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酒場放浪記で感情が乱高下した

我が家のテレビのハードディスクには、「吉田類の酒場放浪記」が自動録画でどんどん入るようになっている。

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知らない方のために注釈すると、この番組はBS-TBSで放送されている、酒に造詣が深いイラストレーターで俳人の吉田類さんが、東京を中心とした渋くて大衆的な個人経営の居酒屋を訪ねて飲むという番組で、TBSのwebサイトによれば2003年からやっているらしい。
現在、BS-TBSでは週に1本の最新回の他に、過去回の再放送がかなりの本数放送されている。

20分の番組で、何かをしながらBGMならぬBGV(バックグラウンドVTR)として、垂れ流すのにちょうどいいし、ときに「お!ここは」と思うような酒場もあって、僕の「コロナ後に行きたい飲み屋リスト」を分厚くするのにも一役買っている。

数日前も、夜中にいきなりさ、いつ空いてるのってLINE。

間違えた。ごめんなさい。

数日前も、夜中にこの番組を見るでもなく見ていたら、東十条の「さくま」という居酒屋が出てきた。2006年に放送された回だ。

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大衆的な酒場で、壮年の夫婦が切り盛りしている。
気っ風のいいおかみさんと、シャイそうな笑顔のご主人。お客が2人によく声をかけている様子から、雰囲気のいい夫婦だということが伝わってくる。

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吉田類さんが、入店してハイボールなどを注文しながら店内に掲示されたメニューを物色する。
その中から、地元の常連にも人気だという「煮込み」を注文。
客席の目の前にある大鍋で作られる煮込みは、いかにも酒に合いそうに湯気を立てている。

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そうこうしていると、おかみさんが何やらラミネートされた新聞記事を取り出して、吉田類さんに自慢をし始めた。

息子さんが、相撲の高校チャンピオンになったことが掲載された記事。

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いい意味で出しゃばりなおかみさんは息子を自慢したい気持ちがわかりやすいけれど、ご主人もそれに乗ってはこずとも、シャイそうな微笑みの奥に、おかみさんと同じ気持ちがドッカリとあることが見て取れる。

ご両親は、本当に息子さんを愛しているんだろう。

ここでふと思った。高校生でチャンピオンであれば、その後、相撲界で活躍していてもおかしくない。
番組を流しつつ、スマホで「佐久間 力士」と検索してみる。

すると出てきたのは「常幸龍」という力士。

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一般の人には、馴染みがないかもしれないが、相撲好きにはおなじみで、大学でも相撲の強さを見せつけ、相撲界デビューから27連勝という記録は歴代1位。小結まで駆け上がり、横綱日馬富士に勝ったこともある力士だ。

ウィキをみると「実家は北区東十条で経営」とある。間違いない。

放送当時の2006年に、居酒屋さくまで「うちの息子、高校の相撲チャンピオンだ」と自慢されていた子が、常幸龍になって相撲界を盛り上げていた。
しかも、常幸龍のウィキにはグッとくる情報が。「好きなものは 牛すじの煮込み」。

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まさに、吉田類さんが舌鼓をうったあれが、常幸龍の好物だった。
あの両親に愛され、常幸龍も両親を愛しているんだということがわかる。

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しかし、ウィキを読み進めていくと、次のようなことが書いてある。
「日大在学中に父を亡くした」


ハッとしてスマホから顔を上げて、目線をテレビに向ける。

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今、テレビに映ってはにかむような笑顔を浮かべている、居酒屋さくまのご主人、この後ほどなくして亡くなっていたのだ。
放送が2006年で、亡くなったのが2009年2月だというので、このわずか2年半後。こんなに元気そうなのに。


さらにウィキを読み進めてみる。
常幸龍は入門時、佐久間山というしこ名で相撲を取っていた。改名したのは2012年に十両にあがるタイミング。常幸龍というしこ名は、亡くなったお父さんの「幸」という字をもらったものだそうだ。


居酒屋さくまは、2018年に閉店したようだ。
あの煮込みは、もう食べられない。
常幸龍は現在32歳になり、怪我と戦いながらも十両で相撲を取っている。

気づいたら、酒場放浪記をBGVじゃなくて、がっつり見ていた。
あと、泣いていた。

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