ドラゴンズのあの継投策は、「彼がかわいそうだ」とか言うこととは関係なく、単に不合理である

※初校からタイトルを変え、また当該試合の日付を修正しました

2023/8/25のベイスターズ戦の試合展開は、もうドラゴンズファンというか、NPBに関心のある方なら既にご存知であろう。
敗戦処理として9回のマウンドに送られた近藤が、62球・自責8・失点10という衝撃の成績となったことだ。これはもう考えられない。

私は所用があったので、試合は時々チェックしていた程度で、2-8の時点で、「ああ今日も負けだな、はは」とは認識していた。
しばらくしてまた確認したら2-18になっていて、しかも9回表はまだ続いているとの表示。
驚愕してすぐに試合を視聴し始めた。

マウンドにいたのはプロ3年目の育成1位近藤廉。
バッターは山本。かなり粘られ、これは押し出しかと予感したが、何とかショートゴロに打ち取り3アウトとなった。

バウアーが一切喜びの表情無しで戦況を見守っていた。

私は改めて近藤の成績を確認した。球数62球というところに最も衝撃を受けた。
なお後のニュースで、バックも足を引っ張ったことを知った。

「かわいそう」という情緒的な理由を超えて

一部ネットでは続投について「かわいそうだ」「いやプロなのだからしょうがない」などという意見が散見された。
しかし私はそういう観点ではなく、チーム戦略及び戦術の面から不合理だと思わざるを得ない。その理由は以下のとおりである。

  1.  リリーフピッチャーに60球も投げさせる必然性がない

  2.  実績のない若手のリリーフに10点取られるまで投げさせる必然性がない

  3.  勝ちパターンを温存する必要がない

  4.  もしかしたら将来化けるかもしれない選手を、フィジカル面・メンタル面で過度に追い込むべきではない

わかりやすくするために以上のように論点を設定したが、ご慧眼の読者は既にお気づきのとおり、これらは必ずしも独立ではなく、重なる部分がある。それを踏まえて以下をお読みいただきたい。


まず1点目の「リリーフピッチャーに60球も投げさせる必然性がない」である。
私はファームの状況まで常日頃追っている人間ではないので、改めて彼のファームでの成績を確認した。
登板26試合で先発0、投球回25。
明らかにリリーフ型として活動していたのである。
そのような選手に60球も投げさせるというのは、これまでの過程を全く無視した運用だ。
このために体を壊したりしたら、何のために支配下にして、何のためにファームでリリーフをやらせ、何のために1軍に上げたのか意味が分からない。
適性のない部下に無理のある仕事をアサインする無能な上司を思わせる。


2点目は「実績のない若手のリリーフに10点取られるまで投げさせる必然性がない」だ。
なぜこんなになるまで交代しないのだろうと考えた時、まず思い浮かんだのが「教育の一環」という理由だ。監督なら考えそうなことである。

しかし、人間の気持ちは本人にしかわからないので推測の域を出ないが、
10点取られるまで投げさせてやっとこさ3アウトを取ったところで、彼にとって成長の糧になるとは全く思われない。

「5点取られて降板」というところでも失敗には変わりない。それでも「1軍の壁は厚いな、もっと練習して頑張ろう」と思うのは比較的容易だろう。
10失点はどうだろうか。

バウアーもその辺を察して激励のコメントを出した。試合中神妙にグラウンドを見つめていたのも、そういうことだったのだろう。

解説の内藤も「意味がない」「引っ張りすぎ」と明言していた。

私は中田賢一が2008/5/5の阪神戦で初回から7点取られ、結局3イニングで9点取られた試合を覚えている。

しかし、これはローテーションピッチャーの中田だ。しかも10点は取られてない。「9連戦中の3戦目に、先発にそう簡単に降りてもらっては困る」という意図があっただろう。

