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165DAY ‐帰省実録2‐

 母方の実家に到着して一時間くらい、外を散歩したり畳に寝転がりながら東京とのギャップに浸った。母によると幼稚園か小学生くらいの時には毎週行っていたというが、高校生にもなるとやはり一年に一度か二度が限度である。そしてこのご時世、県境を超えることすら遠慮がちなのにも関わらずこの自然豊かな場所に身を置けるのは真に幸運と言えた。
 

 時間がたち、昼頃になって祖母にタケノコごはんと青椒肉絲、きんぴらごぼうをごちそうになった。この実家の裏山は実はこの家の所有であり、そこに竹藪がある。そこで採れたタケノコを使ったメニューだ。自分はタケノコが大好きである。タケノコごはんを一口ほおりこんだ。柔らかい米にタケノコや具材のうまみが絡みつき放さない、それでいてタケノコの食感、うまみ、一級品である。タケノコの繊維という繊維が口の中に広がり、シャキッ、シャキッと音をかすかに立てた。青椒肉絲も同様だ。肉とピーマンとタケノコの組み合わせ。これを考え出した中国人の頭を見てみたい。細長く切られた素材の一体感と肉と野菜との食感のギャップが口の中ではじけ散らかした。

 午後は、竹藪にまだタケノコが大量に埋まっているらしいのでそれを取りに行く。タケノコ採りだ。今年は豊作だという。道具とタケノコを入れる用の袋を持ち、竹藪に向かった。竹藪は、晴天の青空にまばらに笹がかぶさり、えも言えぬ明るさだった。地面を見ると、落ち葉となって黄土色に変色した笹が散乱し、まるで絨毯のようである。しかしよく見ると、緑と茶色の三角の頂点がぴょこっと飛び出ている。それがタケノコだ。さらによく見れば、あちこちにある。なるほど、確かに豊作だと思った。さあ掘ってみよう。
 
 自分はこの日ほど、農業系専門学校の高校生であることに感謝したことは無かった。幸いにもタケノコを掘る道具は「ホー」と言って、学校の畑の実習で何度も使って使い慣れていたからである。まずタケノコは地中に半分以上が埋まっているので土をどかす必要がある。なので「ホー」を使って、周りの土を削っていく。ここで気を付けなければならないのが、タケノコを傷つけてはいけないことだ。傷つけると品質が落ちるからである。タケノコの一面が根元にかけて見えたら、「ホー」の刃を使ってタケノコをとる。「ホー」は画像を見るとよくわかる通り、棒部分を地面に対し垂直にしたときに刃の部分が地面に対して横向きになる。なので刃をタケノコの真横に突き立てれば、棒を前後に動かすことでてこの原理が働いてきれいにタケノコが取れるのである。(文章だと分かりにくいのでスマン)採ったタケノコは祖母がすぐに下茹でしてくれた。タケノコは鮮度がいいほどおいしいとされているので、採ってすぐに調理することが重要だからだ。そうすれば、水につけた状態で数日間は日持ちする。
 
 母方の実家にお邪魔し、最高のプレゼント、そして最高のお土産ができた。自分の手で堀り、祖母がきれいに下茹でしてくれた新鮮なタケノコである。東京にいる親父や弟、父方の祖母が舌鼓を打つであろうことは想像に難くなかった。

 続く
 
 
 


 

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