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最重度と区分認定された障害者(障害支援区分6)には歩き・走れる人もいるというお話。

 最重度障害者と聞くとどのような外見のどのような困難を抱えた方をイメージされるでしょう?

 怪我や病気が原因で肢体不自由となり、寝たきりで自分ではほとんど身体を動かすことができない人。筋萎縮系の難病で気管切開をしたり、呼吸器によって呼吸が維持されている人。衣食住全て、排泄や入浴にも全てに援助が必要な肢体不自由者。最低でも車椅子に乗って移動したり、寝たまま移動できるストレッチャーやベッドタイプの移動手段を用いていると想像される方が多いでしょうか。

 確かに、その誰もが障害者総合支援法における障害支援区分6(最重度)と認定されうる障害者です。

 ところが、近くで障害者と接する機会がないまま過ごしてこられた殆どの方がなかなか想像もできないタイプの最重度の障害者がいます。

 我が家の21歳の長女『なっち』はまさにそんな障害者です。

 なっちはアンジェルマン症候群という極めて珍しい希少染色体起因障害・疾患を持って生まれてきました。

 アンジェルマン症候群というのは、15番染色体上の原因遺伝子が一部欠失している(または機能しない状態にある)生まれながらの染色体起因障害で、身体的にもバランスの悪さや歩行困難、手の震え(振戦)、嚥下障害、痙攣発作などの症状もありますが、どちらかというと肢体不自由の度合いよりも知的に最重度の障害があり、有意語を持たず、新版K式発達検査で発達年齢(DQ)を数値化するとだいたい2歳を超えることが難しい知的にとても重度な障害です。

 笑顔が非常に特徴的で、社交的で、人と一緒に過ごすことが大好きです。とっても純粋で、なっちに至っては人を疑ったり警戒したりするようなことさえもありません。有意語はないですが、慣れた人にならば身振りや発声や表情で伝えたいことはだいたい伝えることができます。

 また、私たちには察することができない『人の本質』を見抜く(感じ取る)力がずば抜けています。うわべで素晴らしいことを並べ立てて喋っていても、いざ支援の場で予想外の展開が待ち受けていたときにその人の本心が出るようなことがあります。そういったその人の本質や価値の置かれている場所、また、自分がこの人に愛おしいと思われているかどうかを瞬時に見抜く力があります。

 これはきっと、健常者にも赤ちゃんの頃にはあったはずの、言葉の獲得とともに失われてしまった『感じ取る力』が研ぎ澄まされているからだろうと私は理解しています。

 この人たちは、危険認知も清潔不潔の意味を理解することも難しいため、自分で自分を守ることができません。転倒・転落・交通事故・誤嚥・窒息・火傷・溺水。興味を引くものが現れると、そちらに飛んでいってしまう衝動性もあるので、ありとあらゆる危険から彼女らを守るために、常に支援者の手と目が必要になります。

 お風呂のお湯を張ってくださっても、その熱さを判断することも、洗い場の滑りやすさを用心することもできません。

 食事を用意してくださっても、その温度に注意することも、自分が飲み込める大きさや固さかどうかに注意を向けることもできません。

 物に触る時も、柔らかい物だから潰さぬようにとそっと触れることも、液体だから濡れないようにと気をつけることも、重い物だから力を入れて持ち上げる必要があることも彼女らはわかりません。

 また、体の部位によっては触覚がとても過敏な部位があって、帽子や手袋や靴下を嫌がったり、中には服そのものを嫌がって脱いでしまう人もいたりします。

 かと思えば深部感覚が鈍いという面もあって、健常な人のように痛みを感じにくく怪我や病気に気づかなかったり、握っている感覚が鈍いので力加減が効かずに握り潰してしまったりすることもあります。

 また、【脳波の乱れがあるため】【睡眠に必要なホルモンが分泌されていないため】などと言われていますが、アンジェルマン症候群の人たちの多くはとてもひどい睡眠障害を抱えています。何日も寝なかったり、寝ても1、2時間だったり。その睡眠不足が新たな情緒不安定を引き起こしたり体調不良に繋がることもあります。何より家族は疲弊しきってしまいます。

 健常な人というのはそういう複雑な事柄を脳や身体の各器官のどこかで判断したり経験したり記憶したりしてありとあらゆる機能を用いて総合的に人間らしい行動に繋げることができているのであって、それはこんなにも高度な事なのだと言えます。

 障害支援区分が最重度の障害者の中にはそういう特徴への支援を必要としているマイノリティもいるということをお伝えする機会というのは意外となくて、彼女らの行動はただただ奇異に見えてしまい誤解されたり責められたりすることも多く、なかなか理解されません。

 彼女らは『歩ける』『移動できる』『食べられる』『排泄できる』(全部見守りや介助は必要だけれども)見た目には元気だから障害支援区分も軽くみられがちです。

 でも、動き回れるからこそ危険だらけだということは意外と理解していただけないのです。

 

 なぜ、力が強いのか。

 なぜ、これだけ理解しているのに、自分の気持ちの正しい伝え方ができないのか。

 なぜ、発声はできるけど有意語は話せないのか。

 なぜ、寝ないのか。

 なぜ、バランス悪くしか歩けないのか。

 なぜ、衝動性があるのか。

 なぜ、叩くのか。

 なぜ、自分の身体に痛みを伴う刺激を与えたりするのか。


 これは私が知っている『なっち』に関することのほんの一部だけですが、この他にも解明されていない事柄も含め、まだまだ我々が自分たちの感覚や体験で理解する【常識】に照らしただけじゃ想像の及ばない世界が存在するのです。

 そんな世界の存在を少しでもお伝えしていけたらと思います。


 そして今日も、時計の読めないなっちは、出かける時刻の2分前に私の首に巻きついてきて、行ってきます・行ってらっしゃいのハグをご所望。

 体内時計、恐るべし。

笑顔が増えるための活動をしています。 いただいたサポートは、稀少疾患であるアンジェルマン症候群の啓蒙活動、赤ちゃんから高齢者まで住み慣れた地域で1人でも多くの方が笑顔になるための地域活動の資金として大切に使わせていただきます(^^)