Yank Rachell – Yank Rachell (1973)
かつて"Sleepy" John Estesらとともに戦前のブルース・シーンを彩ったYank Rachellは、Estesのバンドを離れたあとは料理人として安定した生活を送っていた。ブルー・グース・レーベルに残された名盤『Yank Rachell』は、戦後にブルースマンとしてふたたび脚光を浴びるようになったRachellが、自らの古い記憶をたどるように歌をつむいでゆく、優れた音楽のドキュメントでもある。
伝説の人物であるRachellをもてなすために、ブルー・グースは録音に際して優れたアシスタントとしてギタリストBackwards Sam Firkをあてがった。カントリー・ブルースに強くインスパイアされたFirkは、当時Rachellがすっかり忘れていた昔のレパートリーを思い出すための、いわば呼び水のような役割を果たしている。30年代に録音されることのなかった「Wadie Green」などは戦後になってから復活したもので、Estesとのセッションでも披露されたことがあるナンバーである。陽気でリズミカルな「Tappin' That Thing」のプレイは彼の真骨頂の一つで、有名曲「Diving Duck」ではトレードマークであるマンドリンとFirkのギターが信じられないほど美しいハーモニーを生みだす。また、ジャケットでもわかる通りRachellのギタリストとしての側面にスポットしているのも本作の特徴で、例えば「Matchbox」はRachellの巧みなギター・テクニックを証明する一曲といえる。
だが大事なのは、ブルー・グースのセッションは彼のカントリーな一面を映したに過ぎなかったということと、Rachell自身は実のところ現代風なアプローチでアルバムを作りたがっていたことだった。デルマークやブラインド・ピッグからエレクトリック・スタイルの作品も発表されるようになったのは80年代に入ってからで、器用さ、もとい順応性の高さにおいては彼に比肩する者はいないのである。