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Buster Pickens – Buster Pickens (1960)

 Lightnin' Hopkinsや晩年のTexas Alexanderの録音にも参加したことで知られるEdwin "Buster" Pickensは、戦後ブルース・ピアノの世界ではまさに生ける伝説だった。運の悪さもあって彼は戦前に録音を残すことはできなかったものの、60年代の初頭にある程度〈外向け〉で〈行儀のよい〉レパートリーの一部がヘリテイジ・レーベルに記録された。プレス数が100枚にも満たないオリジナル盤は実物を見ることすら困難である。さらに、Pickensはテキサスにある騒々しい飯場街における演奏スタイルや、冷たい夜風にさらされながら旅をする悲哀を知っていたブルースマンの最後の一人でもあり、そういった意味でも本作は非常に貴重な一枚といえる。
 テキサス州を通っていたサンタフェ鉄道を歌った「Santa Fe Train」や「Santa Fe Blues」の鮮やかなピアノのタッチと、「Ain't Nobody's Business」や「Colorado Springs Blues」といったロウダウンなスロー・ブルースの生み出すコントラストはもはや圧倒的だ。「Hattie Green」、「Jim Nappy」など、バレルハウス・スタイルとしてしばしば比較されるピアニストRobert Shawと被っている持ち歌も多いが、興味深いことに聴き比べてみるといずれも全く印象が違って感じられる。「Ma Grinder No. 2」も一聴の価値ありだ。
 Pickensは本作の録音から数年のうちに、わずかな小銭をめぐる口論がもとで酒場で射殺された。そして、その悲劇的な事実でさえも彼のブルースマンとしての伝説性により拍車をかけることになったのである。