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プライベートブランドとしてのポジショニング③

前回、前々回に続いて、DRAMLAD立ち上げの際に定義したポジショニングの記事です。今回は「ブランドとして認知されるべきポジショニング」について書いています。

一連の記事は下記のリンクからご覧ください。

「ブランドとして認知されるべきポジショニング」と言っても、例えば、高級志向なのか庶民的なのか、知性的なのか遊び心溢れるのか、業界や扱う商品によってマッピングのバリエーションが違ってきますので、なかなか事例を参考にするのが難しいところですね。

海外ボトラーズの事例ー3つのパターンを基に説明

DRAMLADの場合は、プライベートブランドでウイスキーをリリースしていきます。

ですので、3種類のレンジをどういうブランドコンセプトにしていくのか、どのように顧客へ伝えていくのか、それによってどのように認知されていきたいのかを、最も強くアピールできる手段としてオリジナルラベルの設計を主軸に考えました。

その説明として一番分かりやすいのが海外ボトラーズ各社の定番商品のラベルですので、大きく3つのパターンを例に書いていきます。

※ボトラーズの名称が数多く出てきますが、書きながら思いついたものを列挙しています。ここに挙げている以外にも事例として挙げられるボトラーズは沢山ありますので、その点ご了承ください。

 【パターン1】訴求ポイント別にラベルを分けている

ラベルを訴求ポイント別に分けて、それぞれを定番ラベルとしてリリースしている例です。

訴求ポイントはボトラーズによって様々ですが、概ね加水かカスクストレングスかのアルコール度数や、熟成年数の長短などで分けられることが多く、老舗ボトラーズで良く見られるパターンかと思います。

代表的なボトラーズを挙げると、GMやシグナトリー、ダグラスレイン、ケイデンヘッドなどの老舗ボトラーズを思い浮かべるウイスキーファンが多いでしょう。

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このした訴求ポイント別で分けるパターンは、各社の看板商品がどのレンジなのか分かりやすく、レンジによって価格帯とターゲットが想定しやすいうえ、購入する側も嗜好やシチュエーションに応じた選択の幅が広がります。

 【パターン2】リリース毎に定番ラベルを変更している

同じスタイルのラベルデザインで色や使われている画像を変える例です。リリースの度に新しいボトルであることをアピールしやすく、同時に、原酒の個性を画像やイラスト等で表現しているラベルデザインが多く見られます。

このパターンは非常に多く、細かな点を見ていくとボトラーズによって少しずつ変わってくるのですが、見せ方が分かりやすいボトラーズだと、エージェンシーやネクター、トンプソン・ブラザーズ等が挙げられるかと思います。

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ボトラーズの場合、多くのウイスキーファンがご存知の通り、1回のリリースで数種類のボトルラインナップのリリースが一般的です。

トンプソン・ブラザーズのラベルは、大枠が統一されていながら、ラベル左側の画像を変えることで、ブランドの統一感とボトルの新規性がラベルから伝わります。

エージェンシーやネクターは、そのラインナップの度に全体的なデザインを変更しており、しかも、それでも彼らのボトルであることが伝わるので非常に興味深い例だと言えます。

 【パターン3】ひと目でブランドが分かる唯一無二の存在

ラベルデザインは1種類のみ。看板は1つ。誰が見ても、そのボトラーズであることが一目で分かるラベル。これも多く見られるパターンです。

代表的な例を挙げると、SMWS(スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ)が正にそうですね。あの、誰が見てもソサエティだと分かる緑のボトルとロゴ。

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ソサエティの面白さの代表としては、やはり蒸溜所名をナンバリングしていることですが、ラベルデザインもまた唯一無二の存在を示す好例と言えるでしょう。

その他、スコットランドだけではなくヨーロッパ等のボトラーズでも、このパターンは多いのですが、多すぎるので割愛します。

また、このパターンの特徴として、数年~10年に1回程度の間隔でマイナーチェンジ・フルモデルチェンジ含めてラベルデザインを刷新しています。この点に限れば、ラベルデザインにおける各社のブランディングの方向性はオフィシャルと似ていると言えます。

 【番外・その他のパターン】各社オリジナルブランドなど

ボトラーズの中には、従来のようにラベルに蒸溜所名を記載するパターンではなく、自社オリジナルブランドを開発してリリースしているケースがあります。

国内流通で有名な例を挙げると、ダグラスレインのビッグピートやダンカンテイラーのブラックブル、ヴィンテージモルトのフィンラガン等がこれに該当します。

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これらはボトラーズからのリリースでありながらも、ブレンダーカンパニーのウイスキーに近く、よりボトル単体としてのオリジナリティが強いと言えます。

事例から導いた共通設定

結論から書くと、以下のように設定しました。

価格帯と顧客層でのポジショニングと、既存商品と競合比較でのポジショニングを基にして、パターン1のように、それぞれ独立したラベルを採用。蒸溜所名やヴィンテージ等のスペック以外は変更せずに、1つのレンジで1つのラベルにすることで、訴求ポイントを明確にする。

