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The Sharks – Phantom Rockers (1983)

 ファースト・アルバム『Phantom Rockers』の発表後、ベーシストのSteve Whitehouseが英国ロカビリーの最重要バンドであるFrenzyに加入したため、The Sharksはその前身として人々に記憶されている。しかし、後にキング・オブ・スラップベースとしてその名を馳せるWhitehouseの実力はもちろん、器用なコーラス、R&Bスタンダードを巧みにロカビリーに解釈するアレンジ能力など、本作の聴きどころはとても多い。また、Klingonzのようにどぎついビジュアルで訴えているわけではないが、サイコビリー的なショック・ロックとしての要素も確かに存在している。それはガイコツ、サメ、怪人、そして突如人殺しに変貌する男の子チャーリーである。
 荒涼としたSEから始まる「Skeleton Rock」や不気味なギターサウンドが印象的な「Phantom Rockers」はまさにサイコビリーのプロトタイプと言っていいだろう。当時のライブのハイライトでもあった「Charlie!」や「Crazy Maybe」などは、一見過激だがメンバーの早熟なライティングのセンスを証明している。The Rolling Stonesのヒットで有名な「It's All Over Now」は、原曲のR&Bの味を残しつつも、Whitehouseのスラップがロカビリーとしての存在感をしっかり放っている。
 コミカルな狂気を孕んだ詞はサイコビリーとしての世界観そのものだが、The Sharksはロカビリーの実直で伝統的な演奏とも見事に両立させている。この二つのファクターは一見背反しているようだが、まるでトランプの裏表のように離しがたい要素だ。『Phantom Rockers』は、ロカビリーがサイコビリーへと豹変していく過程を切り取っているのである。