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【ヴィーガン/ベジタリアンの不調対策】

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
動物性食材を避けるベジタリアン、そして食生活に限らず動物に犠牲を強いる製品の利用もしないヴィーガンは、生き方のひとつではありますが、健康長寿の為に必要か?と聞かれるとかなり微妙だったりします。

と言うのも、ベジタリアン/ヴィーガンに限ったことではありませんが、正しい知識を持たないバランスを欠いた食事内容の場合、栄養不足に陥る可能性があるからです。

ベジタリアン/ヴィーガンが健康的と言うイメージは、1970年代に米国で肥満や生活習慣病の原因が動物性食材や動物性脂質の摂り過ぎにりある、と言う政治的なキャンペーンによる刷り込みの影響がかなり大きいです。

ヴィーガンやマクロビオティック(独自の陰陽五行理論に基づく玄米菜食主義)を厳格に実践する人達の多くは、植物性食品からしか栄養を摂ることができないため、特定の食品やサプリメントに頼る人も多くいます。

ヴィーガン/ベジタリアンの人が栄養失調に陥らないために、日々の食生活でどんな点に気をつければよいのか、不足しがちな栄養素とその対処法を見ていきましょう。

【ヴィーガンで不足しがちな栄養素とは】

肉や魚、卵などを摂らないヴィーガン/ベジタリアンにとって不足が懸念される栄養素には、以下の様な栄養素があります。

・蛋白質
・ビタミンB-12やビタミンD
・カルシウムやオメガ-3脂肪酸
・鉄や亜鉛、ミネラル
など

これらの栄養素が意図的に添加された食品を定期的に消費しない限り、完全植物食を長期に続ける場合には、適切なサプリメントを取り入れる必要があると言う栄養の専門家もいます。

しかし、なるべく身近に手に入る、自然な食材で不足しがちな栄養を補うことが出来れば良いですよね。実際にそう言うことを工夫することで、栄養失調にならないヴィーガン/ベジタリアンの人達もいます。

筋肉や臓器、肌、髪、爪、体内のホルモンや酵素、免疫物質などを作り、栄養素の運搬なども担うのが蛋白質です。
地球上の生物の体を構成する蛋白質は、20種類のアミノ酸で構成されており、特にヒトにとって重要なのが、体内で合成できない「必須アミノ酸」(トリプトファン・リシン・メチオニン・フェニルアラニン・スレオニン・バリン・ロイシン・イソロイシン•ヒスチジンの9種類のアミノ酸)です。必須アミノ酸は、卵、肉類、魚介類などの動物性食品にバランス良く含まれます。

ヒトに必要なアミノ酸バランスを比較する指標として、一番不足する必須アミノ酸が、必要量のどれくらい含まれるのか、と言うことを示した「アミノ酸スコア」があります。
卵、肉類、魚介類などの動物性食材の多くは100またはそれに近い数値になりますが、植物性食品の多くは、どうしても数値が低めになります。

特にヴィーガン/ベジタリアンが好んで食べるヒヨコマメやレンズマメなどの豆類、ナッツ、シード、オートミールなどには、一部のアミノ酸が不足しています。
ブロッコリーや枝豆(大豆)など比較的アミノ酸スコアが高い食材を選んだり、キヌアやチアシード、オートミールなどの穀類、などを組み合わせることで、不足するアミノ酸のバランスを補うことが出来ます。

【ビタミンB12】

ヴィーガンにとって、蛋白質の次に不足が指摘される栄養素はビタミンB12です。
血管、皮膚、粘膜、さらに骨髄や赤血球の生成、脳(中枢神経)や末梢神経の機能維持、脂質やタンパク質の代謝、DNAの合成にも関わっています。

ビタミンB12は基本的に動物性食品にしか含まれていない栄養素と言われていますが、海苔に微量に含まれているという報告があります。
動物性食品に含まれるビタミンB12の効果には到底およびませんが、ビタミンB12は微生物が生産しているビタミンという観点から、微生物の豊富な豊かな土で育てられた野菜を選ぶというのもひとつの選択です。

また、良く使われる解決策として、ニュートリショナル・イースト(乾燥酵母)があります。
約大さじ1杯で一日に必要なビタミンB12を摂取することができるので、料理に活用することでビタミンB12を補うことが出来ます。
考え方によっては微生物とは言え生き物ですので、忌避されるヴィーガンの方もいらっしゃるのかも知れませんが。

【ビタミンD】

主に魚やキノコ類から摂ることができるビタミンDは、骨などのカルシウム吸収を良くすることで、骨粗鬆症やくる病を予防できます。
その他にも、筋力の維持、体脂肪の削減、免疫力の強化、うつ病リスクの低減、癌の予防効果も期待されています。

ビタミンDは、乾燥きくらげや干し椎茸など、天日干し乾燥させたキノコ類に多く含まれており、使う前に30分から3時間ほど天日干しすることで、更にビタミンDを増やすことも出来ます。

