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<地獄の歩き方> 第1回 地獄は壮大なテーマパークだ!

<はじめに>


 あなたが亡くなったとき、もしくはあなたが喪主となってご家族を弔うことになったとき、ご自身やご家族が熱心な仏教徒でないとしても、仏式で葬儀を行われる可能性が高いのではないでしょうか。お坊さんがやってきて、お経を詠んでくれたり、残った家族にお話をしてくれます。その有り難いお話によれば、われわれは死後、極楽または地獄へ行くということです。

 しかし、あなたはそこがどんなところでどんなしきたりがあるのか、ご存知ですか? 初七日とは、四十九日とは? 死後の旅に関係することなのですが、あなたはそれが何かをご存じでしょうか? ちょっと心配になってきませんか、初めての旅先なのに旅行ガイドもなく、もちろんナビ代わりのスマホやタブレットも持って行けません。
 幸いにもあなたの向かう先が極楽であった場合は、何ひとつ知らなくても、現地スタッフが優しくいろいろ教えてくれそうです。
 しかし、もし地獄であったとしたら…! できれば、前もっていろいろ知っておいたほうが良さそうですね。
 この「地獄の歩き方」は、あなたがいつかは行かねばならない旅に備えた旅行ガイドであり、日本人なら知っておきたい日本の仏教の死後の考え方です。
<本稿は、旧サイト「週刊ドリームライブラリ」で、2016年3月から連載されたものに加筆訂正を加えたものです>


第1回 地獄は壮大なテーマパークだ!

 さて、最初に地獄の成り立ちについて押さえておきましょう。
 地獄と一口に言っても大変広く、一般に知られているよりも遥かにたくさんの種類があります。のちほど詳しく説明致しますが、その数およそ150!

 試しに、ちょっと文献から名前を拾ってみると……
 無間地獄、アップダ地獄、ニラップダ地獄、アババ地獄、アハハ地獄、アタタ地獄、黄蓮地獄、百睡蓮地獄、青蓮地獄、白蓮地獄、紅蓮地獄、想地獄、黒縄地獄、叫喚地獄……
 聞いたこともない見所がいくつもあります。アハハ地獄とか、なんか楽しそうです。中には名前だけが伝わっていて、どんな場所かわからないものもあります。われわれは、これらのたくさんの地獄がある場所を総称して「地獄」と呼んでいるのです。

 もともと「地獄」とは、仏教発祥以前の古代インドの民間信仰に端を発しており、サンスクリット語のナラカ(naraka、奈落の底、の「奈落」の語源です。)と呼ばれるものが起源です。この言葉は、字の通り「地の底の牢獄」という意味で、「悪人が死後に生れ落ち、罰を受ける場所」として考えられていました。
 初期の仏教に登場する地獄はこの元の姿に近い単純なもの(地の底にあって、悪人が苦しめられる)でした。ところが、時代が下ると、仏典の数が増えたり、中国などの他の国に伝わる過程で、他の宗教や思想を吸収していったり……で、仏教そのものが発祥当初とは随分趣を変えていきます。
 それに伴って、地獄の姿も多種多様なものに変わって行き、システムも系統だった複雑で整備されたものへと変化していきます。まるで、どんどんアトラクションが増えるテーマパークのようです。

 このような経緯を得て、平安・鎌倉時代までには様々な経典・仏典が日本に伝わるのですが、それら多くの資料を基に、10世紀頃にひとつの書物が出来上がります。それが「往生要集」です。初のあの世へのガイドブックといえるかもしれません。
 そのあと、12世紀以降に製作される「地獄草紙」「十王図」などのいわゆる地獄絵に描かれる地獄の姿は、その殆どがこの書物を参考にしたものと思われます。その意味では、この「往生要集」こそが、現代にまで残る日本仏教の地獄のイメージ(血の池、針の山)などを定着させたものと言えるでしょう。

