見出し画像

美食探偵 明智五郎〜After Short Story〜

2020年6月28日に放送された『美食探偵 明智五郎』最終話は、武田玲奈さん演じるココがマリアの役目を引き継いだかのようなシーンで終わりました。この含みをもたせたラストに妄想癖を刺激され、もし続編ができるならその前にこんなシーンがあるかもしれないという、ココと小芝風花さん演じる小林苺、そして中村倫也さん演じる明智五郎が登場する創作後日談です。

---

「ありがとうございました。またお待ちしております」

 今日もキッチンカーのそばで小林苺の元気な声が響いていた。依然としてマリアの生死は不明だったが、マリア・ファミリーの脅威が去り料理人としての日常が戻っていた。

「お料理っていうのは食べる相手のことを思いやって作らないとおいしくはならないと思います」

 最後の晩餐でそう語った苺が作るお弁当は、明智五郎が原宿のマエストロと呼んでいたシェフも最高にうまいと褒めたほどの出来栄えで、もともと評判が良かった。そして、幾度となく命の危険にさらされながらも生き延び、料理に対する思いが一段と強まった苺が作るお弁当は今まで以上に美味しくなり、口コミで評判が伝わって順調に固定客が増え、充実した日々を過ごしていた。

 ようやく客足が落ち着き、そろそろ明智のためにちくわの磯辺揚げを作ろうと考えていたその時、突然ひときわ強い風が吹き抜けた。思わず目を閉じ顔を背けた苺の耳に若い女性の声が飛び込んできた。

「日替わり弁当、一つください」
「あっ、はい。日替わり弁当ですね」

 慌てて目を開け顔を向けた苺の前にはココが立っていた。

「ココちゃん!?」
「今日は近くでお仕事があるから、久しぶりに苺ちゃんの顔を見ようと思って」
「あっ、そうなんだ……えっと、日替わり弁当だよね」

 戸惑いながらお弁当を用意する苺にココは問いかけた。

「マリアさん、結局どうなったと思う?」
「どうって……崖から海に落ちたんだよ。足も撃たれてたし、助かるはずが……」

 顔を上げた苺はココの挑発的な笑顔に気づくと思わず口をつぐんだ。

「でもね、私、マリアさんはきっとどこかで生きている気がするんだ。そう感じるの。だから私も頑張って生きてるの。それに、新しいやりがいも見つけたし」
「やりがいって?」
「困っている人を助けてあげること。私が助けられたように。じゃあね、苺ちゃん」

 そう言うと、お弁当を受け取ったココは天使のような笑顔を見せ立ち去っていった。
 ココの言葉が意味することを考えながら遠ざかっていく後ろ姿を見つめていた苺の目には、その背中に一瞬禍々しい黒い羽が見えた気がした。

「えっ!?」

 目を凝らしてよく見ようとしたが、人混みに紛れてココの姿はほとんど見えなくなっていた。

「困っている人を助けてあげることって、まさか……ね」

 マリアのようにノートパソコンやスマホに向かうココの姿が苺の脳裏に浮かび始めていた。それを察したかのようにやって来た明智が声をかけた。

「どうした? 1号」
「明智さん……いえ、なんでもないです。最近お客さんが増えてさっきまで大忙しで、やっと一息ついていたところです」
「疲れているところすまないが、僕のお弁当を用意して欲しいのだが」
「わかりました。とびっきり美味しいちくわの磯辺揚げ作りますね」

 ココと話したことを明智に伝えるのはやめておこう、もう終わったことなのだから。不安な気持ちを落ち着かせるように料理に集中し始めた苺は、腕のいい料理人の顔に戻っていた。
 料理を作る苺の姿を頼もしく見つめていた明智だったが、ふと何かを感じたように視線を移した。明智は知らなかったが、それはココが歩いていった方角だった。

 その頃、いちごデリのお弁当を手にしばらく歩いていたココは、突然後ろから声をかけられていた。

「あら、最近はあそこのお弁当を食べてるの?」

 驚くこともなく立ち止まり、振り返ったココは満面の笑みでこう答えた。

「たまたまです。お待ちしておりました、マリア様」

ー完ー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?