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学びが凝縮されていた中華料理店での体験 その9


中華料理店のオープン当日、やっと悪夢のような人間の欲望がひしめくランチバイキングの時間が終了した。

もう完全に放心状態の従業員たち、まさかこんなにお客様が押し寄せるとは思わず、明らかにキャパオーバーで、値段設定にも無理があったのだ、これでは1ヶ月ももたずに閉店してしまうかもしれない。

バイキングなら、1000円以上に設定するとか、お客様の滞在時間を決めるとか、ランチタイムをもっと短くするとかしないといけなかったのでは?と素人の私が頭で考えたところで、意見なんて出来る立場ではなく、それに既にチラシをまき、大々的に宣伝してしまったのだから、このままやり続けるしかない。

お店はランチバイキングだけではなく、夜の10時まで年中無休で営業することになっていた。

私の休日なんて想定されていなかった、お店が繁盛して軌道に乗るまでは、従業員皆で休まず頑張ろう!と暗黙の了解で決まっていたのだ。

ランチタイムが過ぎれば、途端に暇な時間になる、だから各々賄いで昼食をとることになっていた、マネージャーや短期で雇われたスタッフや私は、お客様がいない間にランチで残った料理を皿に取り、いただく。

ホットプレートでパリパリになってしまったチャーハンはなかなか噛みごたえがあり、こんなのを毎日食べるのは嫌だなあと思いながら食べていた。

ここで登場するのが清掃業者の夫婦だ、彼らは忙しい時間帯を避け顔を出す、それは一見すると思いやりの心だと勘違いしてしまう、でも私は見抜いていた、彼らは自分達に得になるようなことしかしない、調理人が暇な時間に来れば、自分達の為に料理を作ってもらえることを計算しているのだ、ズル賢いとは彼らのことを言う。

清掃業者の夫婦は、皆を労うような言葉かけを忘れない、だから単純な主任は気を良くして「何でも言って!ジャンジャン作ってあげるから!」と調子良く答える。

私は心の中で、イヤイヤあんたらも賄いで充分やん!残りもののパリパリチャーハンを食べろよ!と悪態をついてしまう。

ド厚かましい清掃業者の専務は「ヤッター!そしたら熱々のラーメンとチャーハンを頼むわ!」と言った、「ハイヨ!!」と元気に返事して主任は調理する、勿論彼らからは代金は取らない、無償でこんなことを続けていたら破産する、私はこの無秩序なやり方に怒りすら感じていたのだった。

マネージャーに言われて、お客様のいない間にお座敷席に掃除機をかける、やはり食べ物をこぼしたりして汚れている、その他細々とした雑用に追われ、午後3時になっていた。

私は一旦休憩を取ることを許可されていた、そもそもこのお店は 店長である元夫が主体で、あくまでも私はお手伝いの立場なのだ、主力に加えられるのは不本意だ、だから家事をする時間は確保してもらうことになっていた。

急いで、家に戻り、庭に干した洗濯物を入れ、娘が帰って来る前に出来る限りのことをしておく、この日は元夫は時間通りに最寄りのバス停まで車で迎えに行き、娘を連れて帰ってくれた、ここの場所はバス停から結構離れていて、歩道もなく子どもだけでは心配なので、元夫が迎えに行くと約束していた、因みに弟の娘もうちの娘より一つ下で、お嫁さんが車でバス停まで送り迎えをしていた。

何とか無事に初日はうまくいった、娘に「お兄ちゃんが帰って来たら、一緒におばあちゃんの家に行き、お風呂入らせてもらいなさい、お母さんはお店に戻らないとあかんから、もう行くね」と言う。

娘は元気なく頷いた、私は心が揺れる、本当は娘と一緒に夕食を作ったり、色々な話をしながら楽しく過ごしたかった。

店に戻ると、まだ清掃業者の女社長は残っていて、マネージャーと雑談していた、私の姿を見るなりヒソヒソと耳打ちして何か悪口を言っている、本当に腹立たしい存在。

夜7時くらいから、お客様が増えてきた、それでもバイキングではないと分かると、ガッカリしたように出て行く人も何人もいた。

ランチバイキング以外は普通に中華料理を出す、メニューは中国語で表記されて、日本語で説明文が付けられていた、私の知らない沢山の中華料理があることがわかった、会長からしっかり見てお客様に説明出来るように覚えておくことを命じられていた、でもなかなか覚えられない、接客が怖かった。

特に緊張したのは、お客様がお酒をオーダーされた時だった、ビールはビールサーバーがうまく使えず焦るし(泡がうまく出来ず失敗して3杯分の無駄が出た、それを主任と副主任が飲んでくださった💦)、チューハイの種類もさっぱりわからない。

見かねた主任が、ビールサーバーでテキパキとビールを注ぎ、チューハイも用意してくれた「もうあんたはオーダーを聞いて運んでくれたらええから、お酒は俺がやるわ!」と言ってくれて、心から安心して満面の笑顔でお礼を伝えた、主任は呆れながらも許してくれていたので助かった。

夜10時、元夫が私に自分の持ち場の片付けを終えて家に帰るように言ってきた、後は俺がやっておくからと気を使ってくれたので、私はそうすることにした、だいたいの片付けを済ませ、マネージャーと会長に挨拶する、そして厨房にも挨拶して、先に帰らせてもらえた。

やっと初日を終えることができた、長い長い一日、もう同じ日を繰り返したくはなかった、特にあの凄まじいランチバイキングの世界はイヤだ!絶望しながらも、家事のルーティンをこなし、子どもたちにも気を使いながら、やっと布団に入り眠った。

次の日からいきなりアクシデントで大変な事態になるとは思っていなかった。

続きます。

幸せをありがとう♡

ここまで読んでくださって感謝します。


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