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デング熱について

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
米州(南北アメリカ大陸のこと)でデング熱感染者が急増している、というニュース。
とは言え、正しく知って正しく対策すれば大丈夫です。

デング熱とは

まず、デング熱とはなんなのか、を知っておきましょう。デングウイルスと言うウイルスへの感染が原因で起こる、発熱と発疹を伴う感染症です。大多数は軽症のまま自然治癒しますが、ごく一部で重症化し、デング出血熱と呼ばれます。出血熱の状態になると、1週間程度の入院治療が必要になります。

デングウイルスは遺伝子としてRNAを使い、蛋白質と脂質で構成されるエンベロープと呼ばれる構造を持つタイプのウイルスです。ヒトからヒトに感染することは無いと言われており、ネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊により媒介されます。

特に蚊の発生が多い熱帯地域で問題となる感染症ですが、近年感染者や重症者が急増しており、WHO(世界保健機関)も上記記事の様に警鐘を鳴らしています。
日本でも、2014年に海外渡航歴の無い人からデング熱が発生し、その後の調査で、代々木公園内にデングウイルスを持った蚊が多数発見されたことから、公園が閉鎖されたこともあります。なんとなく記憶にある方もいるのでは無いでしょうか?

とは言え、日本国内の大部分の地域で、デング熱を媒介する蚊は冬を越せないとされており、実際に2014年の集団感染後、翌年の春にはデングウイルスを保有する蚊は確認されていません。とは言え、温かい屋内環境や地域によっては絶対とは言えないので、警戒は必要ですけどね。

デング熱の症状

蚊に刺されウイルス感染した後、通常2‐7日の潜伏期間を経て、38-40℃の発熱を起こし、頭痛、筋肉痛、関節痛、眼窩痛などを伴います。発症後3-4日程度で解熱しますが、解熱する頃から体幹部に発疹が現れ、四肢や顔面に広がっていきます。基本的にはこの様な経過で自然治癒することが多いのですが、重症化すると、重度の出血や臓器障害を起こし、ショック状態となることもあります。

デング熱の治療法とは

デング熱に特別な治療薬や治療法は存在せず、対症療法をするしかありません。とは言え、痛み止めや解熱剤として使う薬には注意が必要です。一般的に広く使われている、NSAIDs(非ステロイド系抗炎症剤)と言う分類のアスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなどは、血小板機能を弱める作用があるため、出血リスクを高めるだけでなく、意識障害や痙攣などを引き起こす急性脳症(ライ症候群)のリスクを高めるため、使ってはいけません。もし、どうしても使いたい場合には「アセトアミノフェン」を使うことが推奨されていますが、初期症状は高熱だけですので、一般家庭での判断は難しいと思います。

基本的に発熱した場合には、安易に解熱剤を使うのでは無く、体を保温して冷やさない様にした上で、水分を意識的に摂る様にする方が良いですね。発熱自体は、体の免疫機能を高め、病原体の活動を弱め、制圧する為の自然な防衛反応であり、解熱剤を使うことで、自然治癒する過程を邪魔することになります。

デング熱対策として出来ること

デング熱対策として出来ることは、「蚊に刺されない」ことが一番大切です。ですから、都市部において水たまりとなる場所を極力減らす、などの地道な取り組みとともに、蚊が発生する地域で行動する場合には肌を露出させない様にしたり、蚊帳や防虫剤などを利用することで蚊に刺されるリスクを減らすことが大切です。

DEETと言う防虫成分が入っている製品が多いですが、日本国内で売られている製品のほとんどは12%以下ですが、熱帯地域の蚊やダニ、サシバエなどには効果が薄いですので、現地で売られている様な35%程度DEETが入っている製品を使うことが推奨されています。

虫除け成分を避けたいと言う方には、シリコーンオイルを独自配合した、花王の「ビオレガード・モスブロックセラム」と言う製品もあります。シリコーンオイルが肌に止まった蚊の脚に素早く染み込むことで肌にとまっていられなくなり、吸血せずに飛び立つと言う性質を発見したことから作られた製品で、とても興味深いですが、この製品はタイのバンコク限定で販売されているので、バンコク在住の知人がいる、とかじゃ無ければ、入手は難しいと思います。

また、蚊の天敵であるトンボの一種、オニヤンマやアキアカネの模型に蚊などが寄り付かないと言うことを利用した、蚊よけブローチも販売されていますが、絶対に刺されないとは言えないので、やはり他の対策と併用する方が良さそうです。

デング熱にワクチンは存在します

検索をすると「デング熱にワクチンは存在しない」と言う情報もありますが、実は2種類の弱毒化生ワクチンが実用化されています。

CYD-TDV(商品名 Dengvaxia)と言う商品は1年に3回接種しますが、過去にデング熱に感染したことがある人、または感染流行地にいる人にのみ、利用が推奨される特殊なワクチンです。
このワクチンを感染歴の無い人に投与することで、逆に重症化リスクを高める可能性がある、と言うのがその理由となっています。

武田薬品工業が開発したQDENGAは、3ヶ月あけて2回接種するワクチンで、感染歴の無い人に接種しても重症化リスクが無いので、デング熱感染歴の有無に関係なく接種することが可能であり、WHOでも2023年10月から、デング熱流行地域の子供への接種が推奨されています。
感染流行地域内のクリニックに問い合わせると、国によって対象条件などが異なりますが接種することが出来ますので、その様な地域内で活動予定のある場合には、確認しておくと良いと思います。

吸血性節足動物が媒介する感染症はメチャクチャ多い

今回の記事では、蚊が媒介するデング熱についてのニュース記事を題材にしましたが、実は蚊はデング熱以外にも、黄熱、ジカウイルス感染症、マラリア、フィラリア症、日本脳炎などの感染症を媒介します。
他に、サシバエ、ダニ、ノミ、シラミ、ブユなども感染症を媒介することが知られ、世界中で毎年70万人以上が関連疾患で亡くなっていると推計されており、未だに解決できない世界的な問題となっています。

これからの季節には、衛生的な都市環境から離れて、山や海などの自然を体験する人も多いですが、虫対策をしっかりした上で、帰ってきた後は虫刺されが無いかしっかりチェックし、1週間程度は発熱や発疹などがあれば、早めに病院受診をして、上記の様な媒介昆虫のいる場所に行ったことを医師に伝えましょう。
デング熱に有効な治療薬はありませんが、他の寄生虫感染症などには有効な治療薬が存在する病気もありますので、症状に応じた検査を受けておきましょう。

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