 そこで、以下、主に「往生要集」にしたがって、地獄のあれこれについて触れていくことにします。

【地獄のある場所 : LOCATION】
 地獄のある場所は、地下深くであると言われています。1000ヨージャナから第一の地獄が始まります。ヨージャナとは由旬と書きます。古代インドの距離の単位で、約7マイル、或いは9マイルとされているので、1000由旬は約1万~1万5000kmくらいになりますね。
 ちなみに地球の直径が約1万3000kmなので、突き抜けてますねw
まあとにかく、昔の人は、地中深〜くと考えていたようです。実際の場所についてはあなたはそれほど心配しなくてもいいでしょう。行く時にはほぼ自動的に行くようになります。^^;

【構造とシステム:STRUCTURE & SYSTEM】
 大別して8種類の地獄が縦に並んでいる構造になっています。
 地獄の中は、さらにテーマで分かれている! これもまた地上のテーマパークとよく似ていますね。
 縦横高さはどれも1万由旬(10万~15万Km)。なので、最下層の地獄は8万~9万由旬(約100万~130万km)のところにあります。下の方の地獄に行くほど、きつい刑罰が行われています。当然、罪の重い人ほど下層の地獄へと割り振られます。

【種類・名称:CATEGORY】
 先に述べた通り、8種類の地獄があるとされ、これを八大地獄と呼びます。
一、等活地獄(とうかつじごく)
二、黒縄地獄(こくじょうじごく)
三、衆合地獄(しゅごう、しゅうごうじごく)
四、叫喚地獄(きょうかんじごく)
五、大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)
六、焦熱地獄(しょうねつじごく)
七、大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)
八、無間地獄(むげんじごく)

上からこの順にならんでいます。

地獄の構造

 第一の地獄である『等活地獄』には、東西南北の四方に門があり、その先に小地獄と呼ばれる16の小さな地獄がある、とされています。東西南北ひとつの門につき、4種類なので4×4で16なのですね。

等活地獄平面図


小地獄の名称は
一、屎泥処(しでいしょ)
二、刀輪処(とうりんしょ)
三、瓮塾処(おうじゅくしょ)
四、多苦処(たくしょ)
五、闇冥処(あんみょうしょ)
六、不喜処(ふきしょ)
七、極苦処(ごくくしょ)

 読むのも嫌になってきましたね。わかります。「往生要集」の著者・源信さんは、「あとは参考にした教典にはこれ以上書いてありませんでした」といって、なぜかここで止めていますが、実は書いてありまして、以下の通りです。

八、衆病処(しゅうびょうしょ)
九、雨鉄処(うてつしょ)
十、悪杖処(あくじょうしょ)
十一、黒色鼠狼処(こくしょくそろうしょ)
十二、異異廻転処(いいかいてんしょ)
十三、苦逼処(くひつしょ)
十四、鉢頭麻鬢処(はちずまびんじょ)
十五、陂池処(ひちしょ)
十六、空中受苦処(くうちゅうじゅくしょ)

となっています。
 源信さんは、非常に勉強熱心な方だったらしいので、八~十六の場所も知ってたのではないかと思うんですが、さすがにめんどくさくなったんでしょうか(笑)

【まとめ:地獄は壮大な責め苦ワンダーランド】
 「往生要集」には、はっきりと書いてありませんが、その他の経典も合わせ読むと、八大地獄のそれぞれに十六地獄がくっついているとのことですので、

(大地獄1+小地獄16)×8階層=17×8=136


 なんと、136も地獄があると言うことになります。更に、この八大地獄、16の小地獄とは別に、八寒地獄、孤独地獄、などがあるともされていますので、全部足すと、150くらいにはなりますね。名前が伝わっているだけで内容が分からない地獄、あるいは、名前すらも忘れられた地獄もあるかもしれません。そういったものまで勘定に入れると……一体、どれくらいになるのでしょう。

 以上、長々と地獄についてみてまいりましたが、いかがでたでしょうか?その広さ・大きさにしても、また数の多さにしても、圧倒的、かつ壮大なスケールの場所であることを、まずは感じ取って頂けたなら幸いです。

 
次回は死後からの旅程表、冥途について。
第2回「さあ、旅に出よう!」をお楽しみに。


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