そして、それぞれのレンジは下記のように設定しました。

【エントリーモデル】
短熟ウイスキーの低価格帯なので、単純に価格面だけでの手に取りやすさではなく、若さゆえの熟成に強く影響を受ける前の原酒本来の味わいや純粋さをしっかりと感じ取れるレンジ。また、今のウイスキーが持っている面白さが体験でき、その体験がウイスキーへの更なる興味と探求心を引き起こさせる。ラベルは全て統一されていて、スペック等のみを変更していく。

【メインモデル】
最も幅広いカスクを探すことができるためリリースの幅が広るレンジ。蒸溜所のハウススタイルを体現する良質なカスクや、今のウイスキーの旨さと豊かな個性を持ったカスクを、真摯に選び出したリリースであること。DRAMLADの看板となるボトルなので、ラベルはコーポレートカラーで統一。ただし海外事例パターン2のようにボトル毎に画像を変えることで1つ1つに個性を持たせていく。

【ハイエンドモデル】
高付加価値商品。高価格帯の長熟ウイスキーが該当していくので、選び出す私達のこれまでの経験値が最も問われる。そのため、ただ長熟だからリリースするのではなく、そこに蒸溜所としてのハウススタイルがあるかどうかも見定められているレンジであること。ラベルは海外事例パターン3に最も近く、画像は使用せずに文字情報だけの敢えてシンプルなラベルにする。

これらを整理して、それぞれのレンジのコンセプトを作り、ホームページに掲載しました。

DRAMLADの個性を決める

海外ボトラーズの事例を挙げながら3種類のレンジの設定をしました。

ここで、DRAMLADとして認知されていくべき全体像を確認します。

私達DRAMLADのビジネスは、樽を選んでオリジナルラベルでリリースするビジネスです。この「樽を選ぶ」ということがビジネスを継続する上で最も重要になります。

選んだ樽が高品質でなければ、これまで書いてきたセグメンテーションもポジショニングも、全て何の意味も無く単なるフレームワーク遊びであり、有言実行できなければ嘘や虚飾になります。

樽選びにおいて重要視したことと実践したこと、その理由については別の機会に書きますが、DRAMLADが樽選びの基本に置いたのは、以下の点でした。

① 長年ウイスキーを飲んできた人が持つ知識と経験の蓄積によって樽を選ぶこと

② 味はもちろんのこと、価格帯や季節感を計画的に反映させながら樽を選ぶこと

③ これらの実現性を上げるために、能動的なサンプル調達を行っていくこと

当然、この3つをマーケットで認知させていかなければ、私達の樽選びへの想いは誰にも伝わらないので、マーケットでブランドして認知されるべき全体像を、少し長いですが下記のように文章にまとめました。

私達は、プロフェッショナル・チームが真摯に選び出す良質なウイスキーをご提供していくウイスキー・プライベートブランド・カンパニーです。

私達は、ウイスキーの歴史と伝統に敬意を払い、蒸溜所のハウススタイルを体現するような良質な樽や、今のウイスキーの旨さと豊かな個性を持つ樽を選び、私達が自信を持ってリリースするボトルを通じて、ウイスキーファンの皆様に感動と歓びを体験していただき、私達もまたその歓びを分かち合うことを願っています。

そして、私達のプライベートブランドは、味わいや個性、ヴィンテージや熟成年数、カスクタイプ、そして価格帯など、全てのスペックを考慮して、3つのレンジでお届けします。また、特に興味深い個性を持つ樽はコンセプチュアルなラベルでリリースしていきます。

※海外ボトラーズ事例を基にした3種類のレンジに該当しない「コンセプチュアルなラベル」については別の機会に。

競合と同じスキームの自社オリジナルラベルでのプライベートボトルをリリースしていく会社でありながらも、私達の想いや目的を独自の個性として明確に示し、マーケットでのポジションを確立していくことを謳っています。

言い換えれば、私達DRAMLADのプライベートブランドとしての価値であり、存在理由でもあり、私達のヴィジョンでもあります。

同時に、義務と責任でもあります。
言った以上やらねば、です。

終わりに

これまで数回に渡って、DRAMLAD事業構想の段階でブランドの定義付けとして最初に取り掛かったセグメンテーションとポジショニングについて書いてきました。

正直言いますと、ほぼウイスキーの話が無い中での#ウイスキーを付けての投稿に申し訳なく感じているところではありますが、DRAMLADがスタート前に何を考えていたのか、その一端を知っていただけると嬉しいなと思い、これらの記事にしました。

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私達DRAMLADは、今年2021年8月から9月末現在、3種類のウイスキーをリリースしました。飲食・酒類業界にとって非常に厳しい時代の中でのリリースでしたが、3種類とも全て完売することができました。

リリース前は完売率80%程度だろうと予測していましたが、自社オンラインショップでの販売は毎回数秒で売切れ、卸先の酒販店各社様でも売切れ、中には抽選販売にするなど大変お手数おかけしていることもあり、本当にありがたい状況です。

これが事業構想段階でのブランディングによる結果かどうかは、実際のリリースによって発生した予想外の事柄も含めて、今後の検証となるでしょう。

喫緊の課題としては予測を超える需要に対して何をどのように供給していくのがベストなのかを考えること、中期的な課題としては高品質な原酒の確保とブランディングの実現性の精度を高めるマーケティングをすること、長期的にはブランドの継続の他、ラベルのマイナーチェンジも視野に入っていくだろうと予測しているところです。

ウイスキー片手に読んでいただければ幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。

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