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Paul Anka – Rock Swings (2005)

 20世紀のロック・チューンを巧みにイージーリスニングに仕上げた『Rock Swings』は、Paul Ankaにとって約20年ぶりのビルボード200入りを記録するアルバムとなった。おそらく本作の原曲を羅列したプレイリストを作ったとしても、その雑多さゆえに誰も見向きもしない代物になるだろう。しかしAnkaは徹底したパフォーマンスによって、グランジからテクノ・ポップまで完璧に吞み込んでしまった。彼は自身をとり巻いてきたそれまでの音楽シーンを、じつに彼らしいやり方で清算したのである。
 一貫したアレンジではあるが、ジャンルごとの共通点が存在するのは確かで、たとえばBon Joviの「It's My Life」やVan Haleの「Jump」は、アリーナ・ロックの持つ壮大なサウンドがそのまま陽気なスイング感覚に置き換わっている。一方でグランジの二大巨頭であるSoundgardenの「Black Hole Sun」とNirvanaの「Smells Like Teen Spirit」には、90年代の若者に深く訴えかけた絶望や不安といった暗さがさりげなく息づいている。
 だれもが口ずさめるOasisのアンセム「Wonderwall」も、この手のボーカル・ジャズではなかなか無いことだが、一聴しただけで思わず一緒に歌いたくなってしまう。Michael Jacksonの名曲「The Way You Make Me Feel」が収録されているのは、今になってみればしんみりさせる選曲だ。とはいえ2005年当時はまだMichael JacksonとAnkaが「This Is It」を共作していたことなど、世間は知る由もなかったのだが。
 『Rock Swings』はAnkaの以降のキャリアにとって大きなはずみになった。ロック・ファンにもジャズ・ファンにも聴かれるべき一枚である。