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Steamhammer – Speech (1972)

 Steamhammerのラスト・レコードとなった『Speech』は、かつて彼らのシングル「Junior's Wailing」がヒットした実績のあったドイツでのみ発売された。ボーカルのKieran Whiteが脱退した直後だったこともあり、Martin PughのギターとLouis Cennamoのベース、そしてMick Bradleyのドラムからなる三つ巴のインプロヴァイゼーションを基調にした3つの大曲で構成されているのだが、本作の制作には様々なドラマがあった。
 クレジットではスペシャル・サンクスにとどまっているものの、『Speech』のプロデュースとバッキング・ボーカルにはKeith Relfが関わっていたといわれている。当時プログ・ロックに傾倒しつつあったRelfは、後にPughとCennamoとArmageddonを結成するのだが、「Penumbra」冒頭のアルコ・ベースのソロに続く激しいリフは、アルバム『Armageddon』に収録された「Buzzard」という曲に受け継がれた。
  同時に悲劇も起こっている。レコーディング後のアルバムの編集作業の段階でBradleyが白血病で亡くなってしまう。後任にJohn Lingwoodを迎えたバンドはAxisと名前を変えたりしたが、ボーカリストの穴を埋めることはできず75年に解散することになる。
 1作目の『Reflection』がややアシッドなブルース・ロックだったことを踏まえると、『Speech』のサウンドは実験に実験を重ねてきたUKブルース・バンドがたどり着く一つの臨界点を示している。「For Against」で聴かれる複雑なギターのアンサンブルや、Ginger Bakerをほうふつとさせるジャズ・ドラムのソロはもちろんそうなのだが、一番聴く者を圧倒的するのは、やはり3人からなる力強いインタープレイの数々だ。