★知能研究者(24)

僕が研究室に残り続ける方法はいくつかあります。一つは何らかの形で学費を得て学生であり続けること。これはお金で解決する方法です。

次は優れた論文を書きつづけて有村先生に認められ、助手として採用される、という方法です。現在、助手候補の先輩たちが五人くらいいるのでかなり困難な方法ですが可能性はゼロではありません。先輩たちより優れた研究成果を残せば不可能ではありません。

夏目漱石は後輩思いの人で大学で学ぶ後輩、若手の小説家が集まる場所として自宅の一室を提供し、それがサロン化していた、という話が有名ですが、有村研究室も似たようなもので、人工知能を研究している優れた国内外の研究者がたくさん集まります。

有村先生はMITなど、世界中の有名大学とのコネクションを持っていて毎年交換留学制度を実施しています。それら、海外の優れた研究者との交流は非常に勉強になります。

僕が一般企業に就職すると、有村研究室とはどうしても距離が開きます。卒業生はいつでも自由に研究室を訪問できるのですが、さすがに毎日、というわけにはいきません。

今は土日関係なく、24時間、365日、研究室を自由に出入りできるんですよね。これは研究者の僕から見たら天国みたいなもので、決して手放したくない貴重な場所なんです。

彼女との結婚を考えているため僕の経済基盤の強化は急務です。そのためには有村研究室を卒業し、一般企業に就職するのが近道である。

助手から准教授、そして教授という教官の道はたいへん狭い門で成功確率が低い。さらにいえば、教授になるためには、学内の個性あふれるいろんな教官に気に入られるという、政治家のロビー活動的な、僕が最も不得意なことも熱意を持ってやらないといけない。

こういった悩みがありますね。彼女は冗談で「生活費は私が出してあげるよ。子供は諦めるけど」と言います。なんかこう、言葉は悪いですが、ヒモ生活みたいな感じですよね。僕には無理だと思う。

今は週に四回、吉野家でバイトしております。また、週に二回、高校三年生に数学を教えています。


(つづく)

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