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【小説】鳥かごの外は。。。#14

後ろから抱きしめられて、我に返った。
いつの間にか、寝ていたらしい。
いや、気絶したのかもしれない。。。
どちらにしても、意識がしばらく無かったようだ。

恐らくほんの一瞬の間だとは思う。
それでもアキラに抱きしめられるまで、気が付かなかったことに驚いた。
抱き寄せてくれるアキラの力の入れ方に優しさを感じながら、時が止まればいいのにと思った。

時刻はもう帰り支度をしなければならない時刻・・・
微笑み返すのが精いっぱいだった・・・

まるで夢のよう・・・・

そうつぶやいた後、精一杯の笑顔で、「帰るね」と言った。

アキラはもう一度抱きしめて、唇を重ねた後、駅まで送っていくよと言った。

ホテルから最寄り駅までは徒歩10分くらいだった。
大きなターミナル駅であったが、逆に人ごみで目立たないから、そこまでなら安心して送ってもらえる。
自宅の最寄り駅だと、乗降客の中に高確率で知り合いや顔見知り、ママ友などがいる。

駅まで歩いている間、アヤはずっと考えていた・・・
果たして次はあるのだろうか・・・
遠いし、贅沢は言えないのをわかっている・・・

また・・・会えるかな?

アヤが振り絞ってささやく・・・

あれ?または無いの?(笑)

少しいたずらっぽく、でもさわやかな笑顔でアキラは返した。

ううん、ほんとに「また」があるなら、嬉しい!

嬉々として返した・・・

駅までの間、結局アキラが目立ってしまうことに気が付いた。
トレーニングで鍛えた体は、普通の男性より厚みがあり大きく、ただでさえ背が高いうえに、ブーツを履いていたのでさらに背が高くなってしまい、嫌でも目立つ。

でも、最初に目が行くのはアキラの方だろうし、手でも繋いでいたならまだしも、繋いでいなかったので、心配はいらなかった。

帰宅ラッシュと、近くのスタジアムで行われたナイターの影響で、改札はごった返していた。
アキラは少し不安になったが、アヤはいつものことだったので「平気よ?」と言って、気にもしていなかった。

改札に入る前に、お互いに挨拶をする。
「また」があるから、またねと言って改札に送り出した。

背が高いアキラが、改札に仁王立ちしていると嫌でも目立つが、それはアヤにとってはいつまでも見えるということ。
アヤが階段を上って消えるまで、何度もお互い手を振りあった・・・

アヤが見えなくなると、アキラはすかさずメールする。
機械音痴のアヤは、ラインができなかった。
一度設定はしたものの、なぜかログインできなくなってしまい、ショップに行っても原因がわからず、仕方なく放置していた。
時代が時代だったのかもしれない・・・リカバリー方法が無く、セキュリティがガチガチに効いていたためかもしれない。

ただ、アキラにはどうでもよかった。
繋がる手段があればなんだってよかった。
それに、ラインのように一言二言を返すものより、メールのように長文を書ける方が、アキラは好きだった。

今日はありがとう。とても素敵な時間だった・・・
また会いたいな・・・
帰りは気をつけて帰ってね。

そうメールすると、ホテルへと戻っていった。

酒の匂いと、体臭の匂いでむせそうな電車内で、身動きが取れなくなっていたアヤだが、しばらくすると乗換の駅に着き、乗客がだんだんと少なくなっていた。

息苦しさと空気の悪さが無くなって、やっとスマホを見ることができた。

メールが来ていることはわかっていたが、とにかく先に家にメールする。
家族に帰宅を伝えて、アキラのメールにゆっくりと目を通した。

こちらこそありがとう。
夢のような時間だった。
また会えるなら、もっと愛したい・・・

率直な気持ちをメールした。
何度かメールのやり取りをして、ほどなく自宅の最寄り駅についた。

さぁ、切り替えないと!

アヤは少し後ろめたい気持ちになりながらも、とても素敵な時間を過ごせた充実感に満たされて、日常に戻っていった。

アキラは部屋に一人になって、回想していた。
なんて素敵な女性だったのだろうか?
一度きりで終わらせるつもりは毛頭もなかった。
ただ・・・空に上がるにはそれなりに費用が掛かる。

アキラはへそくりで、あと数回来られることを確認し、どんなペースで貯金し、空に上がるかを思案した。
当然のことながら、それほど頻繁にはできない。

どうやったら今よりへそくりを増やすことができるかを、家に帰ってから具体的に考えよう。
そう思っていた。

この時点で、アキラの罪悪感は薄れていた。
会う前はいろいろな大義名分を挙げたとはいえ、「それでも許されないことに踏み出そうとしている」という自覚があったし、そんな自分を軽蔑していた。

しかし、アヤにこんなにも夢中になり、アヤも自分に夢中になっていることが分かると、途端に罪悪感というブレーキも壊れ始める・・・

きっと神様が出会わせてくれたんだ・・・

何とも都合が良い理屈を作り上げていた。

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