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33歳でボクシング新人王に挑戦した「大島光容」の最後(かもしれない)戦い

ボクシングの新人王戦が好きです。

後楽園ホールでやる、どんな試合よりもガチな気がします。

意地と意地、勢いと勢い、東と西がブツかり合う、ボクシング界の年末の風物詩ですね。

それが各階級、1日で12試合も見れるという全日本新人王決定戦が12月17日に後楽園ホールで行われました。

昨今では、その試合のスケジュールやプライオリティを考慮して、アマエリートは新人王戦をスルーしてしまう傾向がありますが、ボクシングのレベル云々よりも、そのガチンコぶりが素晴らしいのです。

そして、アマ経験無しのジム叩き上げ、雑草のようなスタイルの選手が見れるのも面白い。

そして、2022年の全日本新人王決定戦は、棄権が1試合ありの全11試合でした。

有力選手の対決が多かったため、注目の興行ということでしたが、個人的に心を惹かれたのは、客もまばらになった最終戦のミドル級、33歳の西日本新人王大島光容選手でした。

なぜ33歳で新人王??

そう、ボクシングの新人王戦は年齢ではなく、以下のような資格で出場することができ、年々規制が緩くなっているそうです。

· C級ライセンス保持者
· エントリー時4勝未満(2014年までは1勝以上、2020年までは1戦以上)· エントリーは3度まで(2014年までは2度まで)· アマチュア40勝まで(ただし、一般の部において20勝以上及び前年度日本ランカー以上は不可。2020年までタイトル獲得は高校生まで可)

だから、2012年デビューで8戦5勝2敗1分の大島選手が出ているわけですね。

しかも、選手層の薄いミドル級だから、今年はするするっと決勝まで勝ち上がってきたのかもしれません。

しかし、デビュー10年で8戦は少なすぎる。


途中、何かの事情でブランクがあったのだろうか?

一度引退したあとに「やり残し」を感じての再起なのだろうか?

コロナで職を失い、再びボクシングに賭けたのだろうか?

あるいは離婚で離別した娘に会うための何かの決意なのだろうか?

…と、、、
妄想は勝手にどんどん膨らむが、ロートル(失礼)ボクサーの新人王挑戦にはどこか心を掴まされるものがあった。

西日本代表の大島選手は、あまり聞いたことがない尼崎亀谷ジムの所属。
う〜ん、尼崎か。ますます沁みる感じがする。

相手は東日本代表の時吉樹選手で、アマチュア歴ありの、パリッと金髪、ちょっとHOTEI似の22歳だ。

2人がリング中央で相対した時のフレッシュさの違いは一目瞭然だった。

応援団もさすがに東軍の時吉側が目立つ。

試合が始まるや、キビキビとジャブを放つ時吉選手(赤トランクス)にガードを固める大島選手(青トランクス)。

う〜、ちょっと、、、パンチのスピードが違う。基本が違う。安定感が違う。

ジャブをかわすのに精一杯の大島選手を、よく観察して距離を取るクールな時吉選手。

大島選手の勝機と言えば、接近して揉み合った時のフックぐらいか。

敗色濃厚のまま1ラウンドが過ぎるが、2ラウンド、徐々に両者の距離が近くなり、時折、大島選手のフックが効果的にヒット

時吉選手も徐々にスタミナを浪費して疲れ顔を見せる。

会場に「もしや?」の雰囲気が漂い始めると、両者セコンドや応援団から声援が飛び交う。

この日はコロナ対策で声援を禁止するアナウンスが再三流されていたが、この時ばかりは仕方ない。

隣の席で大島選手の応援をしていた方は知人なのだろう。

「大島さん、そこで打つ!」
「今の効いてないよ!」
「あと30秒!」

とセコンドばりの的確アドバイスを送っていた(ほんと、後楽園ホールの狭さっていいですね)。

最終ラウンド。

ゴングと同時に両者打ち合いを開始!
パンチの的確さで時吉、しつこさで大島!

ここぞとばかりに荒く攻める大島だが、パンチの的確さやキレが足りないか。

キツそうなのは時吉だが、打ち合いの合間を埋めるようなジャブ連打がポイント的に有利か。。。

ダウンもなく、4Rの試合が終了。

そして判定……時吉!

