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Neil Young – Homegrown (2020)

 1972年のアルバム『Harvest』は大ヒットを果たしたものの、そこから数年間、Neil Young自身には別れと孤独がつきまとい続けた。Crazy HorseのギタリストDanny WhittenとローディのBruce Berryの死、そしてCarrie Snodgressとの夫婦関係の悪化はYoungを苦しめたが、皮肉にもそうした辛い経験が、当時の彼の詞とサウンドに途方もなく美しい抒情をもたらしてもいた。
 『Homegrown』は、本来なら『On The Beach』と『Zuma』のあいだに発表されるはずだったアルバムである。録音はもちろんジャケットの意匠まで完成していたにもかかわらず、Youngは土壇場で『Tonight's The Night』を代わりにリリースすることにした。その後本作は幻のアルバムとして却って有名になり、45年を経た2020年にようやく陽の目を見た。
 Youngが及び腰になった理由のひとつは、私的すぎた歌詞とそのネガティブさにあったと言われている。確かに「Separate Ways」にはSnodgressとの壊れかけた結婚生活を思わせるし、心に開いた穴をヘヴィなサウンドで埋めようとする「Vacancy」はとても痛々しい。アルバムはこうした赤裸々な言葉に貫かれており、「White Line」で物悲しく響くYoungのハープまでもが、聴く者の心を強く打つだろう。
 一方、本作にはカントリー・ロックやブルースの持つ素朴な魅力もある。77年の『Decade』に収録された名曲「Love Is A Rose」は今回オリジナル版で聴けるようになり、「Homegrown」はYoungのハードなギター以外は実に落ち着いた仕上がりになっている。「We Don't Smoke It No More」は詞もスタイルもシンプルに徹したブルースで、『On The Beach』に入っていた皮肉たっぷりの「Vampire Blues」との違いは誰の耳にも明らかだ。
 質の高い内容にも拘らず、当時のインタビューではYoungに〈誰も聴くことはないだろう〉とまで言われた『Homegrown』。演奏の面でははるかに荒み切っていたはずの『Tonight's The Night』が選ばれたことは、まさに運命のいたずらとしか言いようがない出来事だった。だが、これがなければYoungがグランジの源流としてかくも敬愛されることは無かっただろう。