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産官学から考えるデジタル療法の未来、遠隔医療学会学術大会レポート ――Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(22)

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産官学から考えるデジタル療法の未来、遠隔医療学会学術大会レポート ――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(22) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

Dr.心拍が第25回遠隔医療学会学術大会(JTTA 2021 GIFU)のプログラムの中から興味深い演題についてダイジェスト版をお届けしています。

今回は、「産官学から考えるデジタル療法の未来(デジタル療法分科会)」というタイトルのシンポジウムの内容をご紹介します。

国内で次々と進むデジタル療法の開発

まず、金沢大学附属病院先端医療開発センターの野村章洋氏より、デジタル療法についての解説がありました。デジタルヘルスとは、モバイル端末を含む情報通信技術(ICT)を用いたあらゆる医療・健康支援であり、医療ビッグデータ、ゲノム情報、AI、複合現実など多種多様な医療・介護・健康分野におけるデジタル技術の利活用を包括する概念です。デジタルヘルスのなかにデジタル医療があり、そのなかにデジタル療法があります。

それでは、国内のデジタル療法の開発状況を見ていきましょう。代表的なものといえば、なんといっても、薬事承認・保険収載されたニコチン依存症に対する禁煙治療アプリで有名なCureApp社の「CureApp SC」が挙げられます。CureAppでは他にも高血圧治療の「HERB」が治験終了して薬事申請中、非アルコール性肝炎治療の「NASH App」、アルコール依存症の「ALMIGHT」が臨床試験中・開発中という状況です。(CureAppについてはこちらの記事もご参照ください。スマホアプリに診療報酬? 治療アプリは医療費削減に繋がるか

また、糖尿病関連治療では、Save Medical社やWellDoc社/アステラス製薬、MICIN社/テルモが臨床試験や開発中です。

精神科関連では、ADHDに対してAkili社/塩野義製薬が、不眠症に対してサスメド社が、うつ病に対しては田辺三菱製薬が、それぞれスマートフォンをプラットフォームとして臨床試験を行っています。また、VRをプラットフォームとして、うつ病に対してBiPSEE社およびジョリーグッド社/帝人が臨床試験中あるいは開発中であり、不安症に対して魔法アプリ社が開発を行っています。

機能リハビリテーション分野ではmediVR社がVRをプラットフォームとした機器「カグラ」を開発し、一般医療機器として承認を得ました[1]。mediVRカグラは、仮想空間上の狙った位置に手を伸ばす動作を繰り返すことで、姿勢バランスや二重課題型の認知処理機能を鍛えるリハビリテーションをサポートするための医療機器です。

この「カグラ」が開発された目的は、小脳性運動失調や認知機能、注意障害といった高次脳機能障害に対してVR技術を活用して解決できないかという日常臨床での課題を解決することでした。現在ではまだエビデンスに乏しいVR技術を用いたデジタル医療にmediVRは切り込んでいるので、今後の成果に期待したいところです。リハビリテーションは医療における花形ではありませんが、リハビリ如何により自宅での生活が可能となったり、逆に、施設や療養型病院での生活を余儀なくされたりするため、とても大切な分野だと思います。(VRリハビリについてはこちらの記事もご参照ください。「VRリハビリ」の効果、現時点では限定的?

SaMDはどのような基準で保険適用されるのか

厚生労働省の植木貴之氏からは、医療機器の保険適用、SaMD(Software as a Medical Device)の保険適用の実際、SaMDに関する行政の取り組みについての講演がありました。医師として医療に携わっているだけだと、どのようにして医療機器が開発され承認されるのか、どのようにしたら保険適用となるのかなどを考えることがあまりありません。また、SaMDに関してもほとんど初見でしたので大変勉強になる講演でした。

SaMDの保険適用においては、基本的に患者に対する有効性・安全性などが立証された医療技術に対して評価を行っています。しかし、実際に存在するいくつかのSaMDは、その多くが医療従事者の負担軽減や技術の平準化に資するものです。ですから、そのズレが課題と考えられます。

そのなかでも、「ハートフローFFRCT」」は、治験によって患者への有効性を立証したことで新規技術料として保険適用となっています[2]。

通常では虚血性心疾患に対する冠動脈造影や冠動脈形成術の適応判断のため、非侵襲的な画像検査である心臓CTやSPECT、PET検査などが行われます。ハートフローFFRCTはこれらの検査に置き換わるものと位置付けられています。

日本人1000例を含む5000例の国際共同試験で、日本人のデータではFFRCT使用により、追加の冠動脈造影検査は34%減少、冠動脈形成術の治療は15%減少したという結果があり、臨床上の有用性が証明されたため、保険適用となりました。

ほか、今回のシンポジウムでは、精神科関連のVRを活用したデジタル技術開発を行うBiPSEE社CEOの松村雅代氏の講演や、MICIN社DTx事業部の桐山瑤子氏による産業界からの視点の講演もあり、どちらも興味深い内容でした。デジタル療法を考える上で、臨床応用を目指すならこのような考え方を常に意識しながら開発に臨む必要があると再認識させられました。

今回、デジタル療法を産官学という視点で考えるシンポジウムを拝聴して、ひとつの事業やプロダクトの開発から運用、承認に至るまでには様々な課題があり、それを乗り越えて実際の活用がなされているのだと感じました。

そういえば…これは余談ですが、個人的には遠隔医療学会というからにはもう少し他の学会と比較してデジタルを用いた便利さがあるとよいのではないかと感じました。たとえば、QRコードを読み取ればスライドやスライド内の情報源に飛べるようにするなどです。ぜひ今後の運営にも検討していただければと思います。

【参考】
[1] 製品紹介-mediVR
[2] FFRctエビデンス|ハートフロー・ジャパン (heartflow.com)

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会 (tadashiiiryou.or.jp)の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

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