見出し画像

Illinois Jacquet – Illinois Jacquet Flies Again (1959)

 キング・オブ・ザ・ホンカーズと言われてまず誰もが思い浮かべるのはBig Jay McNeelyだろう。しかし、その豪快な演奏スタイルを最初に開拓したのは、Lionel Hamptonのオーケストラで活躍した時代のIllinois Jacquetである。
 そのパワフルな印象ゆえの葛藤を抱えることもあったJacquetだが、60年代にはオルガンを取り入れたソウル・ジャズのスタイルを確立する。本作はそれに先駆けるように古きよきビッグ・バンドの時代を決算した一枚。忘れられがちなスインガーとしてのJacquetがのびのびとした演奏をしている、という意味でもこのアルバムは重要だ。
 Jimmy Mundyの作曲による「Sleeping Susan」(この曲は後年にGene AmmonsとSonny Stittが見事なカバーを発表している)や、ラテン風の導入で始まる「Potpourri」は、大編成らしくトランペットやギターと見事に調和した包容力のあるブロウを展開する。うっとりするようなバラード「I Don't Stand A Ghost Of A Chance With You」の色気には思わずため息が出てしまう。全体的なファンキーさは他のアルバムに譲るものの、Jacquetらしさが最も表れているのは、R&Bのリズムが気持ちいい「Teddy Bear」や「Bottoms Up」だ。特に後者はJacquetのオハコで、Hampton時代の名曲「Flying Home」における定番ソロを思わせるフレーズが聴きどころである。
 憂鬱を消し飛ばすJacquetのサックスは、ジャズはもちろん後のロックンロールにも恩恵を与えた。もしもJacquet無しにブラック・ミュージックが発展していたとしたら、きっとBruce Springsteenの横にClarence Clemonsはいなかっただろう。