また、2011/10/14の巨人戦で、先発したルーキーの大野が4回で7点取られた試合も覚えている。

しかしデビュー戦、相手は強力な巨人打線ということで、ある程度点を取られるのは誰にとっても想定内だったろう。
大野はドラフト1位、将来の先発を期待されたピッチャー。
ちょっと点を取られたぐらいでさっさと交代するほうがむしろ不自然である。

なお、大野は4回裏は見事0点に抑えた。
これは、大野が怪我持ちであったということを踏まえると、「1年目から投げられた」「1イニングは巨人打線をゼロで抑えられた」いう、とてもいい経験だったと言って差し支えないだろう。

とはいっても、もし大野が1イニングで10点も取られそうであれば、流石に代えられていただろう。
今回の近藤には、なにか正当化できる材料が見つからない。


3点目は「勝ちパターンを温存する必要がない」だ。
後の報道で、「勝ちパターンしか残っていなかった」との監督コメントが出た。
これには目を疑った。
ドラゴンズは6連敗中だったのである。勝ちパターンの疲労も何もないはずである。実際いけそうな「勝ちパターン」の投手は何人かいた。

特に、ライデルは驚くべきことに8/16から投げていなかった。
もっと早くどこかで調整登板させていても全くおかしくない状態であったが、何ならここで調整登板で頭から行ってもいい場面だった。

一部では「ここで投げさせたら最悪3連投になってしまう」とかいう意見も見たが、何を言っているのかと思う。
強いチームの勝ちパターンなら3連投ぐらい当たり前である。タイガースの岩崎や岩貞を見ているのか(4連投以上になってくると話は変わるが)。

というか、月曜日は休みなのだから、どうやっても4連投以上にはならないのだ。

ライデルは自ら志願してブルペンに入っていたという。その意気を汲めない首脳陣に、大きな闇を見る。米騒動ともつながるものであろう。

なお8/26の試合では、12回に最近不調の「勝ちパターン」清水を送り込み、案の定失点している。
(ちなみに、あそこで頭から祖父江で行けないのなら、何のために1軍に上げたのか?)


最後の4点目は「もしかしたら将来化けるかもしれない選手を、フィジカル面・メンタル面で過度に追い込むべきではない」だ。

これは「かわいそう」云々とは違う。チームの長期的戦略と合致していないはずだということである。
1点目から3点目は短期的戦術の問題だったが、ここは戦略に関することである。

彼はまだ3年目の24歳である。
彼は球団が望んで獲得した選手である。そして望んで支配下にした選手である。
ということは何か期待するところがあったのだろう。

それが花開くかどうかはわからない。
ただ、その芽を自分で踏みつぶしに行くような行為は不合理以外の何物でもない。フィジカル面が1点目、メンタル面が2点目と対応している。

仮に既に戦力として見切っていたのであれば、一軍に上げるまでもなく、粛々と今季限りで戦力外通告すればいいだけである。
わざわざ上で10失点もさせなければ説得できない相手でもあるまい。
川崎憲次郎を引退させるのとはわけが違う。

この出来事はチームの士気をさらに下げただろう。というか、報道によれば、あそこでマウンドに行ったのは宇佐見だけだったという。もう士気は下がりに下がりきっているのかもしれない。
(ふと、「京田もビシエドもいないな」と想う。)

ドラフトで指名されそうな選手たちの選択肢
にも明らかに悪い影響を与えたろう。
根尾の処遇も記憶に新しい。さらに遡れば祖父江の年俸問題もあった。
これで、ますます有力選手はドラゴンズを避けることも十分考えられる。
これらの点も戦略的におかしい点である。

付言すれば、客にこういうゲームを見せるというのもプロとしておかしい。これは近藤を責めているのではない。近藤はあの時点での自分の力を出しただけだ。
あの展開を止められるのは首脳陣だけだった。責任は首脳陣にある。


時間さえあればドラゴンズのことは毎日でも書けるのだが、この件は特に書かずにはいられなかった。
シーズン序盤の戦い方を見ていれば、後半は投手陣壊滅で大失速するのは容易に想像できたが、こんなことまでは流石に想像できなかった。

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