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The Three Sounds – Vibrations (1966)

 もしもあなたが名盤『Introducing The 3 Sounds』ではなく、この『Vibrations』でThe Three Soundsの音楽に初めて触れるとしたら、B面の「Django」を最初にかければ、彼らの持ち味である親しみやすいサウンドとその中に漂う確かな気品をより深く味わえるかもしれない。懐かしの映画を愛する人ならば、ラストを飾る名曲「Charade」でもよかろう。
 彼らにとってブルーノート・レーベルへの復帰第一作となった本作は、Jimmy Smithを意識して導入したオルガンに彩られるファンキーなA面と、初期のオーソドックスなスタイルが健在であることを証明するB面で構成されている。1曲目の「The Frown」はオープニングからGene Harrisによるオルガンとピアノのオーバーダブを駆使し、一人二役の大胆なデュエットを聴かせることでリスナーがあっと驚く仕掛けが施されている。ダンス・ホール向けの底抜けな楽しさでは、新ドラマーのKalil Madiによる8ビートがうなる「Yeh Yeh」にまさるものはない。また、「Let's Go Get Stoned」(当時のRay Charlesによる最新ヒットだった)のようなゆったりとしたブルースの抑揚が、こうした熱いナンバーの中に挟まっているのも憎い演出である。
 彼らが他レーベルで培ってきたポップ路線と対照的な「The Lamp Is Low」が、A面で熱く火照った心身をいい具合にチルアウトさせてくれる。もともとヴァイブとピアノの掛け合いが聴きものだった「Django」だが、Harrisはピアノ・トリオにおける最適解のような完璧なアレンジで弾きこなしてしまう。
 時代を反映した刺激的なサウンドと、50年代の伝統的なブルーノートの香りが同居した『Vibrations』は、実は彼らの個性と実力が最も忠実に反映されたアルバムの一つでもある。