ガックリうなだれる大島。

やりきった。できることはやった。倒されることなく、最後まで戦った。

年齢的にも、おそらく彼はこの試合で引退するだろう(勝手な予測です)。

登竜門であるはずの新人王戦は、彼にとって最後の戦いだったのかもしれない(違うかもしれない)。


ロートルボクサーが魂を賭けた戦いは心を打つ。いつでもドラマチックだ。


映画で言えば、まさに『ロッキー』『レイジング・ブル』がそう。

他にも『チャンプ』『シンデレラマン』『ミリオン・ダラー・ベイビー』『ハリケーン』『どついたるねん』『百円の恋』、プロレスだけど『レスラー』などなど。

名作ボクシング映画はいつも崖っぷち、いつもレザレクション(復活)がテーマなのだ。

復活をかけたボクシング映画が名作になりやすいのではなく、名作映画とは復活を賭けたボクシング映画のことである!…と断言したいぐらいだ。

そして実際のボクシングでも、「復活」はいつも素晴らしいドラマを生む。

井上尚弥の4団体統一はもちろん素晴らしいが、モハメド・アリの「キンシャサの奇跡」や、ジョージ・フォアマンの42歳での戴冠以上のリアリティドラマを僕は知らない。

…と少々、大袈裟になってしまったが、大島選手の奮闘からそんなドラマを感じ取ってしまった。

うなだれてリングを降りていく様を見て、佐瀬稔の『敗れてもなお』がまた読みたくなる。


大島、がんばれ。

まだ君の人生は終わってない。

いや、ココからが始まり。ココからが本当の勝負なのだ。


ボクシングの勝ち負けぐらい、若いヤツに譲ってやれ。

きっと君の娘(1?)も今夜の勇姿を見ている。

「パパ、カッコよかったよ!」

その一言が、明日からのキミの背中を押すはずだ(?)。


大島選手のこの夜の頑張りを、50歳を迎えた自分のこれからと重ね合わせながら、何気なく大島選手の名前を検索してみる…

「若い…」

インスタに映る彼は意外にイケメン、今時のオシャレ若者だった。

カフェ巡り、スニーカー集め、ジムノペディなどなどのワードがフィードに登場する…。おそらく結婚もしてないし、娘もいない。

https://www.instagram.com/p/CkDI03ovPHG/?utm_source=ig_web_copy_link

リング上の角刈り(に見えた)ボクサーとは全く違う姿が、次々にスマホ上に現れる。思い込みすぎていた自分にちょっとだけ冷めた。


33歳、、、そりゃそうだ。

ボクサーには引退年齢だが、世間的にはまだまだ若い。

33歳の西日本新人王大島光容選手

ボクシングでやり切った経験を宝に、これからの人生に、本当の「復活」を描いてほしいものです。

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妄想含みのルポが終わったところで、今度は真面目に「第69回ボクシング全日本新人王決定戦」の全試合レポートを下記に続けます。


ミニマム級
◯石井武志(大橋)TKO1回2分59秒 池田雅史(ハラダ)●
1R:
クラウチングスタイルのファイター石井に、距離とジャブで対抗する池田。石井いきなりの右フックでダウン先取、続けて至近距離から左フックでダウン追加。
池田が回復しながら反撃に出るが、ゴング寸前に崩れ落ちてTKO。
ミニマム級らしからぬ池田のパンチ力で、大橋ジムを勢いを象徴するかのような痛快な1ラウンドKO。石井は敢闘賞も獲得。

1試合目から小気味の良いKO試合で、興行的にも幸先の良いスタートだ。

Lフライ級
服部凌河(横浜光)3-0(49-46×2、50-45)松江琉翔(JM加古川)
1R:高校生18歳の松江のシャープなジャブと連打が良い。服部それを物ともせず懐に飛び込んで強い右フックを狙う。
2R:松江の連打に勢いが出る、頭を動かさない服部は徐々に顔が紅潮する。
3R:松江のノーモーションの右や左ボディがヒット。タフな服部は打ち合いに持っていきたいが、徐々に削られていく様子。
4〜5R:松江に疲れが出てパンチにキレがなくなり、服部の粘りもあって決着は判定へ。


フライ級
長谷川優太(熊谷コサカ)TKO3回2分40秒 二階堂迅(ディアマンテ)
1〜2R:両者長い距離からのジャブの付き合いは二階堂にやや分があり。アフロの長谷川は接近してサウスポーからのボディ連打に勝機を見出すが、長谷川のストレートが突き刺さる。ラウンド終盤には長谷川のアフロが跳ね上がり、ふらつく。
3R:長谷川が立て直しを図るが、二階堂の連打で崩れ落ちるようにダウン。好漢・長谷川がガッツで反撃するが、レフェリーストップでTKO。


Sフライ級
●五十嵐春輝(湘南龍拳)3-0(49-46、50-45×2)佐野遥渉(平石)◯
1R:距離勘・距離感に余裕を感じさせる佐野の右が鋭い。五十嵐も迂闊に出ていかず、緊迫した1ラウンド。
2R:接近してのボディ打ち合いもあるが、離れては佐野が右を狙い打ちする展開へ。
3R:打ち合いに持っていきたい五十嵐と捌いて右を狙う佐野の構図が続く。
4R:接近戦して佐野が強いボディ、五十嵐がしつこい連打で対抗。そして離れては佐野の右カウンターが刺さり、五十嵐がぐらつく場面も。
5R:最終ラウンド、両者頭を付け合っての打ち合い。死力を振り絞った両者に場内から大きな拍手が。

