見出し画像

どこよりも詳しいGinger Root [3] :実はVulfpeckの大ファン!Ginger RootがVulfpeckから受けた影響まとめ

トップ画像出典
左 Christmas in L.A. (Vulfpeck Cover)
右 VULFPECK /// Christmas in L.A.

KINZTOのDr.ファンクシッテルーです。今回の記事は、連載全3回の最終回となります。1回目と2回目の記事はこちらからご覧ください。👇


今回の記事は、Ginger Root(ジンジャー・ルート)が、Vulfpeck(ヴォルフペック)からどんな影響を受けていたのか?という記事です。これについてまとめあげている記事は、現時点で他に存在しません。


Vulfpeckって何?という方は、私のnoteマガジンか、私の著書を読んでいただければ理解できるはず。どちらも完全無料です。👇

Ginger RootはVulfpeckの大ファンであることを公言しており、ここの繋がりを理解しておくと、さらに彼の世界に隠された秘密を楽しめること間違いなしです。

それでは、さっそく始めていきたいと思います。


Ginger Rootの名前の由来

Ginger Rootとは「生姜の根っこ」のこと。かなり変わった名前ですが、まずここから、Vulfpeckが大きく関わっています。

「Ginger Root」の名前は、Vulfpeckのライブ動画から取られているのです。

2015年の8月29日、シカゴのビート・キッチンというライブハウスで、最後の曲「It Gets Funkier」が演奏されている時に、それは起こりました。

突然リーダーのJack Strattonがラップで「Ginger root!」と繰り返し叫んだのです。(👆再生すればすぐにそのシーンとなります)

Jack「Ginger root! Ginger root!!」

出典:Vulfpeck - Live at the Beat Kitchen - 2015-08-29 Full Show

これは完全にアドリブで、もちろん、Vulfpeckと生姜の根っこには何の関係もありません。Jackが行っている、いつもの「ちょっとシュールな笑いの世界」です。


今観てもかなり面白いシーンなのですが、この動画を深夜に見たCameron Lew(キャメロン・ルー)は「Ginger Root」が頭から離れなくなってしまい、そのまま自身のプロジェクトの名前にしてしまいました。

出典:Ginger Root | My Favorite ALFA: Chat

Where did the name ginger root come from?

I wish it was like a deep meaning story. I was watching. I was a huge vulfpeck fan at the time. And yes, there's a there's a video of Jack Stratton chanting about ginger root in the middle of a break of a song. And I don't know why I think it was because I was watching it like three or four in the morning, I thought it was the funniest thing ever. So when I was about to name the project, which was a couple days after, that was like the only word I was like, implanted in my brain to get ginger root. So I literally like making the Bandcamp page or like, what's your account name? What's your band name, and I like ginger root. And so that's it.

ジンジャールートという名前の由来は?

Ginger Root:深い意味があれば良かったんですけどね。私はVulfpeckの大ファンだったんです。曲のブレイクで、(筆者注:Vulfpeckの)Jack Strattonが「Ginger Root」と繰り返し唱えている動画を観ていました。朝の3時か4時くらいに見ていたからだと思いますが、そのシーンが最高に面白いと思ったんです。

だから、その数日後(筆者注:2016年)に自分のプロジェクトの名前を決めようとしたときも、その言葉が私の頭の中でグルグルと回っていました。「Ginger Root、Ginger Root」って。

そしてBandcampのアカウントを作成する時に、サイトが聞いてきたんです「アカウント名は何?バンド名は何?」って。私はそのまま「Ginger Root」と入力しました。

出典:Ginger Root | My Favorite ALFA: Chat


このように、Jackをゴッドファーザーに指名したGinger Root。まずこの段階で、非常に深い影響を受けていることが分かります。


『Toaster_Music』の選曲

Ginger Rootは、2017年から「Toaster_Music」というカヴァー・アルバムを作っています。(詳しくは私の以前のnoteをご覧ください)

このアルバムは比較的なファンキーな曲が多いのですが、カヴァー選曲の基準を、Ginger Rootはこう説明しています。

I mean I chose the songs two days before and only had three hours to do it, so I picked songs I was really familiar with. A lot of the soul songs were 45s my Grandparents sold and or gave to me; and I listened to Glenn Campbell and Feist a lot in high school. Honestly, they just felt like the classic songs that were warm and nostalgic.

