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役の力関係「ステータス」

 関東を中心に演技を教えている秋江智文です。専門はマイケルチェーホフ演技テクニックですが、どんな俳優でも必要だと思う、演技の基礎についてお伝えしていきます。

芝居におけるステータス

 王様が信頼していた家臣に裏切られる。馬鹿にしていた部下が出世して追い抜かれ逆の立場になる。子どもだと思っていた息子に助けられる。
 芝居の登場人物にはステータスが与えられ、これが芝居中に逆転したり、人に譲ったり、変化したりすることで様々なドラマが作られることがあります。ステータスは二者間以上いる状況で生まれる力関係です。ステータスには身分、文化、地位、役職、職業、人種、性別などが原因でおこることもあり、ただ身体、精神、性格などが由来でも起こりうるものです。
 芝居では、これらのステータスを使うことで、差別、ハラスメントなどの問題を社会に提起したり、ギャップを出すことでユーモラスにしたり、すてを乗り越える作品で感動を生み出そうとするのです。

テーマの中にあるステータス

 ステータスを使った映画の例の一つは、アカデミー賞作品賞などを受賞した「グリーンブック」です。1960年代、黒人の天才ピアニストが、腕っぷしが強く荒っぽいイタリア人の用心棒が運転する車で、人種差別の厳しい南部へのコンサートツアーをするもの。ステータスが低いと見なされていた黒人が、人としての尊厳や品位を行動や姿勢によって示すことで、逆境に打ち勝とうとする素晴らしい作品です。

 このように多くの作品にステータスは、差別、社会問題、成長などのテーマを描くために使われています。

劇的な変化でみせるステータス

 ステータスの変化の瞬間は劇的で大変見ごたえがあります。ジム・キャリ―主演「ライヤー・ライヤー」の法廷のシーンにはとても分かり易い変化が見られます。映画のクライマックスで、弁護士フレッチャーは得意の嘘も使えなくなり明らかに、明らかに敗色が濃厚だと思われていた決着が、年齢詐称を暴き逆転勝ちを果たします。それまでのフレッチャーが全くうまく行かなかっただけに、その勝訴はスカッとします。

 ステータスをしっかり理解しておくと、作品において何が見せ場なのか、それをどう見せればいいのかと考えるきっかけになります。

身体や声で表現するステータス

 ステータスを演じる上で典型的な例として、ステータスが高い人は、往々にして大きくゆっくり演じられ、ステータスが低い人は猫背で、内また、声が小さかったりします。
 ケビンベーコン主演の「告発」は、こうした身体や声の表現を取り入れた素晴らしい演技の例と言えます。
 主人公のヘンリーは5ドル盗んだという罪で、アルカトラズ刑務所に投獄され、非人道的な虐待により独房に長期間入れられ精神錯乱により、他の囚人を殺してしまいます。この殺人の弁護をしたジェームスによって、アルカトラズ刑務所に調査が入ることになり、閉所のきっかけとなりました。
  初め、ヘンリーは全てを諦め、まるで自分の将来を完全にあきらめたように極刑を望み、体を曲げ、声も小さく、首を振ってばかりでした。しかし最後には証言台に立ち、涙ながらに「もう怖がりたくない。」”I wanna stop being afraid”と訴えました。結局裁判で刑務所に戻されましたが、自分を虐待していた刑務所所長に立ち向かい、姿勢を正し、はっきり声を上げ自分のプライドを示すのでした。最後に背筋を伸ばし、胸をはって歩く姿は、自分の尊厳を回復する姿はとても印象的です。

  ステータスは芝居の様々な形で使われます。テーマに、イベントに、演技にと様々な形で使われます。ぜひこのステータスを自分の演技に取り入れてみてください。

エクササイズ➀

目的:身体を通して、ステータスを理解する。
   他者に対して力を行使してみる。
所要時間:10分間

➀ペアで行います。ある程度の部屋の大きさが必要です。

②向かい合い、お互いの指先や手のひら同士をくっつけます。

③一人が「リーダー」、もう一人が「フォロワー」になり、リーダーはフォロワーを誘導し、部屋を自由に動かしていきます。
 フォロワーは接着面を決してはなさないように常についていかなければなりません。中には目をつぶってしまう人がいますが、夢中になって人や物とぶつかり、けがをする場合があるので、初めは目は開けておきましょう。

④リーダーは、相手の状態をつぶさに観察しながら、相手を上に下に、スピードを変えて誘導します。同時に周りにも気を配ります。
 リーダー役の中には、優しすぎる俳優がいて、ゆっくりのテンポで小さい動きばかりでコンフォートゾーンから抜け出ない場合があります。その際は、ファシリテーター役がいれば「もっと自己中な上司になって!」、「厳しいコーチになって」などと指示をだして、俳優が力を行使することに対して許可が出しやすくしてあげましょう。

エクササイズ②

目的 :姿勢や声だけでどれだけステータスが変化するのか体験する。内面や関係性の変化を理解する。

所要時間:30分

➀役者は部屋の中を普段のように歩きます。自分の内面で何が起きるのかに注目しましょう。

②ステータスが高い人や低い人をどのように動くのかを試してみます。
 歩き方、腕の使い方、胸、背骨、首の角度、テンポリズムなど一つずつ確認しましょう。

③一度やってみたら、一旦やめてほかの人と話し合ってみます。中には自分とは違う考えの人もいるので、他の人の動き方についてのアイディも試しに行ってみると、演技の幅が広がります。
 部屋のどこにいきたくなったのかも聞いてみましょう。
 考え方や感じ方にも変化があるので、そこも聞いてみましょう。

※注意点としては、自分で変えているつもりでも、傍から見て姿勢や動きを変えていない俳優がいます。それは大きく身体に変化を加えることが慣れていないので、自分でもびっくりするくらい変化をつけましょう。

④「こんにちは」だけの言えることにして、どのようにお互いが挨拶をするのかも探求します。
 また俳優達をステータスが高い人と低い人でわけて、どのように交流するのか試してみましょう。

⑤即興を行ってみてもいいでしょう。
 例えば。「職場で上司は部下をいじめている。途中で部下は上司が職場のお金を使い込んだことが分かる。部下はそれを材料に今までの復讐をする。」

 マイケルチェーホフ東京HP

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