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Ray Bryant – Alone At Montreux (1972)

 夢のようなモダン・ジャズの黄金時代はとうに過ぎ去った。かつて独特なスイング風の美学で注目されたRay Bryantも、60年代の後半にはクラブ・シーンで後に再評価されるようになるファンキーなアルバムを、カデット・レーベルにいくつも吹き込んでいた。そんな彼にとって最もドラマチックで感動的なステージとなったのが、1972年6月23日のモントルー・ジャズ・フェスティバルだ。しかしその実、Bryantの出演は当日に会場に現れなかったOscar Petersonの代役であり、しかも完全なピアノ・ソロのライブが彼にとってまったく初めての試みだったというから驚きである。
 注目と重圧の中で繰り広げられるブルースは、軽快というよりはむしろ豪快といっていい。Bryantは、「Gotta Travel On」や「After Hours」といったフォーク、ブルースの古典曲で自身の持ち味であるパワフルな左手を用い、ずっしりとした低音と新鮮な個性を生み出している。メイン・テーマで観客が思わず喝采を贈ったのは名曲「Cubano Chant」。これはトリオ時代の有名なナンバーだが、本作では5分間のスリルに満ちた、実に美しいソロで構成されている。
 こうした熱気と静謐さの作り出す効果的なコントラストは、本作の大きな魅力となった。例えばの付くくらいに定番風に仕上がったブルース曲「Little Suzie」の後に、まるで一種の清涼剤のような趣きの「Until It's Time For You To Go」を演奏するところ、もしくは「Blues #3」と「Willow Weep For Me」の2曲をまったく自然な感じでつなげてみせるところにも、それはよく表れている。
 このライブ以降ソロ・ピアニストとしての評価を格段に高めたBryantは、パブロを中心に名作を発表した。