曲を選んだのは 撮影の2 日前で、しかも(筆者注:撮影に使えるのが)3 時間しかなかったので、自分がよく知っている曲を選びました。ソウル・ソングの多くは、祖父母が私に売ったりくれたりした レコードのシングル盤の曲でした。

出典:INTERVIEW: TIME MARCHES ON WITH GINGER ROOT’S THIRD ALBUM, ‘RIKKI


しかし――実際の選曲を眺めてみると、そこには「Vulfpeckマニア」としての視点があったように思えてなりません。

順に解説していきます。


まず、そもそもVulfpeckの曲
「It Gets Funkier」が選ばれています。


さらに、Vulfpeckがカヴァーした
「Birds of a Feather」
「I Want You Back」
「September」
などだけでなく、


リーダーのJack Strattonがインタビューなどで影響を公言している曲、
「O-o-h Child」
「If You Want Me to Stay」
「For Once in My Life」
も選曲しているのです。

Two of my favorite songs are “Maybe I’m Amazed” and “Ooh Child,

Jack:私の大好きな曲は、「Maybe I'm Amazed」とO-o-h Childだ。

出典:Vulfpeck Keep It Beastly

One of my other favorite tunes is “If You Want Me To Stay” and that’s just an 8-bar progression over and over again.

Jack:他に好きな曲は「If You Want Me To Stay」で、これは8小節の進行を何度も繰り返しているだけなんだ。

出典:Vulfpeck Keep It Beastly


こうして挙げただけでもVulfpeckに紐づけられる曲が7曲もあります。

もちろんGinger Root自身が本当に好きですぐに弾ける曲だった、というのもあるのでしょうが、偶然で片づけるには7曲はちょっと多すぎると言わざるを得ません。特に「O-o-h Child」は選曲としては非常にマニアック。

「自分がよく知っている曲を選びました」という言葉は、「自分はVulfpeckの大ファンなので、Jackの影響でよく聴いていた曲などを選びました」という意味も含まれているのではないか、と私は考えています。


「Christmas in L.A.」のカヴァー

さきほどGinger RootはVulfpeckの「It Gets Funkier」をカヴァーしているという話をしましたが、もちろん、彼が行っていたカヴァーは、それだけではありません。

大学時代に「Christmas in L.A.」もカヴァーしています。

ちなみに、ここからは音楽の話だけでなく、Vulfpeckの動画から受けた影響の話になっていきます。


これはVulfpeckで動画がリリースされたちょうど一年後に作られたカヴァーで、自分だけでなく、わざわざ友人にも演技してもらって本家の動画をオマージュしています。

しかも動画のタイムラインを見てもらえば分かるのですが、同じポーズはしっかり同じ再生位置に来るようになっています。秒数まで揃えてあるため、驚異的なこだわりで作られていることが分かるでしょう。

Ginger Root 出典:Christmas in L.A. (Vulfpeck Cover)
Vulfpeck 出典:VULFPECK /// Christmas in L.A.
Ginger Root 出典:Christmas in L.A. (Vulfpeck Cover)
Vulfpeck 出典:VULFPECK /// Christmas in L.A.


なんと、このカヴァー動画のコメント欄にはJackが降臨しています。この段階ではGinger Rootはただのファンなので、見つけてくれて非常に嬉しかったのではないかと思われます。

出典:Christmas in L.A. (Vulfpeck Cover)


MVで受けた影響

「Christmas in L.A.」はカヴァー動画ですが、影響はそこに留まりません。

実は、Ginger Rootとして作られたオリジナルのMVも、Vulfpeckの動画に深く影響された内容になっています。

類似シーンを解説していきましょう。

出典:Ginger Root - "Brooklyn" (Official Music Video)
出典:Ginger Root - "Brooklyn" (Official Music Video)

👆こちらはGinger Rootが2015年に東京旅行をした時に撮影した映像を使ったMVですが、
画質を粗くして、公園などでちょっとシュールなダンスをする、というのは完全にVulfpeckそのもの。自分が画面の中央に映りこむ、というのも同じです。

出典:VULFPECK /// Christmas in L.A.
出典:VULFPECK /// The Beautiful Game (Alone w Drone)


また、動画を合成して分身する、という映像も、初期のJackの動画から受けた影響だと思われます。

出典:Ginger Root - "Brooklyn" (Official Music Video)
出典:MUSHY /// New Orleans Groove Drum Lesson


他にも、Ginger Rootのアルバム『Rikki(2020)』までのシュールなちょっと笑える映像、動き、表情……また画質の粗さなどは、かなりVulfpeck(Jack)のテイストに似ています。いくつか例を挙げてみましょう。

出典:Ginger Root - "Out Of State" (Official Music Video)
出典:Ginger Root - "Mahjong Room" [Official Music Video]
出典:Ginger Root - "Karaoke" (Official Music Video)


