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多読による語彙習得は誇張されている

多読推進派の中には、辞書無しで読んで語彙が増えると主張する人がいます。では、どんな洋書を何冊(何万語)読めば語彙は何個増えるのでしょうか?

想定される具体例(事実ではありません)
日本の大学1年生がグレーデッドリーダー(Graded Readers, GR)を20万語読むと語彙は314±29語増える。

このように信頼性の高いデータを提示できる人、いますか?

多読による語彙習得において、いくつかの変数があります。たとえば
読者は小学生、中学生、高校生、大学生、一般社会人
期間は3ヵ月、6ヵ月、1年
読本はグレイディッドリーダー、英語話者向けの本

これらを勘案して論文や学会で発表されたデータを検討した結果、最も語彙習得効果が高い条件は小学生がGRを半年読んだ場合であり、最も効果が低い条件は社会人が児童書を1年以上読んだ場合である(たとえばの話です)。

このように慎重に検討した上で語彙が増えると主張している人、いますか?

名詞、動詞、形容詞、副詞はどれも同様に覚え易いのでしょうか。抽象性が高い単語も低い単語も辞書なしで同様に覚えられるのでしょうか?

洋書を多読して楽しくドンドン語彙が増えるなら、大学入試前の高校生は誰もが多読に励むはずです。しかし、現実はそうではありませんね。書店の英語学習コーナーに行けば、毎年のように新しい単語集が出版されていることが分かります。もし、多読で楽にボキャブラリーが増えるなら、なぜボキャビル本が毎年出版されるのでしょうか。需要があるから供給があるのです。

実例をひとつ挙げましょう。Ruth Stiles Gannettの「My Father's Dragon」は1948年に米国で出版された児童文学作品です。日本でも「エルマーのぼうけん」というタイトルで邦訳本があります。この洋書を読むと、英語力が非常に高い人でもgangplank, banyan, forelock, wahoo, horsefeathersという知らない単語に出会うはずです。これらの単語の意味は、別の洋書を読めば自然と分かるようになるでしょうか?

エルマー三部作の「Elmer and the Dragon」と「The Dragons of Blueland」を読んでも、これら5単語には出会う機会がありません。

では、ハリーポッターシリーズの8冊をすべて読めば、これらの未知語の意味が分かるようになって自分のproductive vocabularyとして身に付くでしょうか?

Harry Potter seriesをすべて読了すれば、総語数は100万語を超えますが、gangplank, banyan, forelock, wahoo, horsefeathersは一度も使われていません。遭遇する機会が皆無なら、どんなに語学の才能に恵まれている人でも、覚えるのは不可能ですね。

他の洋書を読んでも出会う機会がほとんど無くても、同じ本を繰り返し読めば確実に目にすることができます。「My Father's Dragon」を2回、あるいは3回読めば辞書を引かなくても意味がわかるようになるでしょうか?

この本の総語数は7682語なので、3回読んでもそれほど時間はかからないでしょう。実際に試してみましょう。正しい意味を理解して覚えられた人は今後も辞書なしで多読すれば良いし、繰り返し読んでも分からない人は「必要に応じて」辞書を引けば良いと思います。

外国語を習得する能力には個人差があります。他人には可能でも、自分にはできないかもしれません。私は才能に恵まれた人間ではありませんので、「必要に応じて」辞書を引いたり、ボキャビル本で単語を暗記したりしています。

Some people argue that extensive reading allows you to pick up new words effortlessly without the use of dictionaries.
Horsefeathers!

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