好試合は、フルマーク判定で佐野が勝利。
接近戦にはまだ課題があるが「右の中谷潤人」という雰囲気の佐野は今後期待大。


バンタム級
●熊谷祐哉(M.T)TKO4回1分38秒 松本海聖(VADY)◯
1R:両者スタイリッシュなボクサーファイターで様子見の立ち上がり。
2R:松本のコンビネーションが冴えてくる。効いてないとアピールする熊谷だが、徐々に銀髪が跳ね上がる場面が増える。
3R:松本のコンパクトなコンビの最後の左の返しが良い。さらに右で熊谷がグラつき、足で逃げるが追撃を喰らいロープダウン。
4R:熊谷が派手にグラつく場面が増えるが、トリッキーに効いてないアピールで根性を見せる。しかし最後は、右でもんどり打ってノーカウントでTKO。
軸がブレず、力強いまとまりのある松本は技能賞を獲得

Sバンタム級
●星野凌(JB SPORTS)3-0(48-47、49-46×2)安村綺麗(ディアマンテ)◯
1R:断続的な安村のジャブに、ガードを固めて近づく星野。星野の飛び込みざまの右フックで一瞬グラつく松村
2R:安村の動きが忙しくなり、右で星野を後退させる。軽く細かい連打とフットワークを駆使する安村がペースを握り始める。
3R:安村の左フックが決まり、星野の動きが止まる。星野はガードを固めて、時折の大ぶりでだけは策がないところ。
4R:ガードの間を突き刺す安村のアッパーが良い。星野もタフだが、安村のペースアップについていけていない様子。
5R:ロープ側で星野の右がヒットし安村が一瞬泳ぐ。起死回生と思いきや、安村が足と連打で捌き、判定勝利をつかむ。


フェザー級
●廣瀬祐也(協栄)2-0(39-37×2、38-38)岡本恭佑(HKスポーツ)◯
1〜2R:18歳岡本のスピードが冴える。右を打ってそのままサウスポーチェンジなどの変則を見せる余裕も。
3R:廣瀬が接近して打開を図るが、頭があたり一時中断。両者ディフェンスが良いだけに、決め手にかける技術戦が展開される。
4R:接近しての打ち合い。拮抗していたが、クリーンヒットの差で岡本が判定をもぎ取る。


Sフェザー級
●岩本星弥(JB SPORTS)3-0(48-47×2、49-46)大谷新星(真正)◯
1R:テンポの速い攻防からロープ側で激しい打ち合い。岩本の右で大谷の顔が跳ね上がるが、大谷もくっついてからのフックで応戦する。
2R:頭をつけての打ち合いは大谷に分があるか、徐々に攻勢を強めていく。
3R:岩本がロープ際に押し込んでのボディ。試合は消耗性の様相で、パンチ力で大谷、手数で岩本という構図。
4R:大谷のワンツー連打で一瞬グラつく岩本だが、踏ん張ってボディで反撃。両者のタフさと根性に場内から大きな拍手が。
5R:ゴング開始から激しい打ち合い。岩本のボディが効果的、ラウンド終盤に押しまくったところで終了。微妙な判定を大谷がものにした。本日の激闘ナンバーワン!

しかし西日本が強い。ここまで、東1勝、西7勝!


ライト級
川口高良(協栄)3-0(48-46、49-45×2)船橋真道(KWORLD3)●
1〜2R:を使って右アッパーを狙う船橋に、じっくり攻める川口。KWORLD3所属の船橋は、体幹の強さと硬さが亀田兄弟に似てなくもない
3R:試合がさして動かないまま3Rが終了
4R:終盤に川口の右が炸裂してダウンを奪う。効いているようだが、ゴングに救われる。
5R:その勢いで川口が攻めて判定勝利を掴む。

誰も気づいてませんでしたが、KWORLD3側には亀田大毅の姿が。
だいぶ太りました。協栄と亀田は昔いろいろありましたが、今は昔…ですね。


Sライト級
スコーピオン金太郎(三谷大和)TKO3回1分0秒 野口海音(ハラダ)●
1R:中に入りたい強打者のスコーピオンに、打ち終わりを打ち下す野口。ジャストミートはないが、緊迫した1R。
2R:徐々に距離がつまり、スコーピオンがテンポを掴んだところで、左クロスが見事にヒットしダウン。
3R:スコーピオンが再びダウンを取り、そのままラッシュしてTKO勝ち。

三谷大和の秘蔵っ子・リングネームの割に真面目なキャラのスコーピオンが、東日本に続いてMVPを獲得!


ウェルター級
松野晃汰(神奈川渥美)[中止]松岡陸(浜松堀内)=棄権


ミドル級
◯時吉樹(横浜光)3-0(39-37×2、40-36)大島光容(尼崎亀谷)●
>>冒頭のレポート参照


この中から、世界チャンピオンへ羽ばたく逸材は出てくるのか?

彼らの今後と、来年の新人王戦に期待!


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