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「新作歌舞伎FFX」を見て歌舞伎役者の凄さを知った

丸一日かけて味わった最高の舞台

「新作歌舞伎FFX」を見ました。
公演シーズンの終わり際に行ったのですが、ほぼ満席で凄まじい人気でした。
私は歌舞伎を見るのは3度目くらいなのですが、過去イチで面白くて満足しました。

会場前にはのぼりも立っていて「ホントに歌舞伎なんだ……」と思いました

私の感想を一言で表すなら、「最高の役者、最高の題材、最高の演出が融合した最高のショー」というところでしょうか。
12時から始まって休憩挟んで21時過ぎに終わりましたが、9時間があっという間でしたね。

終了後の撮影タイムで撮ったものです。私含め、観客の熱狂っぷりがすごかった。

歌舞伎は「推しを楽しむコンテンツ」という側面が強いように思います。
たとえば、推しの役者とか、好きな演目とか、何かしら既に自分が好きな部分があってそれを見に行くのが楽しいということです。
見得のポーズとかも、推しがやっていれば一層盛り上がれるわけですし。

宝塚とか2.5次元とかと通じるところもあるように思います。
舞台というのは本質的にそういうものなのかもしれません。
私自身、大好きな坂本真綾さんの歌を聴きに行くなら何時間かけても行くし、同じ曲を何回聞いていても飽きないわけですし……

私はあんまり歌舞伎役者さんのことは知りませんが、反対に歌舞伎役者目当てで見に来たような方も多かったですね。
FFXから来た人と歌舞伎から来た人でちょうど半々くらいだったかと思います。

休憩時間に友人と話していたら、主演の尾上菊之助(ティーダ役)推しという女性の方に話しかけられて、「ゲームのファンも楽しめていますか?」というようなこと聞かれたりしました。
こっちも同じように「RPGやファンタジーに馴染みなさそうな年代の方も楽しめるのかな?」と気になっていたのですが、結論から言えばゲームと歌舞伎どちらのファンも一緒になって楽しめる舞台でしたね。

特にクライマックスの菊之助の演技は本当に真に迫るというか、ティーダが本当に目の前にいる、本物以上に本物という感じでした。
菊之助推しの方に話しかけられたときはまだ舞台がそこまで進んでいなかったので、これを伝えられないのが残念です……
尾上菊之助は最高のティーダでした。

上演の概要

開始は12時で終了は21時過ぎ(途中休憩あり)。
長丁場ですが、見ていて全く退屈することはありませんでした。

場所は豊洲市場の近くにある「IHIステージアラウンド東京」というところです。
舞台上のスクリーンと回転する座席によって、さまざまな面白い演出が展開されました。
舞台の前半分と後ろ半分をスクリーンが仕切っていて、スクリーンの映像を使ったり、スクリーンを上げて舞台を広く使ったり、あと座席が回転するので舞台を120度ずつで区切って3つのセットを次々に使って素早くシーン展開たり……
スクリーンではゲームの背景がそのまま使われたりもしていましたね。

開演前や休憩時間は野村哲也の描きおろしイラストがスクリーンに映っていました

残念ながら、この劇場は近いうちに閉鎖されるとのことです。
楽しい体験ができただけに残念ですが、なくなる前に体験できたのは良かったです。

ゲームはどう舞台に落とし込まれていたか

内容はFFXのストーリーをなぞっていて、一部省略があったりしますが、原作の主要な会話シーンはほとんど網羅されていました
反対に移動するだけみたいな部分はカットですね。雷平原とか……

話の流れは細かい部分で変更もありましたが、どれも納得できる形で解釈違いのようなものはほとんどなかったですね。
例えば、ゲームではガガゼト山の山頂付近でティーダ達とシーモアが戦いますが、歌舞伎ではキマリがエンケ達を倒したすぐ後にシーモアが来て、ロンゾ族がシーモアと戦ってティーダ達は先を急ぐ、といった形です。
舞台で何度もシーモアが負けると最後が盛り上がらなくなるので、「確かに舞台ならこっちの方が良いな」と思ったりしました。

また、全体を通して「親子」がフィーチャーされていたのも原作との違いを感じる場面でした。
シーモアと両親との過去を描いたシーンを新たに追加し、それによって「父親を受け入れられず歪んでしまったシーモア」と「父親の遺志を継いだティーダとユウナ」という対比関係になっており、人間ドラマとしての構造が明確になったように感じました。

親子にフォーカスすることで、物語を新しい角度から見直せるという側面もあります。
この歌舞伎の観客は当時のゲームをやった人にしろ、そうでない人にしろ、多くは30代とかそれ以上の大人になっていて、そういう人から見るとティーダ達は自分より年下の世代になるわけですよね。
そうなった時に、親の目線から見るとか、自分の若い頃の気持ちに戻るとか、形はどうあれ親子という軸があることで観客それぞれの立場を物語に重ねやすく、感情移入を強めるような働きがあったのかなと思います。

