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『Antwaun Stanley解体新書』どこよりも詳しいアントワン・スタンレーまとめ(2) /// アントワンの音源を徹底紹介

KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、40回目の連載になる。では、講義をはじめよう。

(👆Vulfpeckの解説本をバンド公認、完全無料で出版しました)



前回は『Antwaun Stanley(アントワン・スタンレー)解体新書』の前編として、彼の経歴などを詳細に解説した。


今回は後編として、さまざまなバンドに参加している彼の音源を紹介していきたいと思う。最初はソロアルバムやVulfpeck(ヴォルフペック)、それからコーリー・ウォンやスケアリー・ポケッツなどについて触れていこう。なお、本記事の内容は2022年6月現在までのものである。


ソロアルバム

まずは2007年にリリースされた彼の唯一のソロ・アルバム、「I Can Do Anything」から。

ゴスペルのアルバムであり、彼のルーツを知るうえで非常に重要な作品。リリース時は大学2年生の時(リリース時の流れについては、前回の記事に記載)。

現在サブスク配信されていないため、YouTubeにアップされている曲を集めてリストを作っておいた。他の曲も聴きたい方は、ぜひこちらから聴いていただきたい。👆


Groove Spoon

Vulfpeckのリーダー、Jack Stratton(ジャック・ストラットン)が大学時代に組んでいたファンク・バンド、Groove Spoon(グルーヴ・スプーン)についても、前回の記事で解説をしてある。詳細はそちらをご覧いただきたい。ここでは動画のリンクを貼るのみにとどめておく。


Vulfpeck

さて、いよいよアントワンがメイン・シンガーとして参加しているバンド、Vulfpeck(ヴォルフペック)の話だ。

ここではVulfpeckで彼が歌っている曲を全て紹介しよう。


■2013年
こちらの「Wait for the Moment」が、アントワンがVulfpeckに初参加した曲。イントロでは、彼のニセ経歴がジャックによって語られている。

言語療法士のアントワン・スタンレー博士に歌ってもらった、という語りが入っている。
もちろん、まったくの大ウソ。ジャックのユーモアが最高に効いている瞬間だ。
画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=r4G0nbpLySI


■2014年

「1612」はVulfpeckのヒット曲であり、後にこの曲でテレビ出演も果たす。「1612」は「私の心へのコード(番号)」と歌われており、この数字の由来は明かされていない。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=jRHQPG1xd9o


■2015年

「Funky Duck」で、アントワンはVulfpeckとして初めて、後述するTyler Duncan(タイラー・ダンカン)の家でレコーディング。カメラマンもタイラー。

なんとこの曲にはドラムが入っていない。パーカッションはティオ・カッツマンの師匠、リッチー・ロドリゲス。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=dhNfddJRulQ


■2016年

引き続き、タイラーの家にて2曲レコーディング。これらは「The Beautiful Game」に収録された。

「1 for 1, DiMaggio」は野球の曲。アントワンが野球のグローブを持って歌っている。

途中に「お気に入りの野球チームを教えて!……えっ、それ、僕の好きなチームと同じだよ!」
という小芝居が入る。これはライブでも定番のネタとなっている。
画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=u8fWZ9FjIK4


「Aunt Leslie」は「レスリー叔母さん」。歌詞は断片的な場面提示だけで、レスリー叔母さんに何があったのかはほとんど語られていない。これについては海外のファンでも歌詞の意味を計りかねている。

しかしこの断片的な場面提示は古典的なソウルにありがちな手法で、それはこの曲のレトロなサウンドにとても良く合っているとも言える。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=t2pz6uNiheg


■2017年

2017年は最多の4曲に参加。まず「Birds of a Feather」は、Joey Dosik(ジョーイ・ドーシック)の友人、MOCKYの曲をカヴァー(原曲はこちら)。

撮影場所はおそらく、引き続きタイラーの自宅。ジャックはパンケーキ・ドラム。
画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=WQm4R0LM2mE


続いて、「Business Casual」ではコーラスに。


さらに、レジェンドプレイヤーのデヴィッド・T・ウォーカー、ジェームス・ギャドソンとのレコーディング・セッションに参加。

「Grandma」ではメインで、また「Running Away」ではコーラスで参加した。作曲はどちらもジョーイ・ドーシックで、彼のアルバムではオリジナルバージョンも聴くことができる。これらの曲はLAでレコーディングされた。


