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人生革命セミナーの闇 第2章: セミナー後のコミュニティ3

コミュニティ内の同調圧力

セミナーが終わってから1週間が経過した。田中一郎は日常生活に戻りながらも、SNSを通じてセミナー仲間たちとつながり続けていた。しかし、次第に違和感を覚え始めていた。

ある日の夜、仕事から帰った田中はいつものようにスマートフォンを手に取った。Facebookグループには、相変わらず大量の投稿があった。

「今日も最高の1日でした!感謝感謝です♪」
「新しい目標を立てました。必ず達成します!」
「みんなで力を合わせれば、何でもできる!」

田中は少し疲れた表情で画面を見つめていた。「みんな、毎日こんなに前向きでいられるのかな...」

そのとき、1つの投稿が目に留まった。

「最近、仕事がうまくいかなくて...みんなのように前向きになれません」

珍しく、ネガティブな内容の投稿だった。田中は思わず身を乗り出した。

すると、すぐにコメントが付き始めた。

「それは考え方が間違っているからです!ポジティブシンキングが大切です」
「マインドセットを変えましょう。全ては自分次第です」
「弱音を吐くのは良くありません。頑張って!」

田中は眉をひそめた。励ましのつもりかもしれないが、どこか冷たさを感じる。

翌日、勇気を出して田中も投稿してみることにした。

「最近、毎日ポジティブでいるのが少し疲れてしまって...」

送信ボタンを押した瞬間、不安が襲ってきた。案の定、すぐにコメントが殺到した。

「田中さん、そんなことじゃダメですよ!」
「セミナーで学んだこと、もう忘れてしまったんですか?」
「負けそうになったら、もう一度『イエスマン』を観ましょう!」

田中は深いため息をついた。理解してもらえない疎外感と、みんなに合わせなければいけないプレッシャーを感じていた。

その夜、佐藤から電話がかかってきた。

「田中さん、大丈夫ですか?投稿を見て心配になって...」

田中は正直に話すことにした。「実は、みんなについていくのが少し大変で...」

佐藤の声には焦りが混じっていた。「でも、田中さん。セミナーで学んだことを実践しないと意味がないですよ。みんな頑張っているんです」

「そうですね...」田中は曖昧に答えた。

翌日、大西からメッセージが届いた。

「田中さん、最近の投稿を拝見しました。少し道に迷っているようですね。明日、お時間ありますか?直接お話ししましょう」

田中は緊張しながらも、了承した。

翌日、カフェで大西と対面した田中は、自分の正直な気持ちを話した。

「みんなについていくのが大変で...毎日ポジティブでいるのも難しくて...」

大西は真剣な表情で聞いていた。

「田中さん、あなたの気持ちはよくわかります。でも、それこそが成長のチャンスなんです」

「でも...」

「考えてみてください。みんなが同じように頑張っているんです。あなただけが特別じゃない。むしろ、みんなと同じように頑張ることで、新しい自分に生まれ変われるんです」

田中は黙って聞いていた。

「それに、あなたの弱音は、他の人の意欲も下げてしまいます。みんなで高め合うコミュニティなんです。一人一人が責任を持たなければいけません」

大西の言葉に、田中は何も反論できなかった。

「分かりました。頑張ります」

カフェを出た後、田中はすぐにスマートフォンを取り出した。

「みなさん、ご心配をおかけしてすみませんでした。初心に帰って、これからも前を向いて頑張ります!」

投稿すると、すぐに「いいね」とコメントが殺到した。

「その調子です!」
「田中さんなら大丈夫!」
「一緒に頑張りましょう!」

画面を見つめながら、田中の胸の内は複雑だった。みんなの期待に応えなければいけない。でも、本当にこれでいいのだろうか。

その夜、田中は久しぶりに古い友人の健太に電話をかけた。

「健太、最近どう?」

「ああ、相変わらずだよ。お前こそ、何かセミナーに行ったんだって?」

田中は少し躊躇したが、正直に話すことにした。セミナーのこと、SNSでの活動、最近感じている違和感まで。

健太は黙って聞いていたが、最後にポツリと言った。

「お前、大丈夫か?なんかすごく疲れてるみたいだぞ」

その言葉に、田中は思わず涙が込み上げてきた。

「ああ...でも、みんな頑張ってるから...」

「お前の人生だろ?他人に合わせる必要なんてないんじゃないか?」

健太の言葉が、田中の心に突き刺さった。

電話を切った後、田中は長い間天井を見つめていた。本当の自分はどこにいるのか。みんなに合わせることが、本当に正しいのか。

そんな疑問を抱えながら、田中は再びスマートフォンを手に取った。明日も、ポジティブな投稿を続けなければいけない。そう思いながら、田中は深いため息をついた。

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