★極道学園(537)
毎年恒例だが夏の甲子園がベスト4になると組内の賭け事が始まる。組員たちの大半が参加するのではないか。賭ける中身は
・優勝するチームを当てる
・優勝と準優勝を当てる
以上二種類に分かれておりチケットは一口2000円だ。
五口買えば一万円。申し込みは簡単で、自分の予想を用紙に書いて赤坂に現金を添えて渡せばよい。その一万円がいくらに増えるか、については組員たちがどこに賭けるか、で変わってくる。
準決勝は21日の朝八時開始と聞いているがたぶん働く者はいないだろう。(笑)
俺は今年の高校野球を全く見ていないので今回の博打には参加しない。ただ、赤坂には二百万渡す。結果を発表する会が開催され、そのとき会場費や組員の家族に渡すためのお土産代など多額の経費がかかるのでそれを補助するためだ。まあこれは龍神組の夏祭りみたいなものだ。お子様セットと命名されたたくさんのお菓子やおもちゃが提供されるため、子供たちがたいへん喜ぶ。
龍神組は俺を筆頭に飛び抜けたスターはいないが、とにかくチームみんなの仲がよく、みながチームプレイに徹しており、シノギも好成績である。他の組は身内同士の誹謗中傷、足の引っ張り合い、派閥争いなど、なんでもありだ。
柏の天龍会50人、仙台の工藤組100人を吸収合併して俺たちは総勢250名の大所帯になった。天龍会の組員の子息は極道学園で受け入れを行ったが仙台の子息は受け入れていない。距離的に不可能である。工藤組の幹部たちからはぜひ仙台に分校を、とお願いされているが直子先生は苦渋の表情だった。先生が足りないのである。
国は俺たちに反社という黒いラベルを貼り付けた。組員の妻や子供にも。法律の範囲内でシノギをしている我々からすると、なんとも困った状況なのだが全国的に見ると社会が俺たちを排除したい気持ちはよく理解できる。過去の経緯があるから。ヤクザ同士の戦争で一般市民が死亡したのだ。
警察の激しい追い込みにより生活が苦しくなり密漁、薬物販売、ネット詐欺に走るヤクザがたくさんいる。暴力団排除条例が世の中の犯罪を増やしたのだ。
反社グループ離脱のプログラムを国が企画、実施してそのプログラムを一年以上続けた極道には「この人は反社ではありません」という証明書を国が出してくれたらなあ、と淡い希望を抱くこともあるが、警察はおそらくこの企画の実施を躊躇うだろう。必ずそのプログラムを悪用する奴らが出てくるからである。
警察は島田紳助を利用して大々的な反社キャンペーンをやり大成功した。全国隅々に「ヤクザは社会から抹殺すべし」と伝わったのだ。国民のマインドコントロールについては東大卒が何人もいる警察首脳陣が一枚も二枚も上手で、俺たち低脳の極道は全くの無力、無策である。
山口組本部が年一回、ハロウィンのとき、近所の子供たちにお菓子を配っている話が全国紙で伝わることはない。あれは何らかの下心、企みがあってやっていることではなく、あくまで近隣の方々への挨拶、感謝、義理人情でやっていることなのだ。
世間がいったん貼り付けた黒いラベルを剥がすのは本当にたいへんだな、と感じる昨今である。
でもまあ、この類いのことは真剣に考えてもなかなか答えが出ない話であり、俺たちは法律の範囲で細々と生き抜いていくのみだ。なお、慶子のパソコンのPasswordは「hansya」である。(笑)
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