出典:Take Me To A Higher Place - Vulfmon
出典:VULFPECK /// Birds of a Feather, We Rock Together (feat. Antwaun Stanley)
出典:GROOVE SPOON • Dance Week (Live From the Dude)


2021年のアルバム『City Slicker』からは、シティポップ、昭和の日本のテレビ番組などに影響されたMVに変化していますが、

たまに分身してみたり、シュールで笑える映像を好むのは、やはりVulfpeck(Jack)から受けた影響ではないか、と私は考えています。

出典:Ginger Root - "Loretta" (Official Music Video)
出典:Ginger Root - "Juban District" (Official Music Video)

つまり、Ginger RootのMVは、

①2020年まではVulfpeckの影響が前面に出ていた

②2021年からはシティポップ、昭和の日本のテレビ番組の影響が前面に出るようになったが、根底にはVulfpeckからの影響も垣間見える

といった形で変化していったのではないか、と私は考えています。②のように変化していったのは、オリジナリティを模索したり、アルバムの方向性が変わったこととも関係があると思いますが、いずれにしてもそれによってGinger Rootの動画はさらに人気になっていったため、この変化によって彼は表現者として成長したと言えるでしょう


あの動画にも実はVulfpeckが!

さて。先ほどは「MVのテイストが似ている」という話をしましたが、実はGinger Rootのデビュー前には、「似ている」というレベルではなく、直接的にVulfpeckを引用している動画がたくさんありました。

これらの動画は、基本的にはGinger Rootがレーベルと契約するより前(2018年以前)に作られたもので、完全にいちファンとしての行動だったと思われます。

時計の針をググッと戻して、それらの作品も紹介してみましょう。こんなの作ってたんだ!と驚くものもあるかもしれません。


◆2015年の東京旅行で撮影した記録動画に、Vulfpeckの「Fugae State」をBGMとして挿入


◆Jackが2つの動画をミックスして新しい音楽を作り出すシリーズ、「Sounds of Two」に影響され、自分なりの「Sounds of Two」を作成


◆Jackが作ったドラムマシン「Funklet」を使った動画を撮影

出典:Ginger Root - "Two Step" (Live from Camp Treetop)


Vulfpeck「The Speedwalker」のMVからバンドの音を抜き、効果音だけに加工したバージョンを作成


Vulfpeck「Cory Wong」と、大人気動画「Flea Market Montgomery - Long Version」をミックス


◆自分の誕生日に行った配信のDJライブセットで、Vulfpeckの「Sky Mall(2014)」を流す

出典:Cameron's Virtual Birthday Party (DJ Set)




以上が、Ginger Rootが動画関係でVulfpeck(Jack)から受けた影響の話でした。さらにここからは、Vulfpeckファミリーとの関わりについて話していきます。


Goodhertz, Inc.との関わり

Vulfpeckの音が作れるプラグイン、「Vulf Comperssor」を作ったGoodhertzという会社があるのですが、Ginger Rootは実はその会社と一緒に動画を作成しています。

これらの動画は、基本的にはGoodhertz社の製品(プラグイン)を紹介する動画で、Ginger Rootが実際にプラグインを使ってその効果を解説する、というものです。

Vulf Comperssorも使って解説しています
出典:Finding Sounds with Ginger Root (Episode #2)
実際に演奏しながら、使用プラグインを解説しています。お得意の分身も使用
出典:Ginger Root, “Mahjong Room” — Mix Notes #2


また、Goodhertz社が円周率の日(3月14日、Pi Dayとも言われる)にセールを行うのに合わせて、「Pi」という曲を特別に書き下ろしています。これはサブスクなどにはアップされていないので、この動画かBandcampでしか聴けません。

出典:Ginger Root — “Pi”

サビが「3.14159~♪」なのですが、こうやって数字をモチーフにした曲を作るところも、そもそもVulfpeck(Jack)と同じなので、もしかしたらこれも影響があるのかもしれません。

Talking about the significance of 1612, the Vulfpeck founder and drummer Jack Stratton said:

“I was subletting an Airbnb with a security code of ‘1612’ and it just kept coming up,” Stratton said. “People texting me, ‘What’s the code?’ Guys calling me, ‘Do you remember the code?’ It just occurred to me that 1612 was really happening in my life at that point, and I wanted to lend some significance to it with that song.”

In an honest moment, he also admitted he had other motivations for writing the song.

“I’m a big fan of number-based songs, lending significance to combinations of numbers,” he said. “So I wanted to get into that world, too, get into that Wikipedia list of songs about numbers. Just a lot of goals coming together in that song.”


