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Paul Smith Quartet – Fine, Sweet And Tasty (1954)

 長年にわたってElla Fitzgeraldのピアニストを務めた名手として、Paul Smithの名はジャズ・ファンに深く記憶されている。Smithの初期の傑作である『Fine, Sweet And Tasty』は、1954年にロンドンという名前のイギリスのレーベルなどから10インチで発売された。だがもともとは西海岸の名門タンパへ向けて録音したセッションであり、後年に同レーベルから拡大盤が発表されている。
 本作の魅力はなんといってもSmithの洒脱なピアノのメロディと、Tony Rizziとが生み出すなんとも軽快なアンサンブルだ。Rizziはエレキ・ギター黎明期のヒーローで、(ほとんどクレジットされたことはないが)Doris Dayの名唱を巧みなチョーキングで彩っていた。Nat King Coleの書いた「Fine, Sweet & Tasty」では、対照的な手数のピアノとギターの応酬が、タイトルの通りに聴く者の共感覚を刺激する。ラテン風のリズムに乗せながらもどこか物憂げな「September Song」は、一日の疲れを清算するにはもってこいの一曲だ。
 特に美しいのは「All For You」で、こちらもやはりColeのカバー。絶妙なヴァイブも交えて、お互いのメロディが干渉なしに最高のレベルで引き立てあう見事な演奏は、Tomppabeatsのようなジャジー・ヒップホップのプロデューサーがサンプリングしていてもなんら驚きはない。
 Smithはキャピトルなど様々なレーベルに名盤を残しているが、最もシンプルな美しさを求めるなら、本作は外せない一枚だ。