■2018年

「Darwin Derby」ではTheo Katzman(ティオ・カッツマン)と一緒にヴォーカルで参加。この年は忙しかったのか、レコーディングはこの曲のみとなった。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=WrdsotPDrRg


■2020年

そして2019年はマディソン・スクエア・ガーデンのライブがあったため、この年に行われたレコーディングは翌年、2020年にリリースされることになった。それが現在、アントワンがVulfpeckで参加している最後の曲、「3 on E」である。

「3 on E」とは、過去のファンクの名曲のベースライン(Chicの「Good Times」など)が、3つのE(ミ)の音から始まっているという意味。それらを真似て作られた曲で、どんな曲を参考にしているかはこちらの動画で観ることができる。

アントワンとバンドは別レコーディング。
バンドはデンバーでライブがあった時に、ついでにスタジオに入って撮影と録音を済ませた。
アントワンの撮影場所は不明。
また、歌詞のフォントはジャックの幼馴染ロブ・ステンソンの仕事。
画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=b2_CJ_nx-l4


さらに同年、Vulfpeckにアントワンが参加した曲を集めたコンピレーションアルバム、「Vulf Vault 001: Antwaun Stanley」が発売された。

こちらはクラウドファンディングで期間限定で販売され、再発はしないとジャックが明言しているため、もしどこかで手に入れることができれば非常にラッキーである。


Vulfpeck(ライブ)

次は、Vulfpeckでのライブについてだ。マディソン・スクエア・ガーデンのライブは是非観ていただきたいが、さらにここではそれ以外のライブにおいても、私がオススメするアントワンの演奏を紹介していきたい。

■マディソン・スクエア・ガーデン(2019)

参加曲は、「1612」「Funky Duck」「Aunt Leslie」
「Wait For the Moment」「Back Pocket」「Bird of a Feather」

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=rv4wf7bzfFE


■Ancienne Belgique (2017)

このライブでは、「Boogie on Reggae Woman」が特に素晴らしい。曲はスティービー・ワンダーのカヴァーだが、なんとここではアントワンと、ベースのジョー・ダートの2人だけで演奏を始めてしまう。

メロディーだけでなく、時にはギターやドラムなどの役割も果たしながら突き進んでいく、アントワンの力量をぜひ感じてほしい。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=dDL5k9LpZ9w

再生位置は合わせてあるので、そのまま再生ボタンを押せば「Boogie on Reggae Woman」が始まる。👇


■The Late Show with Stephen Colbert (2014)

アメリカの超有名番組、レイト・ショー・ウィズ・スティーブン・コルベアに出演した時の様子。この時のピアニストはジョン・バティステ(2022年のグラミー最多受賞5冠)。

What was it like singing to a national television audience in front of Stephen Colbert?

I was very nervous and I wasn’t really sure what to expect, but the staff was really supportive. Stephen Colbert even knew my name. It was really cool to be able to perform on a show where you felt they really cared about the success of not only the show itself, but the success of your performance and showcase. I’m still honored to this day and still can’t believe that it happened.

インタビュワー:スティーブン・コルベア(番組の司会者)の前で、全国の視聴者に向けて歌うのはどんな感じでしたか?

アントワン:とても緊張してしまってどうなることかと思いましたが、スタッフの方々はとても協力的でした。しかも、 スティーブン・コルベアは私の名前を知っていてくれました。番組自体の成功だけでなく、出演者のパフォーマンスやショーの成功を本当に気にかけてくれている、と感じられる番組に出演できたことは、本当に素晴らしかったです。 今でも光栄に思っていますし、このようなことが起こったことが信じられません。

Young Alumnus of the Month: Antwaun Stanley, ’11
https://alumni.umich.edu/students/gen-blue-pulse/young-alumnus-of-the-month-antwaun-stanley-11/


■Red Rocks Wedding Set (2018)

有名フェス、レッド・ロックスにVulfpeckが2018年に出演した際、

・I Want You Back / Jackson5
・December, 1963 (Oh, What a Night) / ((The Four Seasons)
・September / Earth, Wind & Fire
・It Gets Funkier / Vulfpeck

という最高のメドレーが演奏された。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=-DsmTXoH6ls

