どんよりとした鉛色の空を見上げる。今にも泣き出しそうな暗い空。
 ほら、泣き出した。泣いちゃった。
 ぽつりぽつりと冷たい雫が頬を打つ。
 さめざめと泣く空は私の心模様を映した鏡。
 ひたすら北を目指して歩く。
 家を出た。居場所がなくなった。
 平凡でいても何も言われず、気にしない、何も気にしないという言葉に嘘偽りなく、本当に良い意味でも悪い意味でも気にされなかった。
 それが急に、責めるように、存在を否定するかのようになった。日が昇ってからも暗くなってからもずっと。
 一緒にいるとしんどい、疲れる。
 そう言いながらも、放たれる矢は氷のようで、元気を出すのは難しい。
 ひたすら北を目指して歩く。

 雨の届かない人気のない場所を見つけた。
 ここを終着点にするのも良いかな。
 最後に寂しさを思いっきり抱き締めた。
 声を出してすすり泣く。
 雨の音が混ざり合い、ちょっぴり寂しいハーモニーを奏でる。
 濡れた体を横たえた。
 眠るように、夢に落ちていくように、幕を下ろして終わりたい。
 深く深く暗い底へ。沈んで沈んで横たわる。
 
 雨の音、走り抜ける音、川の音、風の音、どれも耳に心地よく、不思議と温もりに包まれた。
 冷えていく器、温かい鼓動。
 ひとりでひっそり消えられそう。
 誰かの声がした。何かを言ったような気がしたけれど、何を言ったか聞き取れない。
 喧騒をかき消すように、サックスの音色が響き渡る。
 ひたすら練習するその音に、惹かれるように体を起こす。
 音が消えてはまた流れる。
 奏でている人に気を惹かれ、体だけでも向けてみる。
 音が真っすぐ飛んできた。思わず見上げて音を見る。
 暗い瞳に映るのは、カーキと水と楽器の金。
 不思議そうに見られたような、心配そうに見られたような。
 不思議と温かくなる眼差し。
 上へと目指すあなたの姿と、あなたの輝きが胸を打つ。
 暗い水底から見上げる空。
 光の綺麗なレースへ手を伸ばす。
 キラキラ輝く天井目指して立ち上がる。
 暗い水底を蹴飛ばして、上へ上へと手を伸ばす。
 風に吹かれて練習しているあなたの姿が美しい。
 ひたすら打ち込むあなたの姿は、夜空を照らす朝の光。
 あなたに天からスポットライト。キラキラ輝く光の人。
 私も光へ踏み出したい。あなたのように輝きたい。


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