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怪談ぼたんどうろ by 網焼亭田楽

世の中にはいろいろと怖いものがございまして、昔から地震、雷、火事、オヤジなんて言葉がありますように、一番怖いのは「自分自身」でございます。その次が神社にいらっしゃる「神なり」、そして奥様方の敵「家事、育児」と続き、最後が「おやじギャグ」でございます。
それはもう、ツボにハマった時のおやじギャグの恐ろしさと言ったら……もちろんドツボにハマった時の恐ろしさでございますが。
なんてバカなことを言ってはいられません。この世には本当に怖いものが存在するのです。
今日はそんな泣く子も黙る怖いお話を紹介したいと存じます。
とは言え限られた時間ですので、さささっとお話をして、時間が来てはいそれまでよとなった折には、どうぞご理解を賜りたいと存じます。

さて、昔から道というものは不思議なもので、過去から来る道、未来へ行く道、あるいは異次元へ通じる道など、実にさまざまな道がございます。
そして、その道の入り口を開けると言われているのがボタンでございます。

皆さまもボタンを押すと何かが開くということは、日常でも体験なさっていると思います。エレベーターのボタンを押すと扉が開いたり、インターホンのボタンを押すと玄関のドアが開くとかですね。
なかには心のボタンを押すとからだが開くなんて方もいらっしゃるようですが、ま、それはさておき、ボタンにもいろんな大きさがあるようでございます。

異次元に通じる道のボタンはというと、さすがに大きいようでございます。

「おいおい。変なところに迷い込んじまったな。だいたい、おまえさんがこっちの方が近道だなんていうから、迷っちまったんじゃねえか」
「まあまあ、古池さん。そうカリカリしないでくださいよ。これはこれで楽しいじゃございませんか」
「何言ってんだい、松尾。たまにはお稲荷さんでもお参りに行こうなんていうから、まあ、冥土の土産ぐれえにはなるかと思って来てみたら、このザマだ」
「いえいえ、ここは結構な土産話になるところでございますよ」
「何だい、その土産話っていうのは」
「ほら、この道路に丸いものがいくつかありますでしょう」
「それがどうした。それよりも、俺は早くこんなとこから出たいんだよ」
「それそれ。古池さん、その方法なんですが」
「何でい、知ってるんなら早く言いやがれ」
「この丸いもの、何だかわかりますか?」
「そりゃ、おまえ……大きさからして、もしかして、お盆じゃねえか」
「さすが、古池さん。確かに、大きさといい、色や形、真にお盆にそっくりですね」
「じゃあ、お盆だろ」
「では、なぜこんな道端にお盆がいくつも置いてあるのですか?」
「そんなこたぁ、知ったこっちゃねえよ。それより、俺は早く、ここから出たいんだよ。こんな薄気味悪いところはでぇきれえなんだ」
「ですよね。ちょっと待ってください。道にお盆のような丸いもの、確かそんな話を聞いたことがあります」
「なんでい、なんでい。道にお盆が落ちてる話なんて聞いたことねえぞ」
「ええ、お盆じゃありません。古池さん、これ、きっとボタンです」
「何言ってんだよ、松尾。こんなおっきなボタンどうやって押すんだよ」
「おそらくは、押すというよりは乗るのだと思います」
「乗るだって?」
「はい、そのボタンに乗ると」
「どうなるんだい?」

「ちょうど時間となりました。この続きはまたの機会になんて言ったら怒られますかね」
「何訳のわかんねえこと言ってんだよ。もったいぶらずに言っちまいなよ。そのボタンに乗るとどうなるんだい」
「そのボタンに乗るとボワッと炎に包まれて、異次元へと続く道を開けてくれます」
「てえことは、そのボタンに乗ると」
「ポワッ、ポワッと光ながらいろんなところへ行けるということです」
「まるで聖火リレーみてえじゃねえか。それに、どこでもドアだ」
「古池さん、よくご存知で」
「で、どのドアに乗れば、今までいた世界に戻れるんだい?」
「それは、ちょっと待ってくださいよ」
「なんでい、なんでい。こいつポケットからなんか出しやがったぞ。何だいそりゃ」
「魔法のノート」
「何が書いてあるんだい」
「何も書いてありませんよ、ほら」
「何も書いてないノートのどこが魔法のノートなんだい」
「古池さん、よく見てください。これは魔法のノートなんです。知りたいことをこのノートに書くと、その答えが浮かび上がってくるというシロモノです」
「するてえと、辞書みてえなものか」
「そうです、そうです。しかもありとあらゆる辞書を兼ね備えている」
「まるでウィキペディアみてえじゃねえか」
「こりゃまた、よくご存知で。まあ、そんなようなものです」
「じゃあ、あのボタンがどこへつながっているのかもわかるってえのかい?」
「それには、まずキーワードを入力しなければなりません」
「キーワード?」
「ここで言うなら、ボタンと道路ですね」
「おうおう、面白そうじゃねえか。俺にやらせてくれよ」
「あっ、古池さん。無闇にさわると危ないですよ」
「平気だよ、平気。入力すればいいんだろ。ええと、『ぼたんどうろう』っと、こんな感じかな」
「ああ!」
「おおっ、すげえじゃねえか。ノートに目の前の道路が浮かんできやがったぞ。しかも、ひとつだけボタンが光ってやがる。あのボタンに乗ればいいんだな」
「ああ、ダメですよ!」
「じゃあ、ひと足先に帰ってるからな」
と言うが早いか、古池さんはノートが指し示すボタンにヒョイと飛び乗りました。

すると、スッと男は消えてなくなりました。

「ぼたんどうろう『牡丹灯籠』じゃなくて、ぼたんどうろ『ボタン道路』で検索しなくてはいけませんでしたね。今頃は古池さん、絶世の骸骨に抱きつかれていることでしょう」

古池や聞かず飛び込む miss note

お後がよろしいようで……

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