このSeptemberでアントワンが歌っており、全体も素晴らしいし、アントワンの歌唱も完璧である。是非聴いていただきたい。


Cory Wong

Vulfpeckのギタリスト、コーリー・ウォン(Cory Wong)のバンドには2017年から参加。コンスタントに共演を続けている。

こちらでは全体的に、Vulfpeckよりもファンキーな演奏を聴くことができるだろう。また、2018年の「Bridge Over Troubled Water」のカヴァーなど、アントワンのゴスペル・スタイルを披露している演奏もある。

■2017年

■2018年

■2021年

👆こちらでは「United」という曲で共演、再生位置から再生すればその時のレコーディングライブを観ることができる。また、その直前にアントワンとコーリーでコントを演じているので、そちらも興味があればご覧いただきたい。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=IpoQw9wd94A
アントワンのインタビューで、「機材は重要か?(もちろん!)」というテーマで会話がスタートするが、アントワンが「機材は重要じゃない」「本当に大事なものは才能であり、ギフトだ」と噛みつき、大ケンカと発展する。これはもちろん演技であり、リアリティーショーを模したコントだと思われる。
画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=IpoQw9wd94A

■2022年

アントワンは2021年末~2022年初頭に行われた、コーリー・ウォンのツアーにも参加。その際のリハーサルを紹介した動画に登場した。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=yuX-g-o0CFA
👇再生位置は合わせてある。

また、この動画では久しぶりに再会した2人がハグをした時に、アントワンが巨大なバッテリーを落としてしまい、それを見たコーリーが大爆笑するシーンも収められている。2人の仲の良さが感じられる、素敵な映像だ。

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=yuX-g-o0CFA
コーリー「おいおい、まだiPadよりデッカいバッテリー持ってるのか!
iPhoneに使うだけために!200テラバイトのHDDが入ってるのか?笑」

画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=yuX-g-o0CFA

このツアーは、ライブの様子はファンによってアップされている。


Tyler Duncan

ミシガン大学の学友、自宅をVulfpeckのレコーディングにも貸し出しているTyler Duncan(タイラー・ダンカン)とも共演。アントワンはタイラーと一緒に、2021年に6曲入りのEPアルバムを作成した。

Tyler Duncan
画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=NF9uQMRX_-Q

👆個人的にはこの「Speed of Night」が最高。

音楽性は、大学時代からエレクトロポップ方面のサウンドに強かったタイラーがトラックを作成し、その上にゴスペルのルーツを持つアントワンによって力強い歌声が乗る――という、レトロフューチャー感が心地よいサウンドになっている。

アントワンがこういったエレクトロ・ポップのサウンドで歌うのはおそらく初のことで、この「Ascension」は彼の新しい一面が引き出された素晴らしいアルバムだ。

Q: What inspired the title of the EP?

A: As an artist, my hope is to inspire and uplift, through song. And that’s what this EP strives to do. Whether it’s being free, letting go and finding the beauty in life’s crazy ride in “Speed of Night,” to acknowledging the state of the world and actively working to find ways to connect and better understand each other on “Lost in Translation,” to taking a chance and tapping into your true potential with “Tightrope,” there’s something for any and everybody to take away. And the hope is that by the final note, you’ve been enlightened, transformed, elevated—that you’ve ascended to a frame of mind that helps you to believe that what’s coming is better than what’s been

Q: EPのタイトルの由来は何ですか?

A: 私がアーティストとして願っていることは、誰かに歌を通してインスピレーションを与え、気持ちを高揚させたいということです。そして、このEPにはそれを実現しようという想い(筆者注:タイトルのAscensionは"上昇"という意味)が込められています。

「Speed of Night」では、自由であること、手放すこと、そして人生のクレイジーな旅に美を見出すこと。「Lost in Translation」では世界の現状を認め、積極的につながり、お互いをより理解する方法を見出すこと。「Tightrope 」ではチャンスをつかみ、自分の真の可能性を引き出すことなどをメッセージとしています。

これらの内容は、誰にとっても何かしら得るものがあるはずです。私は、あなたが啓発され、変化し、高揚し、これから起こることがこれまでよりも良いことだと信じることができるような心境になることを望んでいます――その気持ちを最後の一音にまで込めました。

