西山朋佳 里見香奈戦 才気煥発の逆転術 2019.4.9(マイナビ女子オープン第1局)
今、個人的に一番アツいと思うのが、このカードだ。
今年はこの2人の直接対決がとても多かったが、その中からマイナビ女子オープンの開幕局を見てみたいと思う。
【▲西山朋佳女王-△里見香奈女流四冠 △8四歩まで】
本局は里見香奈女流四冠が振り飛車を選択したため、相振り飛車に。
後手は中央に好形を築き上げ、不満のない形だ。
一方先手は、攻めを手厚くしたいところだが、▲7七桂は△7五歩から狙われてまずく、飛車角だけで攻めの糸口を見い出さなければいけない。
また、先手は攻め受けともに伸展性に欠けるが、後手は指したい手が多い局面だ。
△1四歩、△7一玉や、場合によっては9筋を絡めて△8一飛のような手もある。
完封されてしまいそうな状況だが、西山朋佳女王は意表の仕掛けで打開した。
実戦の進行は、▲6五歩△同銀▲4五歩△5三角▲8八角。
▲6五歩に△同歩は▲6四歩で銀が助からないし、△同桂も▲6六歩で桂馬が死ぬ。
そして▲4五歩で急所の角を移動させ、逆に天王山の地点を奪い返すのが狙いだ。
西山女王らしい力強い手順で、主導権を強引に握り返した。
実戦ではこの後、▲3五歩と3筋からも開戦し、盤面全体を使った激しい中盤戦へ突入したが、やはり先手の左辺の薄さが祟り、飛車角が抑え込まれ徐々に後手がリードを広げていく。
後手有利で迎えた最終盤。
【▲西山朋佳女王-△里見香奈女流四冠 △5四同銀上まで】
この瞬間は、金銀と飛桂の交換なので駒の損得はないが、両取りが掛かっており、先手は駒損必至の状況。
飛車は銀と換えることができるが、特に問題なのが角だ。
▲4三ととすれば角を生かすことはできるが、3三のと金を捨ててしまうと、入玉の可能性は厳しいものになってしまう。
とはいえ放っておくと、飛車を取られ、△6六歩で角も封じられてしまってはいいところがない。
また、▲2二飛が攻防の一手に見えるが△5一歩としっかり受けられると後手玉に響きが薄く、後手の寄せの方が早い。
▲6五飛△同桂▲8四歩のような攻めも迫力不足で、冷静に△8八とと角を取っておけば後手有利だ。
後手陣の銀が本当に手厚く、6筋7筋を完全に制圧している。後手玉は堅さと広さを兼ね備えており、これを攻略するのは難しい。
先手が困ったように思える局面で、入玉含みに粘るのかと思って見ていたが、西山女王はここから勝負手を連発して一気に将棋をひっくり返してしまった。
得意の剛腕炸裂である。
▲9三桂!△8三玉▲6六飛!!△5九角成▲6五飛!が迫力満点の逆転術。
【▲西山朋佳女王-△里見香奈女流四冠 ▲6五飛まで】
まずはいきなり▲9三桂と放り込む。これは▲8一飛までの詰めろだ。
△8三玉とかわされて何でもなさそうだが、そこで▲6六飛が才気あふれる衝撃の一着。
△5九角成と攻めを呼び込んでから(△同銀は▲同角で角がさばけてしまう)、そこで▲6五飛と飛車を切るのが絶妙な手順だった。
実戦は桂馬で飛車を取ったが、▲6四銀が詰めろ。(角を移動させたのはこのため)
あれほど広そうだった後手玉が一気に狭くなってしまった。
持ち駒もあるのでいい受けがありそうなものだが、この攻めが意外とほどけず、▲6四銀以下、△7五歩▲6六角△5八馬に▲8一飛で一気に後手玉を寄せ切ってしまった。
ちなみに▲6五飛に△同銀とする変化については、棋譜中継によると、感想戦では以下▲5五角△5四歩▲4六角で難解と結論付けられている。
後手玉が全く寄らなさそうな局面から、勝負手連発で複雑化し、一瞬で勝負を決めての逆転勝ち。
西山女王の抜群の末脚が存分に発揮された一局だった。
これからもこの二人の対局は多く見られると思うが、本局のような派手な手も多く、本当に楽しみな好カードだ。
特に振り飛車党の人は必見なので、男性棋戦しか観戦していないという方は、これを機会にこの二人の将棋にも注目してみてほしい。
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