また、元々人体内で合成出来ない「ビタミン」として報告されたビタミンDですが、日光や紫外線を浴びることで皮下組織で作られると言うことが判明し、現在ではホルモン的な存在として扱われることもあります。
地域や季節による差はありますが、1日20-30分外に出て日光浴をする習慣があると良いとされています。

【野菜とカルシウム】

カルシウムは骨や歯を強くするだけでなく、神経系や筋収縮などの機能に重要です。
不足すると、くる病(小児)、認知症、骨粗鬆症、心疾患、高血圧や免疫異常を引き起こします。カルシウムと言えば乳製品をイメージする人も多いですが、植物にもカルシウムは含まれます。
とは言え、植物からのカルシウム摂取は吸収率が悪いんですよね。

対処法として、海藻類はカルシウムの吸収率を上げるマグネシウムも多く含みますし、ひじきは他の海藻に比べカルシウムの含有量が多く、マグネシウムと同様にカルシウムの吸収率を上げてくれるビタミンKも多く含むので、食生活に活用することでカルシウム不足を予防することが出来ます。

また、カルシウムの吸収を阻害するとされるシュウ酸は、水に溶けやすい性質を持っているので、カルシウムが多く含まれるほうれん草などを食べる時には、茹でて食べるとシュウ酸の影響を弱められます。

【ビタミンA不足】

ビタミンAは目や皮膚、粘膜などの健康を維持するのに重要な栄養素です。免疫機能の低下や肌荒れは、ビタミンA不足が原因かもしれません。卵、脂の多い魚、ヨーグルトなどに多く含まれますが、植物に含まれるベータカロチンは、体内でビタミンAに変換されます。

多く含まれる代表的な野菜や果物は、
・緑の葉物野菜
・オレンジ色の野菜(ニンジンやサツマイモ)、
・赤い野菜(パプリカなど)
・黄色いフルーツ(マンゴー、パパイヤ、アプリコット)
などです。

【オメガ3の摂取は簡単?】

体内の炎症を減らし、様々な疾患を予防してくれる栄養素がオメガ3不飽和脂肪酸です。
脂ののった魚に多く含まれる、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)や、α-リノレン酸(ALA)が有名です。

多くの野菜にはDHAやEPAは含まれませんが、オメガ3系のALAが含まれます。オメガ6不飽和脂肪酸が豊富な油は、ALAからのEPAやDHAの合成を低下させてしまうので、オリーブオイルや亜麻仁や荏胡麻を使う様にすると良いです。

亜麻仁や荏胡麻にはオメガ3不飽和脂肪酸が豊富で、アレルギー症状などを抑える、動脈硬化・血栓の予防、血圧を下げるなどの効果があるとされます。低温圧搾オイルとして1日小さじ一杯で必要な量を摂れます。

他にも、クルミはナッツ類の中で最も多くのオメガ3脂肪酸を含み、その他にもポリフェノール、ビタミンE、B1、B6、葉酸、ミネラルなど健康に必要な栄養素が豊富に含まれていますので、間食や料理に活用すると良いですね。

他にもクロレラやスピルリナなどの微細藻類の中に、EPAとしてオメガ3不飽和脂肪酸を含む種があります。特にナンノクロロプシスと言う微細藻類に特に多く含まれており、ヴィーガンも活用出来るバランスの良い天然素材の栄養食品として注目されています。

【ヴィーガンに多い貧血】

鉄分は血液中で酸素を運ぶヘモグロビンを構成する栄養素で、不足すると貧血を起こします。
鉄には大きく分けると、動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」の2種類があります。

鉄は主に十二指腸から吸収されますが、非ヘム鉄はヘム鉄に比べ吸収率が悪く、食べ合わせやその食物自体が持ち合わせている成分によってさらに吸収が妨げられてしまいます。

対処法としては、鉄鍋で調理したり、豆類(特にレンズ豆)を食生活に取り入れたり、ビタミンCやクエン酸が豊富な果物や野菜と一緒に摂る、と言う様なやり方があります。
鉄分の吸収を妨げるタンニンを含むお茶やコーヒーを食事前後に飲まない様にする、と言うのも有効です。

【その他ヴィーガンで不足しがちな栄養素】

【亜鉛】
亜鉛は、体内の様々な酵素を正常に働かせる必須ミネラルです。亜鉛が不足すると、抜け毛や肌トラブル、味覚異常や下痢などの症状がみられます。成長期の子供はより多くの亜鉛が必要となります。
亜鉛も鉄と同様、ビタミンC、クエン酸と一緒に摂取することで吸収率をUPすることができます。
亜鉛が含まれる食材としては、種実類(特にカボチャの種)、天日干しの切り干し大根など乾物、レンズ豆やそら豆などの豆類、オートミールや玄米などの全粒穀物、などがあります

【ヨウ素】
ヨウ素は、正常な甲状腺機能、成長、代謝に重要な栄養素で、昆布や海苔などの藻類に多く含まれます。
海藻を多食する日本においては、基本的に不足することは少ないのですが、海藻類を食べる習慣のない海外のヴィーガンで不足しがちです。
ただ、ヨウ素はサプリメントなどで過剰に摂りすぎると、甲状腺の機能障害につながるので注意しましょう。

