見出し画像

デジタルヘルス介入により心筋梗塞後の再入院リスクが低下――Dr. 心拍の「デジタルヘルスUPDATE」(33)

m3.comで掲載された執筆記事を公開します。医師の方は下記URLからお読みください。
デジタルヘルス介入により心筋梗塞後の再入院リスクが低下――Dr. 呼坂の「デジタルヘルスUPDATE」(33) | m3.com AI Lab

呼吸器診療が専門の総合病院で勤務しつつ、ヘルスケアビジネスにも取り組むDr.心拍氏を中心とするチームが、日々のデジタルヘルスニュースを解説します。

今回は、心筋梗塞後の再発予防のためにスマホアプリを使用することで自己管理が良好となり、退院後30日以内の再入院リスクを低下させることができるという研究結果をご紹介します[1]。

急性心筋梗塞で入院した患者の6人に1人が再入院?

米国では、急性心筋梗塞で入院した年間100万人の患者のうち、約6人に1人が退院後30日以内の再入院を経験しているというデータがあります。そのうち約76%は、退院前の計画、教育、服薬や治療に積極的なかかわりをもつようサポートすることで予防できる可能性があります。

日本人の急性心筋梗塞と有意な相関を示す冠危険因子として、高血圧、糖尿病、喫煙、家族歴、高コレステロール血症があげられ、欧米人とほぼ同様であることが多くの疫学研究により証明されています[2]。

「胸痛」を主訴に救急搬送された急性心筋梗塞疑いの患者さんにこのような冠危険因子を問診するというのは臨床現場では大切なことであり、研修医で救急科や循環器内科をローテーションした際に冠危険因子を必ずチェックするよう指導されたことを覚えています。

私自身、直接急性心筋梗塞を治療するということはありませんが、通常の内科外来に受診した患者さんが息苦しいということで呼吸器内科を受診され、胸部X線では異常なく、なんだか嫌な感じを覚えて心電図検査を行うと、ST上昇があり急遽循環器内科の医師へcallし、そのまま心臓カテーテル治療になったというような経験があります。

あるいは救急外来に歩いてきた患者さんがなんだか胸が重苦しいということで心電図や心筋逸脱酵素を測定した結果、急性心筋梗塞と診断されることは珍しくありません。

また以前急性心筋梗塞の既往がある患者さんの胸痛というのはかなりの高確率で再発ということが多いですから、既往などを含む詳細な病歴聴取が重要となります。

さて、今回はスマートウォッチ、ワイヤレス血圧計に加えて、服薬管理やバイタルサインのモニタリング、教育ツール、計測されたバイタルサインのデータの追跡が可能なアプリを筆者らのチームは開発しています。

研究チームは、米国の4つの病院の心筋梗塞患者200人を対象にしています。平均年齢は59.3歳、女性は30%でした。デジタルヘルス介入群としてアプリとスマートウォッチ、ワイヤレス血圧計を配布し、入院中と退院後の30日間、これらを使用してもらいデータを収集しました。そして、これらの患者から集められたデータを、対照群として退院後に標準的なケアを受けた心筋梗塞患者864人のデータと比較しました。対照群では平均年齢は60.1歳、女性は29%でした。

Digital Health Intervention in Acute Myocardial Infarction (nih.gov)

その結果、退院後30日間の再入院率は、デジタルヘルス介入群で6.5%、対照群で16.8%と、デジタルヘルス群の方が低いことがわかりました。病院の立地や患者の年齢、性別、人種、心筋梗塞のタイプ、併存疾患などを調整して解析したところ、デジタルヘルス介入群では対照群に比べて、退院後30日以内に再入院に至るリスクが52%低いことが明らかになりました。また、アプリ使用者では、QOLの向上に対するモチベーションがより高く保たれていました。

さて、今回はアプリやウェアラブルデバイスを用いたデジタルヘルス介入により心筋梗塞後の再入院率を減らすことができたという研究結果についてご紹介しました。今回の結果からすぐにデジタルヘルス導入が良いと言い切れるわけではありません。

試験参加においては、スマートフォンを使用している患者さんに限定されていますから、使用していない患者さんではまた違った結果になってくる可能性はあります。このような選択バイアスを考慮した解釈が必要になります。

実際の臨床の現場では、心筋梗塞で入院した患者さんの退院支援の一環として行うとなると、保険点数が付与されていないため、それにかかわるスタッフの人員や時間の確保などもあり実現にはまだ大きな壁があると感じています。

一方でこのような研究成果が積み重なることにより、デジタルヘルスの介入により心筋梗塞患者さんの退院後の再入院を減らし、最終的に医療費削減につながるような戦略が構築できれば、積極的な課題解決方法として今回の研究のようなデジタルヘルスや医療アプリの運用が可能となるかもしれませんね。

現在様々な疾患で医療アプリを使用した介入研究がなされています。国内では禁煙外来で使用できるCureApp社の禁煙外来治療アプリが医療機器として国内で初めて承認となりました[3]。現在は新たに高血圧症の治療アプリ開発の治験も進んでいるようです。

国内でも少しずつデジタルヘルスを臨床現場で使用できるよう治験が進んでおり、今後の研究結果が待たれますね。

【参考】
[1] Digital Health Intervention in Acute Myocardial Infarction
[2] 急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)
[3]CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー | 株式会社CureApp

【著者プロフィール】
Dr.心拍 解析・文 (Twitter: @dr_shinpaku)
https://twitter.com/dr_shinpaku
呼吸器内科の勤務医として喘息やCOPD、肺がんから感染症まで地域の基幹病院で幅広く診療している。最近は、医師の働き方改革という名ばかりの施策に不安を抱え、多様化する医師のキャリア形成に関する発信と活動を行っている。また、運営側として関わる一般社団法人 正しい知識を広める会 (tadashiiiryou.or.jp)の医師200名と連携しながら、臨床現場の知見や課題感を生かしてヘルスケアビジネスに取り組んでいる。
各種医療メディアで本業知見を生かした企画立案および連載記事の執筆を行うだけでなく、医療アプリ監修やAI画像診断アドバイザーも行う。また、ヘルステック関連スタートアップ企業に対する事業提案などのコンサル業務を複数行い、事業を一緒に考えて歩むことを活動目的としている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?