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Pink Floyd – The Piper At The Gates Of Dawn (1967)

 The Pink Floydの長いバンド生命の中でSyd Barrettの在籍期間はたった2年にも満たなかったが、彼の生み出したサウンドの強烈な印象は、薄れるどころか死後ますます濃くなっている。それは、近年Barrett期の音源が公式で次々と発掘されるとともに、彼の才能の全貌が、スタジオの録音だけでは伺い知れないほど深淵なものだったと気づかされるからだ。
 とはいえ、この『The Piper At The Gates Of Dawn』がサイケデリック・アートの金字塔である事実は揺らぐことはない。曲のモチーフは様々だが、それを描くサウンド表現の起点は全てLSDであり、宇宙と大地の間を自在に往復するかのように様々な事象を偶発的に描いていく。児童文学に影響を受けたBarrettの作る詞は無邪気そのもので、突飛なサウンド・コラージュや歪んだギターと呼応して狂気じみた世界を生み出している。
 SEを効果的に利用した「Astronomy Domine」や、ステレオ・ミックスの恩恵を完璧な形で描き出した「Interstellar Overdrive」はスペース・ロックの初期の実践例だ。特に後者は、霧のようにぼやけたRichard Wrightの妖しいオルガンと、美しさと野蛮さを兼ね備えたBarrettのギターの完璧なバランスで成立している。パニックじみた2部構成の「Take Up Thy Stethoscope And Walk」はRoger Watersの初期の作品であり、Barrettの狂気にやや埋もれていると思われがちだが、後半のフリーク・アウトした演奏は驚異的だ。
 「Lucifer Sam」の表現豊かな演奏力はロック・バンドとしての実力であり、アルバムを締めくくる「Bike」のコラージュは、サウンド・クリエイターとしての先進性の表れでもある。後の彼らの作風とは全く異なるアルバムだが、聴けば聴くほどBarrettの闇にはまっていく作品だ。