【コリン】
コリンは神経系の健康に欠かせません。厳密には肝臓で少量のコリンを作り出せますが、体内で作り出す量だけで体に必要な量を満たせないので、食事から摂取する必要があります。

コリンが含まれる食材としては、アブラナ科野菜(ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、ケール、白菜、ルッコラ、大根、わさび、クレソンなど)が知られています。

ヴィーガンは上記の様な知識を持って、意識的に不足しがちな栄養素を補う様にしないと、栄養失調になりやすいです。
食事だけで補うのが難しい場合には、サプリメントを利用すると言う方法もあると思います。

健康と言う意味では、動物性食材も適度に食生活に取り入れる方がバランスが良いのは間違いないですが、ヴィーガンやベジタリアンは健康理論では無く思想哲学ですので、わざわざ「健康のために行う」と言う必要は無いと思います。

【オマケ: 栄養についての基本的な考え方】

世の中には様々な食事理論がありますが、その多くは独自理論に基づいた哲学であり、万人に最適な食事法や栄養理論は見つかっていません。

まず蛋白質は必要量摂ることが大切ですが、ヴィーガン思想の研究者は菜食で補えるくらい少なめの蛋白質で十分と主張しますし、そうでは無い研究者は菜食だけで蛋白質を十分に摂るのはかなり難しいと主張しています。

そして蛋白質以外のカロリー源とされる三大栄養素、脂質と炭水化物については、どの様なバランスが良いのかは、体質や他の食事内容にかなり左右されます。

糖質(デンプン質や甘い物)を日常的に結構な量摂取するのであれば、同時に脂質を摂取するのは、中性脂肪として余剰分が蓄積されるとともに、血糖値の急上昇とインスリン分泌過多によるその後の急降下により、全身の血管内膜を傷つけてしまい、血中コレステロールを高くし動脈硬化を進行させてしまいますので、控えた方が良いです。

逆に糖質(デンプン質や甘い物)をかなり控えめにするのであれば、脂質を適度に摂ることが大切です。ケトン食などと呼ばれる極端な低糖質食の場合にはかなり多めの脂質を摂取します。
糖質制限食で健康被害が出たと言う場合のほとんどは、「低糖質低脂質食」にしてしまった結果の栄養失調です。

1970年代には肥満や心筋梗塞などを予防し健康長寿になる為に低脂肪食が有効だと言うことで、低脂肪乳や無脂肪乳などが製品化されましたが、その後も肥満や心血管系疾患を含む生活習慣病は増える一方でした。
コレステロールは安定した細胞膜に必須で、細胞分裂や損傷したり炎症を起こした組織の修復に必要ですし、正常な神経伝達の為に必要なシュワン鞘にも脂肪が多く含まれます。また、生理的に重要な性ホルモンなどのホルモンの一部もコレステロールが材料となっている物があります。
そして、ビタミンなどの栄養素の中には、ビタミンで言えば、A、D、E、Kなどの様に脂溶性の物があり、脂質を含む食材や油調理をすることで吸収率が高くなります。
逆に言えば、蒸し調理や茹で調理をメインにして脂質を避けた食事は、これらの栄養素が不足しやすいです。
ですから、良質な脂質を適度に摂る方が、低脂肪食よりも健康に大切だと言われる様になっており、それに合わせて糖質を控えめにすると言うことも健康のためには必要だと考えられる様になっています。

そして、蛋白質、脂質、炭水化物を摂るのに、自然な食材から摂るのが良いのか、サプリメントでも良いのか、と言うことが議論されることもありますが、基本は様々な栄養素が含まれる自然な食材から摂るのが良いです。
自然とビタミン、ミネラル、食物繊維、ファイトケミカルなどの栄養成分がバランス良く摂れます。

どうしても食生活で補えない、或いは不調対策の為に一時的に食事で補えないほど大量の栄養素が必要、と言う様な場合には、サプリメントを使うことが有効なこともあるので、使うこと自体を否定するつもりはありません。

また現代社会では「サプリメントの必要性」が過剰にマーケティングされているので、あまり盲信し過ぎない様に注意しましょう。

特に最近一般的になっているプロテインについても、運動前後の一定時間以内にプロテインを摂取しないと、運動効果が激減する、筋肉が分解されてしまう、などと言う情報もありますが、24時間単位で蛋白質を食事で十分に摂れていれば、その様な悪影響はほとんど無く、運動効果もほぼ変わらないと言うことも確認されています。

培養細胞を使った基礎研究や、動物実験で可能性が示唆されたと言うだけで、過大な広告宣伝が行われている「アンチエイジングサプリメント」なども注意が必要です。
人間がサプリメントに含まれる程度の量を一定期間摂取することで、宣伝にある様な効果が一定数の被験者に出た、と確認され学会で認められたアンチエイジング関連のサプリメントはひとつもありません。

どの様な食事理論を採用するか、どのようなサプリメントを使うか、は個人の自由ですが、中立的な視点を忘れずに、正しい知識を持って判断する様にしましょう。

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