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祖母にも雪を見せたくて

これは私が小学校低学年か中学年ぐらいの頃の話。
今でも私は九州に住んでいるが、九州だと山の方でなければ雪は滅多に降るものではない。当時私の住む町でも、積もる程の雪が降るのは60年に一度、積もるといっても1cmあれば多い方といったレベルだ。
そしてある冬に、父の運転で雪の積もった所に行く事になった。足の悪い祖母は家に残ることになり、両親と私含む姉弟で出掛けることになった。

道中は省くが、父は車を走らせ、トンネルを抜けるとそこは雪景色だった。積もった雪を見るのは初めてで、姉弟みんなで大はしゃぎし、雪だるまを作ろうとしたり、雪玉を作ってみたりと思い思いに遊んでいた。ただ、その雪は新雪ではなくぼた雪で、雪だるまにするのは不向きであり、上手く丸くすることが出来ず、次第に考えが別の方へ向く。
(おばあちゃんにも雪を見せてあげたいなぁ…)
私はそう思い、母に伝える。母は微笑み、車内からクッキーの空き缶を見付けてきた。私はその中に雪を詰める。祖母の喜ぶ顔を見るのが楽しみだ。そうして頃合いになり、父の運転で来た道を戻る。

家に着き、祖母へのお土産を持って祖母の部屋へ向かう。
「雪、すごかったんだよ!おばあちゃん、これお土産!」
まくし立てるように言い、祖母に雪を入れていた缶を渡す。だが、缶を開けるとそこにはたぷたぷと水が入っていた。祖母は分かっていると言いたげに微笑み、
「お土産をくれようとした気持ちだけでも嬉しいよ、ありがとう。」
と言ってくれた。祖母に雪を見せることは叶わなかったが、祖母は喜んでくれている。私は泣きそうになりながらも笑った。