さくらんぼさん 了


 幼くして交通事故で両親が他界して、親戚は誰もトモミちゃんを引き取ろうとはしなかった。
 そして、来たのが『聖さくらんぼ園』である。
 トモミちゃんの駄々っ子ぶりは、はっきり言って、こういう幼い頃のトラウマが原因なのだろう。
 今も幼いけれど……。

 幼児は両親に愛されてこそ育つ。
 それは、決して溺愛なんかではなくて、例えれば庭に咲く春の花を見て、最近、雨が降っていないから水が欲しいのだろう……と人間が思い、如雨露(じょうろ)で水をかけるように。
 親の子供への、当たり前の仕事なのに。

 ――それをトモミちゃんは奪われてしまった。
 奪われたから、必死になってそれを求めている。

 ……のだろう。

 これこそ自己愛である。
 でも、トモミちゃんの自己愛は幼い子供としての、当たり前の欲求なのだと思う。


 愛されなかったからこそ、愛されたいのだ――


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