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学びが凝縮されていた中華料理店での体験 その8

とうとう中華料理店オープンの日を迎えた。

私は緊張してよく眠れなかったけど、使命感からテキパキと朝のルーティンをこなし、子ども達を学校に送り出し、家事も済ませて、お店に行く準備をした。

ここまでの道のりは決してスムーズではなかった、保健所等の公共機関から営業許可を取り付ける為に奔走もした、私の栄養士資格がここで役立つとは思いもしなかった、けれどこの栄養士資格も県庁へ何度も出向き、再発行してもらわなければならず、お店の準備と重なり、目まぐるしい忙しさだった。

感傷に浸ってる場合ではなかった、私が開店時間までにやっておく仕事は沢山ある、私は深呼吸して落ち着かせ通用口の扉を開けた「おはようございます!」私は明るく元気に挨拶した。

スペアキーを預かっている主任は先に厨房で下準備を始めている、副主任と補助のおじさんも忙しそうに働いていた、3人も元気に挨拶を返してくれた。

この厨房の3人とは、この地点ではうまくやっていけそうに思っていた、清掃業者の夫婦によって崩れていくとはまだ予想すらしていなかった。

開店時間の10時に間に合うように厨房は凄い忙しさ、私も出来る限りのことはして貢献せねばと頑張る。

各テーブル席に置く為に、ポットをすすぎ水を入れ氷を入れる、タオルで水滴拭き取り作業台に並べていく。

お盆やお皿をバイキングのエリアまで運び、厨房に声をかけて、お湯を沸かしてもらい、ジャスミン茶を用意する、それを保温用ポットに注ぎセットする。

おしぼりを温める機器に沢山入れ、スイッチを入れておく、各テーブルの調味料や割り箸や爪楊枝を点検して、少なければ補充しておく、そしてテーブルを念入りに拭きノルマを達成した。

午前9時過ぎに会長とマネージャーが自家用車でやって来た、元気に挨拶する。

そして特別に助っ人として、清掃業者の女社長からの紹介で短期に雇われた人達が到着して、一気に店内は活気づいた。

厨房も会長が連れて来た若い見習いの調理人の人達3人がプラスされて、作業を進めている、私は緊張がピークに達していた。

ホットプレート3台にチャーハンと焼きそばが盛り付けられ、保温される、カセットコンロ4個に鍋が置かれ、麻婆豆腐や中華風の煮物、スープ等が温められた。

そして大皿に酢豚や八宝菜や回鍋肉、唐揚げやサラダ、デザートの杏仁豆腐等が盛り付けられてセッティングされた、あり合わせの道具でもこうして並べて料理が盛り付けられると、立派なバイキングになる、さすがプロの人達だと感動していた。

中華料理店の周辺には結構会社が隣接していて、そこの社員が多数 ランチに訪れてくれそうだった、案の定もう開店前なのにちらほら待ってくださっているお客様が店内からも見えた。

時間が来た!マネージャーがドアを開ける、一番乗りに命をかけてるみたいなお客様が目を血走らせて入って来た、そして私がバイキングのルールを説明しようとしたら、「どけ!もうそんなんええから!」と吐き捨てるように言った。

私の持ったお盆を乱暴に奪い取り、皿を自分でお盆に3つも乗せて、料理の並ぶテーブルに走り、獰猛に料理を皿に山積みに盛っている、ここは猛獣がいる動物園なのか?

そのお客様に気を取られているのも一瞬だった、次々とお客様が殺到して、説明なんてしてる場合ではなく、どこから手が伸びて来るかわからないくらいお客様で大渋滞となり、私たち従業員はてんてこ舞い、何が何だか分からず気がつくと一回目のピークは過ぎ去った。

次の波がやって来た、ちょうどお昼の時間、近くの会社から大量のお客様が来てくださって、バイキングエリアは大混雑、料理があっという間に無くなり補充が必要だった、料理人たちはフライパンを振り次々と料理を作り、それを私たちがバイキングエリアに運ぶ、置いた瞬間、直ぐに空になる有り様だった、汚れた皿やお盆を洗う暇はない、どんどん流しに積み上げられる、こっちに料理無い!とかお盆無い!とかお皿ちょうだい!とかお客様が叫ぶ、私たちは何もできない!ただ謝るしかなかった。

もうこんなの耐えられない!早くこの地獄のランチタイムが終わって欲しい!と心から願った。

やっと最大のピークは終わった、午後1時半、急に店内は静けさを取り戻した。

料理もほとんど残っていない、それでもランチタイムは2時までなので油断は禁物、お客様がやって来る、そして料理を見て、「こんな少ない料理、バイキングと言えへん!」と文句を言い、出て行ってしまうパターンが続いた。

どうしてこんな行き当たりばったりのやり方なの!?私はお客様にニコニコ笑顔で満足してもらいたいのに、料理もお盆もお皿も足りない!こんなやり方でお店なんかやりたくない!と強く思っていた。

初日の怒涛のランチバイキングはこうして終了した、明日からもこの地獄は続くことが推測される、もう私は逃げたかった、私はお客様の千円弱で元を取ろう!という欲深さ丸出しの姿を見るのが耐えられなかったのだ、人間の醜さにショックを受けてしまった。


続きます。


幸せをありがとう♡


ここまで読んでくださって感謝します。



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