警察署で泊めてもらった話 後編

その警察署を後にし、持っているガラケーを使って最寄りのネカフェを調べてみるが、10km以上は離れていた。戻っても仕方ない。そのまま押し歩きを続けることにした。

国道沿いを押し歩いて1時間は経っただろうか、パトカーが横を通りかかり、私の少し先で止まった。こんな夜中に原付を推し歩いていたので、不審者に思えたのだろう。私は原付が故障し、泊まれる場所も無いので押し歩きをしている旨を伝える。警察官も私の様子を見て信じてくれたのだろう、念の為と運転免許証の提示は求められたが、気を付けて進むよう労われた程度だった。警察官の一人はバイクが好きで、似たようなトラブルに遭った経験があったそうだ。

そこから、10kmは押し歩きをしただろうか。途中、霧雨程度のごく弱い雨もあったが、前に立ち寄った警察署の、隣の市の市街地への分岐点へ何とか辿り着いた。ガラケーで調べると、市街地の方へ行けば警察署があるようだった。私はまた聞き込みのために警察署を訪れることにした。時刻はもう朝3時を回っていた。

警察署に入り、窓口で訊ねる。
「この近くで宿泊できる場所はありませんか?」
だが、その市にもネットカフェなど無く、ホテルのチェックインも当然出来ない時間だ。当然だが、そういう施設は無いという答えが帰ってきた。私は、その質問の前に経緯も説明しており、10km以上原付を押し歩いていたことも伝えていた。私の疲れ具合が見て取れたのか、
「宜しければ、ロビーの椅子で横になりますか?」という提案を受けた。疲れていた私は、その言葉に甘んじて休ませてもらうことにした。もちろん、身分証明書の提示はその時も求められたが、それも当然だろう。

かくして、私は警察署で数時間休ませてもらい、業務を始めた頃に電話帳をお借りして、近くのバイク屋を調べ、片っ端から連絡した。お盆休みだったが、奇跡的にも営業している店があった。携帯の充電が切れては良くないと、携帯ショップで充電して時間を潰した。バイク屋の車に私の原付を乗せ、押し歩きした道を引き返すことになった。数時間掛けて押し歩いた道を、車では十数分で走る。

バイク屋で修理してもらい原因を聞くと、「スロットルワイヤー」という部品の故障らしかった。どういうものかはい今でもよく分からないが、その名前だけは記憶に深く刻みつけられている。