"1612"の意味について,ヴォルフペックの創設者でドラマーのジャック・ストラットンは,こう語っている。
 
「セキュリティーコードが"1612"のAirbnb(筆者注:民泊のようなサービスの部屋)を借りたら,その後,同じコードが何部屋も続いたんだ」とストラットンは言う。「みんな私にテキストを送り,電話をかけてくる。『コードは何?』 『コード覚えてる?』 その時,"1612"は私の人生に関わっている数字だと思った。だからこの曲で,その数字に意味を持たせたいと考えた。」
 
正直なところ,彼はこの曲を書いた動機が他にもあったことを認めている。
 
私は数字をベースにした曲や,数字の組み合わせに意味を持たせることが大好きだ。だからこの曲で,その世界や,Wikipediaの"数字に関する曲リスト"の中に入りたいと思った。この曲には多くの狙いがあったんだ。」

出典:Vulfpeck performs ‘1612,’ Stevie Wonder cover LIVE on Jam On!


(なぜGinger RootがGoodhealtz社と関われるようになったのか?というのは、現在どこのインタビューでも語られていないので、今後そういったインタビューがどこかで行われることを期待しています)


まとめ

以上が、Ginger RootがVulfpeckから受けた影響のまとめです。

こうして見ていくと、Ginger Rootを形成する大きな要素――つまり音楽と映像という両面で、多大な影響を受けてきた、ということが分かると思います。

さらに、そもそもGinger Rootが録音から撮影まで何でもひとりでやるようになったのも、

Vulfpeck、そのリーダーのJack Strattonが、自分ひとりで録音から撮影、プロデュースなど、すべてを自分や仲間達だけで行ってきたのを見てきたからでしょう。

Jackのこういった面に関しては私のnoteマガジンや、著書を読んでいただければ分かると思います。


さらにVulfpeckはQratesというサービスでクラウドファンディングを行い、ファン向けにレコードを販売していますが、Ginger Rootもまったく同じサービスを使って、同じようにレコードを販売するようになりました。

Vulfpeckは自主レーベル、Ginger Rootは他人のレーベルに所属している、という違いはありますが、ビジネス面でもGinger RootはVulfpeckの影響下にあると考えて間違いないでしょう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そして――そんなVulfpeckの大ファンだった、Ginger Root。

2022年5月、ついにJackと会うことができました。

出典:Gingeroot and Jack Stratton unite for Joey Dosik and Mockey. (Reddit)


また、2022年にVulfpeckはTikTokを始めているのですが、Jackのインタビューによると、これはGinger Rootが勧めたからだ、と語られています。

出典:STATE OF THE VULF IV

Jack : Ginger Root told me to check it out. And when he said that, I was like, well, it's telling me like, there must be something there. And he said, it's like, it's interesting, because it's the most algorithmic video platform. Meaning, like, you could have five followers, you could have half a million and you're kind of in the same boat. Unlike anything that's come before it. That was interesting. And I have seen it work in that way. Like, we have no followers on there, but certain things have Yeah, hit the algorithm. So that that's
cool.

Jack:Ginger Rootが(筆者注:TikTokを)やってみたら、と言ったんだ。そう言われたとき、私は「何かあるに違いない」と思った。このプラットフォームは、最もアルゴリズムが進んだ動画プラットフォームだから、面白いんだ、と。つまりフォロワーが5人であろうと、50万人であろうと、同じようにチャンスがある。興味深い話だった。私たちも昔、そのようにしてうまく行ったことがある。フォロワーはいないけど、動画がアルゴリズムでヒットしたんだ。だから、それは(筆者注:TikTokは)クールだね。

出典:STATE OF THE VULF IV


かつて多大な影響を受けたアーティストの活動に、今度は自分が影響を与える側になったGinger Root。これも彼の成長の証でしょうし、今後、Ginger RootとVulfpeckがコラボをする日が来るのか?というのも、ファンとしては目が離せません。


以上をもちまして、「どこよりも詳しいGinger Root」全3回の連載は終了となります。お読みいただき、誠にありがとうございました。


もしかしたら、Ginger Rootについては何か続編、続報があるかもしれませんが、その時はまたこちらのnoteや、私のTwitterでお知らせをさせていただきます。





―――――著者情報――――――

Dr.ファンクシッテルー

宇宙からやってきたファンク博士。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動しています。

「KINZTO」の活動と並行して、音楽ライターとしても活動しています。

■バンド公認のVulfpeckファンブック


■ファンクの歴史


■Twitterでファンクの最新情報・おすすめ音源を更新


もしよろしければ、サポートをいただけると、大変嬉しく思います。いただきましたサポートは、翻訳やデザイン、出版などにかかる費用に充てさせていただいております。いつもご支援ありがとうございます!