私の感じたFFX

ところで、私はこの歌舞伎を見るために初めてFFXを初めてプレイしました
ざっくりした話は知っていましたが、自分で改めてみると「これが20年以上前のゲームか……」と驚くことが多かったですね。

私はシーモアみたいに狂ってしまったキャラクターが好きになる傾向があるのですが、FFXに関しては意外とそうでもなかったです。
一番好きなキャラクターはワッカですね。
去年、ネットミーム的な人気を博しましたが、それとは関係なくものすごく気に入りました。
PT内で一番「普通のスピラの人間」っていう感じがいいですね。

ちなみに、このセリフは歌舞伎にはありませんでした

同じ理由でルールーも好きですが、ネットミームの刷り込みがあった分ワッカが若干優勢でした。
性格的にはルールーの方が自分に近い気はします。
ナギ平原で過去の自分と向き合うシーンなど、共感できる部分も多いです。
物分かり良くあろうとすることと、諦めが良すぎることは表裏一体であり、自分の欠点であることを認識していても、自分を変えるのはなかなか難しいですよね。

なんやかんやティーダに甘いしワッカには小言を言いがち。気持ちはわかる

ちなみに、ワッカは歌舞伎で原作以上に株が上がった部分があります。
ユウナレスカを倒した後、ベベルで僧侶から「ユウナが反逆者だというのはアルベドの嘘だ」という言葉を聞く場面があるのですが、それに対してワッカが「アルベドはそんなことをする奴らじゃない」とフォローするセリフが追加されていました。
アルベド人を差別していた過去をシドに謝るだけではなく、第三者に対してもその姿勢を見せることで原作以上にワッカの成長が説得力を持つ、良い改変でした。

公演後の撮影タイムではそのワッカの役者さんが席のすぐ近くまで来てくれたのですが、テンションが上がり過ぎてブレッブレの写真になってしまいました……

顔が……

さすがにこれは……ということで、一緒に行った友人が後でちゃんと撮れている写真をくれました。
持つべきものはオタクの友達です。

ワッカ役の中村橋之助さんの素敵な笑顔。
また彼の演技を見る機会があれば、ぜひ応援したいと思います。

歌舞伎としての側面

この公演は「新作歌舞伎」ですが、伝統的な歌舞伎の要素と現代的な演出がうまく融合された舞台だと感じました。
例えば、役者さんたちの衣装や化粧は隈取りや和装などの歌舞伎の特徴を取り入れている一方で、舞台の演出や照明は現代的な技術を駆使していました。

中央がティーダとジェクトですが、原作のイメージを保ったまま和装になっています。
子ども時代のティーダは尾上菊之助の息子さんだそうです。

また、役者さんたちの動きや表現も、歌舞伎独特のものとゲームの世界観が組み合わさっており、非常に新鮮に感じました。
さらに、ゲームのBGMを生演奏で再現したり、スクリーンにゲームの背景を映したりすることで、ゲームファンにも歌舞伎ファンにも楽しめる内容となっていました。
これらの異色の要素が高いレベルで調和して、"FFX歌舞伎"が成立していると感じました。

他には、歌舞伎は役者さんが全て男性なので女性キャラも男性がやるわけですが、その女形の役者さんもすごい。
特にルールー役の中村梅枝さんは「100%ルールーじゃん……」と思いました。
仕草や喋り方の雰囲気が本当に完璧で、伝統芸能として蓄積されてきた技術のレベルの高さを感じました。

見た目だけでなく、仕草やセリフなど演技のリアリティが素晴らしかったです。
歌舞伎役者ってすごい。

それ以外でも歌舞伎は見得のような「決めポーズ」があるのですが、開演前に「見得が拍手ポイントですよ」「この音とポーズに注目しましょう」「まず一回練習してみましょう」というように、歌舞伎の様式美を観客に伝えることで歌舞伎が初めての観客も雰囲気に馴染みやすい配慮がされていました。
歌舞伎が伝統芸能として現在でも人気があるのは、こうした初心者への間口の広さや配慮を業界が大事にしてきたからなのだと感じた瞬間でした。

百聞は一見に如かず

そんな最高の舞台のFFX歌舞伎ですが、なんと10月まで動画配信されています。
この記事を読んで気になった方はぜひ見て下さい。

やはり劇の良さは実際に見てみないとわからないものだと思いますので、週末や連休のどこかで予定のない日があれば、テレビや大きな画面でじっくり鑑賞してみてほしいです。


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