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シン・吾輩は猫である by Miruba

 「三題:沖縄・SNS・猫」で、すぐに思い浮かぶのが、沖縄で2年半ぶりに飼い主のもとに戻ることになった白猫のモモちゃんのことだ、
 確か飼い主が行方不明になった飼い猫のチラシを作りポスティングで探していたところを、SNSで誰かが発信した。
 その時は見つからなかったのだが、ある日カラスに突つかれている猫を見て、数年前SNSで見たポスターの猫の特徴に似ている(白猫・ブルーの目・短いしっぽ)と、気が付いたことから発見されたという。飼い主はその後引っ越しをしていることから、もう見つからないと思っていただろうから、会えた時の感動はいかばかりかと思う。縁とは、本当に不思議なものである。


「シン・吾輩は猫である」


 あたしは猫。名前はもうある。飼い主の亮君が決めてくれた。
「わがはい! ご飯だよ」

 お、亮君が呼んでいる。そうあたしは「わがはい」と言う名の猫なんだ。
「わがはい、ダメダメそっちから来たら上手く撮れないだろ。こっちのほうから急いでくるんだよ、いいね」

 またか~、亮君は最近ネット投稿に凝っていて、あたしをネタに毎日SNSで動画を配信している。最初は数人のフォロアーだったのに、去年、沖縄のモモちゃんの話をきっかけに、亮君の動画も頻繁にみられるようになった。
いまや数万のフォロアーを抱え、キャットフードのスポンサーも現れてきて、亮君は張り切っている。

「おいおい、わがはい! もうちょっと食いつき気味に美味しそうに食べられないのか?」

 また無茶を言う。このブランドのキャットフードはあまり好きじゃない。
なんでも「穀物フリー、無添加、消化にやさしく、ベビー猫から老猫まで美味しく食べられます」という、うたい文句なのだが、かえって何を食べさせたいのかわからない、という類の中途半端な味なんだ。
 あ~あ、マグロの生缶が食べたいよ。

「わがはい! 風呂に入るぞ。何時もの通り、気持ちよさそうに入れよ。嫌がる猫なんざごまんといて面白くない」
「わがはい! 散歩に行くぞ、犬みたいに、リールを咥えてこいよ」
「わがはい! お留守番の動画撮るからな、俺がドアから出たら、このティッシュまき散らしていいぞ。うまくやれよ」

 いい加減にしてほしい。あたしは、俳優猫とちゃうんだからさ~。ほんと、疲れちゃって、たまたま開け放してあった窓から、脱出してやった。SNSなんか縁のない、もっと年寄りの飼い主を探そう。あたしは旅に出ることにした。

 最初は勢いよく、亮君のところを飛び出したが、一人? 一猫? で散歩などしたことないから不安になった。
 暗くなってきて、よほど戻ろうかと思ったら、庭いじりをしているおじいさんを見つけた。
 足元にすり寄ってみる。
「お、かわいい猫だね。どこの猫だろうね」
 おじいさんは、腰の曲がったおばあさんに話しかけている。
「この猫ちゃん、首輪がありませんよ。野良猫なんじゃないですか?」

 ヤバい。首輪はお散歩の時だけで、部屋では外していた。首輪なんかしていたら、通報されるところだった。助かった。

 おじいさんとおばあさんは、あたしに優しくしてくれた。
 自分たちの食べるお肉をちぎってくれた。いや、本当に美味しい。その後は放っておいてくれる。散歩も勝手に行ってよかった。好きな時に寝られる。自由を堪能できた。あたしは、ずっとこのうちがいい。

 テレビで朝のニュースをやっている。
 おばあさんが、朝食の鮭フレークをご飯の上に乗せてくれた。あたしは魚は好きと言うほどではないがこのフレークは美味しい。ガツガツと食べていたら、勝手口のドアが開いた。

「回覧板持ってきましたよ~。あら猫ちゃん、お飼いになったの?」どっかのおばさんが聞いてきた。
「いえ、昨日庭に入ってきましてね。なんだか懐いちゃったので」
「あら? この猫ちゃん、SNSで探している猫ちゃんじゃないかな?」

 ヤバい!! 逃げようとしたが、間に合わなかった。モモちゃんと違って、あたしは、わずか一日で元の飼い主亮君の腕に抱かれていた。

 感激の再会、名場面シーンはしっかりSNSで流れた。

 あたいは猫。名前は、もうある。


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