袴田事件再審でも検察は有罪立証方針。やってもいいけど無罪なら責任を取るべき。

袴田事件の再審開始が決定され、高齢の袴田さんの早期の名誉回復が期待される中、検察は再審でも袴田さんの有罪立証をする方針だとのことだ。

それは別に構わないと思う。再審開始はあくまで確定判決に疑義があるので裁判をやり直すことを決定したにすぎない。審議し直すことを裁判所が決めたにすぎず、検察が袴田さんを有罪だと言うなら言えばよい。もし検察にその権利がないというなら「再審」など必要なく、裁判所の自判でよいことになってしまう。
私の考えは、原判決を覆す明らかな証拠が新たに出てきたときに再審開始するのだから、再審開始そのものに対する検察からの抗告は禁止すべきであり、いち早くやり直すべきだというものだが、その代わり有罪立証を維持するのは許されるべきだという論理だ。単に原判決が破棄されただけであり、はっきりしないからもう一度審議しようということだ。たしかに原判決の破棄自体重いことだが、そこでの有罪立証が許されないならそもそも再審は必要なく、明らかな疑義が生じたとする時点で裁判所が無罪を自判できるルールにすればよいということになる。とはいえ弁護側からの申し出だけで、検察からの反論も聞かずに確定判決を覆せるというのもおかしな話だと思うが。

袴田さんがもし真犯人なら高齢だから無罪にしろというのもおかしい。
橋下弁護士はテレビ番組内で、「再審開始の時点で証拠の評価は終わっている」という趣旨の発言をしたようだが、素人考えながらそれは違うように思う。再審開始はあくまで審議をやり直すということにすぎないのだから検察の主張はそれはそれで聞くべきだと思う。

私の記憶では90年代には既に袴田さんは冤罪なのではないかということはまことしやかに言われていた。「衣服が味噌樽に一年浸かっていたにしてはおかしい」だの「あの大きさの服は袴田さんには小さい」だのということは当時から言われていた。
ただそれとて一つの見解にすぎない、弁護側の主張にすぎないかもしれないという認識だった。
しかし、裁判所が再審開始を決定、つまり原判決に明らかな疑義があると判断したものに対してさらに有罪立証の姿勢を堅持したうえで、もし再審無罪となった場合は検察はどのような責任をとるつもりなのだろうか。

「たかが」誤認逮捕でさえも、謝罪することがあるし、さらに起訴して公判にまで進みそのうえで無罪確定となれば、これも大問題として扱われる。
逮捕というのは所詮は捜査機関が「この人が犯人だと思う」ということで身柄をおさえることであり、建前上は推定無罪だ。しかし、逮捕されたというだけで私生活に大きな影響を及ぼす。だからこそ刑罰は課されていなくても捜査機関から謝罪があったりする。逮捕からさらに一歩進んで起訴までして、そのうえで無罪が確定すれば、検察も失点となる。これも刑罰は課されていないが、やはり長期間に渡り面倒事に巻き込まれ、以前の生活を取り戻せないことも多くあるだろうから誤認逮捕以上の大問題なのは言うまでもない。

袴田さんが冤罪だとした場合、こんなものの比ではない苦痛を与えたことになる。この期に及んで有罪を主張し、もし無罪となればどんな責任をとるつもりなのだろう。
静岡地検はいい度胸をしている。再審で「昭和の野蛮な取り調べやインチキ捜査を諸先輩方がしたせいでご迷惑をおかけしました。我々は袴田さんの無罪を求めます。」とでも言えば今の検察は少なくとも個人としての責任は負わずにすむ。それなのにここで有罪主張を積極的にして、もしそれが認められなければ、相応の責任を現検察官も負うつもりがあるのだろうか。
もちろん有罪の心証が検察側にあるにも関わらず世論に押されて真犯人に無罪を求めるのもおかしいわけで、本当に袴田さんが真犯人だと思うなら闘えばよい。だが、いずれにせよ冤罪の上塗りをしたことが確定すれば責任を問われるべきであることにかわりはない。
以上のことは明快な論理だと思われる。

さて、再審開始の決定時、裁判所が捜査機関による捏造を指摘したことで、検察のメンツのために今回有罪立証の姿勢を堅持したと推測する人も多い。
そんなことをして本当の意味での検察のメンツや誇りを取り戻せると思っているのだろうか。そんなものは小物がいきりたっているのと同レベルのみっともない振る舞いだ。
それはさておき、裁判所はそこまで言う必要があったのだろうか。袴田さんの犯人性を否定すれば足りる場面で、第三者による捏造とだけ言えばよく、捜査機関によるものとまで言及する必要があったのか。
私はこれを聞いたとき、捜査機関による悪が裁判所から指摘されたことによるカタルシスを得たということを白状するが、同時に検察がムキになる今回のような展開を懸念してもいた。

長らく袴田弁護団を勤めた方が「捜査機関による捏造」という主張は再審請求ではしないようにしていたという。それは自分たちの主張が陰謀論に墮することを防ぐためだったようだ。

この姿勢は、袴田さんの利益を守るという弁護団がとるべき観点からはテクニック論として正しかったと思う。

何が真相であれ、早期の決着が求められることは間違いないであろう。



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