Modern Soul(s): Vulfpeck collaborator Antwaun Stanley connected 
with former My Dear Disco/Ella Riot leader Tyler Duncan for a new EP
https://aadl.org/node/581422

👇こちらでメイキングも公開されている。こちらではティオ・カッツマン、ジョー・ダートも出演しており、彼らもアルバムに参加していることが分かる。

Theo Katzman
画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=NF9uQMRX_-Q
Joe Dart
画像出典:https://www.youtube.com/watch?v=NF9uQMRX_-Q


タイラーとアントワンは以前も一緒に動画を撮影しており、この2人も深い信頼関係にあることが伺える。

ちなみにこれらのレコーディングに使われているのも、すべてタイラーの自宅スタジオ(バーバーハウス・スタジオ)だ。

アントワンは、今度は自分のソロ・アルバムの新作を、タイラーのプロデュースで制作中だと語っている。


Scary Pockets

Vulfpeckとも仲良しのLAのファンク・バンド、スケアリー・ポケッツ(Scary Pockets)の動画にもよく出演している。

これらはすべてLAで撮影されているため、アントワンはVulfpeckでのレコーディングを含め、定期的にミシガンからLAまで移動して参加しているということになる。

👇珍しく、スケアリー・ポケッツのライブにも参加。こちらはニューヨークで行われた。


また、Scary Pocketsのアコースティック作品、「Stories」にも出演した。


その他の活動

それでは最後に、アントワンが参加した他の活動を紹介して終わりとしたい。ここにあるのはYouTubeの隅から隅まで探してきた動画たちである。


■2011年

この頃からしばらくはVulfpeckが有名ではない時期なので、ライブも小規模なステージが多い。

■2012年

■2013年

■2015年

■2016年

2015年にVulfpeckはブッキング・エージェントを雇い、2016年からは有名なフェスに出場できるようになった。それにより、アントワンもこれまでの小規模なライブから、大きなステージで、有名なバンドのゲストに入る機会が出てくる。

そして実際に動画を探してみると、明らかに2016年以降にそういった動画が出てくるのだ。

■2017年

■2018年

■2019年

■2020年

2020年は悪疫が流行ってしまったため、アントワンもリモートでのレコーディングなどでの活動がメインとなった。

こちらのレイ・チャールズ・トリビュートの活動は年明けすぐに行われていたため、それはギリギリ悪疫の前に間に合ったようである。


また、2020年2月末、アントワンはスケアリー・ポケッツのライブで初来日を果たしている。これもタイミング的には悪疫が流行る直前で、ギリギリ滑り込みで来日できたことは幸運だったと言えるだろう。




以上が、全2回にわたる、アントワン・スタンレーのまとめ記事である。長くなってしまったが、最後まで読んでいただけたことに厚く御礼を申し上げたい。

今回、彼についてここまで調べ上げることができたのは、やはり彼の歌声の素晴らしさによるものだったと私は考えている。私も、彼の歌の才能に、心から惚れ込んでいるのだ。ジャックのこの言葉に嘘偽りはなく、身内の贔屓でもないだろう。

We have a couple musicians amongst our friends that act as recurring guest musicians, and that occasionally write for us, or we for them. Like singer/pianist Joey Dosik, guitarist Cory Wong and above all of course (singer) Antwaun Stanley, the greatest vocal talent I’ve heard in the past ten years.

ジャック:私たちの友人のミュージシャンのうち、何人かが定期的にゲストミュージシャンとして参加していて、時々私たちのために、あるいは私たちが彼らのために曲を書いてくれています。シンガー/ピアニストのジョーイ・ドーシック、ギタリストのコーリー・ウォン、そして何より、過去10年間で私が聴いた中で最も素晴らしいヴォーカルの才能を持つ、シンガーのアントワン・スタンレーだ。

Interview with Vulfpeck’s Jack Stratton (transl. from Jazzism)
https://medium.com/@RobertJon/vulfpeck-from-jazzism-magazine-488ac32acfaf
画像出典:https://youtu.be/rv4wf7bzfFE


2023年になればきっと、Vulfpeckの来日があることだろう。

そしてそこでアントワンの歌声が響きわたることを、皆で――ちょっとだけ待って(Wait for the moment)いようではないか。



◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー

宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。


◇既刊情報◇

バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)


ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」


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