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フィクションの世界の役に命を吹き込む松本まりかさんの異次元の演技力

普通の演技とは一線を隔し、視聴者に非常に強い印象を与える演技を「怪演」、そのような演技を見せる女優さんを「怪演女優」と呼ぶ。この表現は個々の作品の特定の役柄を演じた時に使われ、特定の女優さんに対して長きにわたり使われることはないと思っていた。だが、今や「怪演女優」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは松本まりかさんと言っても過言ではないだろう。それぐらい、枕詞のように定着した感がある。

松本まりかという女優さんを、その名前と共に意識したのは御多分に洩れず『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)だった。すべての登場人物を翻弄する「あざとかわいい」とも評された演技にすっかり魅了され、それ以来、ドラマの制作発表があるとキャストに松本まりかの名前がないか探すようになり、出演するドラマに一通り目を通してきた。

そうして出演作を観ていくうちに、他の女優さんの「怪演」と評された演技とは何かが違うという感触を持ちはじめ、その演技から受ける印象と「怪演」という表現にギャップを感じるようになった。そして、ようやく『竜の道 二つの顔の復讐者』(フジテレビ系)の演技を観て、その理由に思い至った。松本まりかさんの演技からは、演じている役柄の「今」だけではなく、そこに至るまでどういう生き方をしてきたのか、どういう経験を重ねてきたのかという「それまでの人生」が感じられ、女性の業というものが演技から伝わる点が決定的に他の女優さんの演技と違っているのだ。

演技に関しては「台本の文字面で捉えないということを大切にしている」といい、「そこに描かれているセリフを手がかりにして、彼女はどういう生い立ちで生きてきたんだろうとか、その人の人生を考え演技をすることを大切にしています。自然と湧き上がる、その人の人生観が演技の中ににじみ出てきてくれたらいいなって思います」とこだわりを明かす。

自身の演技について答えたインタビュー記事を読み、自分が感じたことが正しいとわかった。松本まりかさんは、いわば自身が演じる役専属の脚本家でもあるのだ。ドラマ全体の脚本では表現しきれない、演じる役のバックボーンを深く考察し、それを高い演技力で表現する。表面的な演技では太刀打ちできない異次元の演技は、徹底的に役に向き合う姿勢から生まれていた。やはり、ここ数年の目覚しい活躍ぶりは伊達ではなかった。

松本まりかさんには今後も「怪演」という言葉が付いて回るだろう。この言葉に違和感を覚えるようになった身としては、もっといい表現を提案したいところだが、語彙力が乏しい自分には思い浮かびそうもない。それでも、演じる役のバックボーンを深く解釈し、高い演技力を解放してそれを表現する松本まりかさんには「怪演」よりも「解演」という言葉の方が似合っていると思う。

そんな松本まりかさんの次回作『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)が10月31日からスタートする。『妖怪シェアハウス』に続き、「土曜ナイトドラマ」枠(土曜午後11時)に2作連続の出演であり、今やすっかりなくてはならない女優さんになった。次回作で演じる田中圭さんの恋人役では、一体どんな人生観を演技の中で見せてくれるのか。また週末が待ち遠しくなりそうだ。


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