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Johnny Dyani Quartet – Mbizo (1982)

 南アフリカのアパルトヘイト政策に嫌気がさしヨーロッパへ移住したベーシストJohnny Dyaniは、自身のミドルネームを冠した傑作『Mbizo』をダブル・サックスによる一風変わったカルテット編成で録音した。Dyaniの盟友であるDudu Pukwanaは南アフリカ時代にThe Blue Notesというグループで演奏を共にしていたサックス奏者であり、彼と対峙するようにフロントを張るのはアメリカ生まれのEd Epsteinだ。こうした黒人と白人を混合したバンドを組むのでさえ、南アフリカでは壮絶な反発を受けることだった。
 カテゴリこそフリー・ジャズだが、伸びやかなベースとサックスの明るいアンサンブルが楽しい「Dorkay House」や、Dyaniのアルコがスインギーな感覚を生む「Musician's Musician」は、実にみずみずしいポスト・バップだ。一方、マイナーで陰鬱な雰囲気を湛えた「House Arrest」は、メインのテーマこそThelonious Monkの「Ask Me Now」のフレーズを思わせるが、サックスの攻撃的な音が重なり合いながら増幅していくさまは、Charles Mingusのバンドが持っていた巨大なエネルギーをほうふつとさせる。
 Mingusにささげられたクライマックスでは、Churchill Jolobeのパーカッションも相まって作中で最も呪術的で緊張感のあるサウンドに仕上がっている。思えばMingusも、かつてRed Norvoと組んでいたバンドを人種間のしがらみによって脱退したという。Dyaniの彼へのシンパシーに、単なるベーシストの肩書きだけにとどまらないものがあってもなんら不思議なことはない。