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160DAY ‐凄く気になった小説だったので紹介してみた(劉慈欣「三体」Ⅱ)

 注・前回の記事を読んでから読むことを勧めます

「まだ知らないんですね。今の人類って、すごいんですよ。ほんとにすごいんだから」
「どんなふうに?」
「人類の宇宙戦艦はとても強力です。三体人の戦艦なんかよりずっと強い!」
「どうしてそんなことが?
「逆に、どうして無理だと?兵器の話はおいといて、まず速度の話をしましょう。光速の一五パーセントに達してるんですよ!三体人のより圧倒的に早い!」
 彼は続けて、「しかも、宇宙艦隊がそんな軍艦を何隻保有しているか知ってますか?教えてあげましょう。二千隻ですよ!三体人の二倍!これからもっと強大になりますよ」

  そのとき、近くの看護師が口をはさんだ。「ここでは、みなさんが現実の情報をやりとりすることを奨励していません。覚醒した冬眠者の方々がこういう情報に触れた結果、精神状態が落ち着くまでに長い時間がかかることがあって。回復の助けにならないんです」
「ぼくはうれしかったけどな。どうですか?」彼は納得いかないという顔つきで自分のベッドに戻り横になると、やわらかな光を放つ天井を眺めながらため息をついて言った。
「子供はいいよな。子供たちはほんとに気楽だ!」
「だれが子供ですか?」看護師は不満げに言った。「冬眠時間は年齢に加算しないんですよ。あなたこそ子供でしょう」しかしルオ・ジーの目には、この看護師はじっさい彼よりもまだ年下に見えた。ただ、外見から年齢を判断する自分の感覚は、長い年月が経ったこの時代にはたぶん通用しないだろう。

 ルオ・ジーは、看護師からミルク用のコップの説明を受けた。この時代の人間はふつう、熱い飲み物を飲まない。コーヒーもアイスで飲む。もし冷たいミルクに慣れてないなら、コップの底にあるスライド式のスイッチを希望の温度に動かすだけで加熱できる、と。
 ルオ・ジーはミルクを飲み終えた後、じっくりコップを眺めたが、みたところ普通のガラス製のコップだった。ガラスの底に指一本分ほど不透明になっている部分がある。熱源はその中にあるはずだが、いくら目を凝らしても、スライド式スイッチ以外何もついていない。コップの底をひねってみても、底とコップ全体と一体になっている。
「備品を不用意にいじらないでください」それを見て看護師が注意した。「まだよくわかってないでしょ。危険ですよ」
「いや、ただ、どうやって充電するのかと思って」
「充……電?」看護師ははじめて聞く言葉のようにくりかえした。
「充電。チャージだよ」と英語で言ってみたが、看護師は戸惑ったように首を振った。
「中のバッテリーが切れたらどうなる?」とルオ・ジーはたずねた。
「バッテリー?」
「充電池。もう電池は使ってないのかな。」看護師を見ると、また首を振ったので、ルオ・ジーは重ねてたずねた。「じゃあ、このコップの中の電気はどこから来てる?」
「電気?電気はどこにでもありますよ」看護師は納得できないという顔で言った。
「コップの中の電気は、使っても無くならない?」
「なくなりません」と看護師がうなずく。
「永遠になくならない?」
「永遠になくなりません。電気がなくなるなんてこと、あるわけないでしょ」

 続く

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