, which has been the case for us. This is a really exciting time where live performance can actually pay for the trip. I would recommend new bands try to build an audience on the internet first.

ジャック:私がVulfpeckで決めたルールは、「会場がソールドアウトできるまではライブをしない」です。おかげで、ライブのギャラでツアー費用を賄うことができました。新しいバンドには、まずインターネットでオーディエンスを作ることをお勧めしたいです。(出典:https://jambands.com/features/2014/01/12/vulfpeck-keep-it-beastly

I’ve developed some ground rules over the years that I would recommend to other starting bands as well, since they’ve worked so well for me. Like not doing covers. We do some, but we don’t put any on the albums. You don’t want to be kown for a cover. Another rule is that I never — ever — would sign a deal at a record label. You should keep everything under your own management.”

ジャック:何年もかけていくつかの基本的なルールを作ってきましたが、それは他の新しくスタートするバンドにもお勧めしたいことです。例えば、Vulfpeckはカバーをしない。ライブでは演奏するけど、アルバムには入れない。私たちはカバーで有名になりたくないからです。もう一つのルールは、レコード・レーベルとは絶対に、ぜ・っ・た・い・に・契約しないということ。すべてのことを自分の管理下に置くべきです。(出典:https://medium.com/@RobertJon/vulfpeck-from-jazzism-magazine-488ac32acfaf

Stratton: “I’m the only one in the band who’s always been interested in the business side of making music. Spotify is a good source of income because we own all the rights. That wouldn’t be the case if we’d be signed by a label

.ジャック:バンドの中で、音楽を作る上でのビジネス面に常に興味を持っているのは私だけです。Spotifyはすべての権利を所有しているので、良い収入源になっています。レーベルと契約していたら、こうはいかない。(出典:https://jambands.com/features/2014/01/12/vulfpeck-keep-it-beastly

So Vulfpeck kind of represents a space where we can achieve stuff independent of any financial risk and it actually is pretty profitable because it’s insanely low cost. I mix it I, release it, I do the design, the videos, and there’s no way I’d rather spend my workweek! It’s so fun, so I’m protecting it to remain that way.

ジャック:Vulfpeckは金銭的なリスクとは無関係に何かを達成することができ、実際には非常に低コストであるため、かなりの利益を得ることができます。私がミックスして、リリースして、デザインやビデオを作って…でも、「やってられるか!」と思うことはありません。とても楽しいので、このやり方が続けられるようにしています。(出典:https://jambands.com/features/2014/01/12/vulfpeck-keep-it-beastly

そして2012年に「Vollmilch」(ドイツ語で「全乳」の意)、2013年に「My First Car」、2014年に「Fugue State」をリリース。

ここで、楽曲「Outro(2012)」にサックスのJoey Dosik(ジョーイ・ドーシック)が参加。

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画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=XftabV9S2z0

ジョーイはこの動画では非常に好青年なイケメンだが、実はここで紹介したこれまでの画像の中に一度紹介している。

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驚くことなかれ、この男性だ。👇

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ジョーイは鍵盤でMy Dear Discoに参加、テオと同時期に活動していたのだ。テオと同じくミシガン大学音楽学部、ジャズ専攻。そして、これもテオと同じように自身のキャリアのために脱退。ジョーイのレコーディングにジャックが参加するようになり、その流れで今度はVulfpeckのゲストメンバーとして不動の地位を確立した。

さらに、これまではヴォーカル無しのコンセプトバンドだったが、ついに楽曲「Wait for the Moment(2013)」でヴォーカルゲストにAntwaun Stanley(アントワン・スタンレー)が登場する。

スクリーンショット 2020-06-27 02.20.56

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=r4G0nbpLySI

アントワンは素晴らしいソウル・シンガーとしての腕前を持っており…やはり彼も、この記事に既に登場していたのである。

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この右側の男性だ。

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アントワンはGroove Spoonのメンバーだったのである!彼も、そしてサックスのジョーイ・ドーシックも、つまり全員がミシガン大学音楽学部の友人同士だったのだ。

He was singing in some kind of quartet at university. One time they were performing outside on campus and I was immediatly blown away by that voice, his impeccable timing and soul. It made me feel like I felt the first time I heard Marvin Gaye sing. That’s why Antwuan is often with us, because he’s such a great singer.

ジャック:アントワンは大学の、あるカルテットで歌っていた。ある時、彼らがキャンパスの外で演奏していて、私はその声と完璧なタイミング、そして彼のソウルにやられてしまった。まるで、マーヴィン・ゲイの歌を初めて聴いた時のような気分だった。アントワンがよく私たちと一緒にいるのは、彼が本当に素晴らしいシンガーだからだ。(出典:https://medium.com/@RobertJon/vulfpeck-from-jazzism-magazine-488ac32acfaf

アントワンのヴォーカル参加の翌年には、「Chirstmas in L.A.」でメンバーのテオ・カッツマンがVulfpeckの曲に歌詞を付け、歌でも参加するようになっていた。

そしてテオをメインヴォーカルでフィーチャーした「Back Pocket(2015)」がiPhoneX (Apple Pay)のCMソングに使われたことで、Vulfpeckは一気に全米的な知名度を獲得するのである。

2015年の「Back Pocket」のリリース直後、ミネアポリスで知り合ったギタリストのCory Wong(コリー・ウォン)がゲストに参加し、ジョーイやアントワンと同じくゲストの定番メンバーとして活躍していくが、コリーだけはミシガン大学の学生ではない。

僕だけが唯一ミシガン大学には通わなかったんだ(笑)。彼らは大学で出会ってこのバンドを始めただろ?で、僕が参加するきっかけになったのはさっき言ったプリンスも観に来てくれたハウスバンドでのギグなんだよ。そこにヴルフペックのみんなが観に来てくれてね。(出典:ギター・マガジン2018年11月号)

この(笑)の部分、こうして歴史を辿ってみると、意味がよく分かる。コリーが参加するまでのメンバーやレコーディングに携わる人物(Divin Kerrなど)は、ほとんどがミシガン大学の学生なのだ。逆に、よくこの環境にコリーが後から入って馴染んでいるとすら思える(彼はいまやジャックの片腕とも言える存在だ)。

ミシガン大学、Groove Spoon、My Dear Disco、ジェイク・バーチの卒業論文。そして、彼らの音楽の虜になった多数のファン。これらの要素が偶発的に混ざり合い、運命に導かれて、Vulfpeckはここまでやってきたのである。

さらにここには、本来であれば集金目的無音アルバム「Sleepfy」や、デヴィッド・T・ウォーカー、ブーツィー・コリンズなどの大物ゲスト参加などの話が加わっていくのだが、それは彼らの成功物語の続編として、また改めて語らせていただければと思う。今回の講義は、ここまでだ。お付き合いいただきありがとう。

トップ画像出典:https://vulfpeck.bandcamp.com/album/mit-peck


◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

イラスト:小山ゆうじろう先生

宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。


◇既刊情報◇

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「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)


ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」


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