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間質性肺疾患の診療はデジタル技術でどう変わるか未来――Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(107)

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間質性肺疾患の診療はデジタル技術でどう変わるか未来――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(107) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

今回は、Lancet Respiratory Medicineに掲載されたデジタル技術と間質性肺疾患の未来についての特集をご紹介します。

間質性肺疾患は肺の間質(肺胞隔壁、小葉間隔壁、胸膜直下および気管支や肺血管の壁)を炎症や線維化病変の場とする疾患と定義されており、その原因や症状経過は多彩です。仕事中に粉塵を吸入したり、日常生活でカビやペットの毛などを吸入したりすることが主な原因ですが、そのほかにも膠原病、薬剤、放射線、サルコイドーシスなどが原因の場合もありますし、原因が特定できない特発性も見られます[1]。

間質性肺疾患とCOVID-19の流行による実臨床への影響

間質性肺疾患は上に挙げた原因が除去されない限り、ゆっくりと進行する慢性肺疾患です。その一方で、膠原病関連間質性肺疾患では急速進行性であることもあるので注意深く診断および経過観察をしています。

しかしながら、普段は緩やかであった病勢が「急性増悪」を起こすとその生存率は50%との報告もあり、実臨床で間質性肺疾患の急性増悪が意味するものは致死的で非常に厳しい現実があります。

間質性肺疾患の急性増悪の病態メカニズムは未解明であるものの、網羅的検索にてウイルスなどの病原微生物を検出する症例が存在することなどから、日ごろから新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含む感染には十分注意するよう患者さんに指導を行っています。

それでも実際に間質性肺疾患の患者さんがCOVID-19に感染し、COVID-19が重症化したり間質性肺疾患が急性増悪したりして亡くなられた方もいます。ですから、このCOVID-19の流行は私たち呼吸器内科医にとって大きな影響となっています。

実際には間質性肺疾患の患者さんが発熱あるいは呼吸困難で受診され、胸部X線やCTを撮影したら、間質性肺疾患の急性増悪やCOVID-19、あるいはその合併という状況もあり、その診断や治療も非常に悩ましいこともあります。間質性肺疾患の患者さんは基本的に入院すると画像的にCOVID-19との鑑別が難しく、隔離になることが多いのです。そして、繰り返し新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査を行ってやっと陽性が確定することもあるため、安易に隔離解除ができないことがありました。

また、患者さんからも定期外来に受診する際にCOVID-19になるのが怖いという理由で診察を延期してほしいという問い合わせも多く、電話による病状確認を行ったりもしていました。このような背景もあり、私は間質性肺疾患診療におけるデジタル技術に期待しています。

間質性肺疾患における在宅モニタリング

ここで、Lancet Respiratory Medicineに間質性肺疾患における在宅モニタリングについてのエビデンスがまとめられているので、ご紹介します[2]。

▷在宅モニタリングは、間質性肺疾患における疾患悪化の特定、治療方針の決定、患者関連アウトカムの改善、および臨床試験の簡略化につながる可能性がある。

▷在宅モニタリングにより、遠方での治療や研究が可能となり、患者と医療従事者間のより良い協力関係を促進できるかもしれない。

▷在宅スパイロメトリーは実現可能であり、ほとんどの間質性肺疾患患者が行えるが、広く実施するためには、標準化、検証、技術的要件、分析方法が必要である。

▷臨床試験において、在宅モニタリングは薬剤の安全性、アドヒアランスの評価、患者を中心としたアウトカムの収集に使用することができる。

▷間質性肺疾患における在宅モニタリングの普及のために克服すべき主な課題には、経済的な障壁、機器の有効性と信頼性、診療報酬などがある。

▷患者関連アウトカムと医療従事者の満足度の両方の点で、間質性肺疾患患者に対する在宅モニタリングの長期的な効果を今後の研究において取り組む必要がある。

▷すべての医療システムにおいて、在宅モニタリングプログラムが健康格差を広げないように注意する必要がある。

▷多国間の共同研究、実環境での登録、オンラインホームモニタリングプラットフォームの拡大により、間質性肺疾患の治療と研究に対するデータに基づいたアプローチを促進する必要がある。

これらの報告を見ると、実際の診療で行う、SpO2測定や呼吸機能検査、6分間歩行、血液検査、画像検査のうち、血液検査や画像検査以外はある程度在宅モニタリングでも行えてしまうのだと感じました。特に在宅での状況は普段の数分の診療で細かく確認できているわけではないため、むしろ在宅モニタリングの方が、実際の生活状況や服薬状況などの詳細を把握できる可能性を秘めているのかもしれません。

一方でこれらの試みに対しては診療報酬などの課題もあり、すぐに国内で導入できるというわけにはいきません。しかし、今後デジタル技術がさらに進歩することで実現できる日が来るのかもしれません。個人的には在宅でのスパイロメトリーが普及すると呼吸器疾患の患者の客観的モニタリングがしやすくなると感じています。国内では喘息患者のピークフローメーターがありますが、最近はやや使用患者が減ってきている印象です。そのため、デジタル技術と掛け合わせてまた普及できれば良いなと感じています。

【参考】
[1]日本呼吸器学会、特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022(改訂 第4版)
[2]Lancet Respiratory Medicine

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会 (tadashiiiryou.or.jp)の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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