「今ここにいる」意識を高める~俳優のための演技の基本『集中の円』~
東京で演技講師、演出家、俳優をしている秋江智文と言います。マイケルチェーホフ演技テクニックを専門で教えています。
ここでは演技初心者の方に分かり易く、演技のイロハをお伝えできればと思っております。
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演技をしていて自分のセリフや動きに必死になって周りの人やものを忘れてはいませんか?
この集中の円(注意の輪)は、俳優が相手やものに集中して「今、ここ」に存在して演技ができるよう、近代演技術の父K.スタニスラフスキーによって考えられたものです。
どの俳優も集中力が散漫になりえる
演技初心者は、準備したセリフの言い回しや決められた動き行うことに必死で、共演者や芝居の世界を忘れてしまいます。また稽古をしていても演出家や監督の目ばかり気にしていていたり、舞台で観客の目ばかり意識してしまったりする俳優も少なくありません。実はこうしたことはベテランの俳優にもあります。
そもそも演技はマルチタスクにおこなわれます。見慣れない大道具・小道具、着なれない衣装、観客、セリフやミザンスなどに気が散ってしまいなかなか集中できません。
「今、ここにいる」という意識
そんなとき、注意する対象を一点にすることで、演技に集中できるような気になれます。瞑想も同様で、ただ呼吸に集中することで雑念が消えます。その向けるべき集中の先を「集中の円(注意の輪」といいます。
例えばあなたが短距離走のランナーだとします。腕の振り方、足の上げ方、スタートのタイミング、競争相手のことなど考えていると気が散ってしまい本来の能力が発揮されません。けれどただゴールを意識するだけで、そのための行動を体が自然と見つけ出してくれ、走ることに集中できます。
集中するポイントを明確にすることで自分が「今、ここにいる」という意識がもて自分の能力が発揮され、観客もあなたが舞台上でしっかりと存在していることが分かります。
三つの意識の対象
普段私たちは人と話をするとき、話し相手だけではなく、手元や天井など様々なところに意識したりしています。意識を向ける対象は自分を中心に円のように広がり、それが三重となっています。
【第一サークル】
自分自身や自分の持っているものに意識を向ける。自分の頭の中を意識して考え語としている様子みせたり、手に持っているペンダントを見つめながら思い出を語ったりできます。映像演技でよく使われていますね。
【第二サークル】
一人の相手や複数人の相手に意識を向ける。演技の多くがこの第二サークルで展開します。状況としては2人の会話だったり、3~4人での議論だったり様々です。
【第三サークル】
それ以外の世界に意識を向ける。群衆、風景、神といったイメージから、観客にまで意識を向けることになります。リア王やハムレットの壮大な演技はこうした第三のサークルが使われることが多いです。
芝居の世界がひろがる
こうして意識をさまざまな人や対象に変化させることで、役者は役としてその世界に存在することになります。そしてもう一つ重要なことは芝居の世界が広がることです。役者が舞台上で上を見るだけで、観客にとって何もない舞台上に空が現れ、袖に向かって「お母さ~ん。」と呼ぶだけでその先に母が存在します。役者が見えているものしか観客は見えません。役者の意識を外に向けることで、何もない空間がイメージに彩られた世界になるのです。
シソンヌのじろうさんの「義彦のおっさん」というコントがあります。これを見たとき「『集中の円』やってるじゃん!」と思いました。上手く袖を使ったり、見上げたりしてコントながら自然な雰囲気で存在しています。
また田村正和さんも、相手と自分の手元を交互に見ることで、自分の思考と会話しているような演技をされていました。
エクササイズ
目的 :「集中の円」を体で理解する。自分が普段どのサークルを使う傾向があるか、話の内容でどのサークルを使うのかを知る。
所要時間:20分程度
※2人以上で行ってください。
⑴下記の作業をパントマイムで行います。
①目玉焼きを焼く。
②編み物をする。
③お茶を飲む。
⑵、⑴の作業を行いながら、【A】と【B】の指示に従い即興で話をしてみましょう。
※話の内容はでっち上げで構いません。
【A】第一、二、三サークルの一つずつ使い、下記の①~③について話をしましょう。一つずつのサークルを行い、話し手と聞き手でどのような感じがしたのか話し合いましょう。
【B】次は気持ちに従い、自然とどこを向くのか意識してみましょう。話の内容によってどのサークルを使う傾向があるのか、話をしましょう。
①相手に告白する。
②夏の思い出について語る。
③将来の夢について語る。
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