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Joe Pass – Virtuoso (1974)

 たったひとつの楽器で1枚のLPを作り上げるのは並大抵のことではないだろう。それがギターならばなおさらだ。しかしJoe Passは繊細かつ完璧なテクニックと、それをつまびらかにし過ぎない奥ゆかしいプレイによってそれを成し遂げた。
 20代のキャリアを麻薬でほとんどフイにしていたPassは、本作以前はトリオやカルテットで力を発揮する遅咲きの実力派というイメージを持たれていた。その中には『For Django』や『Simplicity』といった美しい作品もあったが、全編をギター・ソロで構成した『Virtuoso』の発表は彼自身にとっても大きな転機となり、同じコンセプトのアルバムが何枚も作られるようになっていく。
 「Blues For Alican」を除いて、収録された曲目の多くが広く知られるスタンダード・ナンバーであり、それが逆説的にPassのスタイルの個性や、本作の構成の特異性を浮き彫りにしている。「Cherokee」における見事な早弾きには誰だって息をのむはずだし、ぞくっとするようなフレーズが次々と飛び出してくる「How High The Moon」を聴けば、これよりも豊かな5分間など他にあるわけない、とさえ思えてくる。
 また、本作の滋味は「Here's That Rainy Day」のような弾きすぎない美学にも存在している。〈ヴァチュオーゾ〉とは音楽に限らずあらゆる巨匠を讃えるために使われるイタリア語なのだが、ことジャズ・ファンに限って言えば、ヴァチュオーゾとはJoe Passその人なのである。